真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「欲望に狂つた愛獣たち」(2014/制作:加藤映像工房/制作協力:VOID FILMS/提供:オーピー映画/脚本・監督:山内大輔/プロデューサー:加藤義一/撮影監督:田宮健彦/助監督:江尻大/撮影助手:河部浩一郎/監督助手:奥村裕介/制作:和田光沙/編集:有馬潜/特殊メイク:土肥良成/音楽:山内大輔/協力:石谷ライティングサービス・三和出版『マニア倶楽部』編集部/出演:みづなれい・春日野結衣・里見瑤子・津田篤・世志男・サーモン鮭山・岡田智宏・鎌田一利・西谷雄一・小鷹裕)。ギリギリまで尺を本篇に注ぎ込まうとした節も酌めぬではないものの、一枚画クレジットは如何なものか。何が何だかサッパリ判らん、用を成してゐない。
 加藤映像工房とVOID FILMSと山内大輔のクレジットを順々に大書で叩き込んで、ソープランド「新世界」。十年選手の源氏名・瑠衣こと杏子(みづな)が、不愛想といふか生気を感じさせない中年客(鎌田)に性的サービスを施す。聞き手の存在を予想させる、杏子のモノローグが全篇を貫く。彼氏について、“小説とか、書いてる人でした”と紹介したタイミングで、何故ポスターと同じ字体でないのか理解出来ないダサくてヌルいタイトル・イン。“文学デ世界ヲ変革セヨ”、威勢がいいのか虚勢なのかはさて措き貼紙が躍る一室。杏子と、作家志望の要はヒモ・春樹(津田)の情事。激しく突かれ「ヘンになつちやふ!」と叫ぶ杏子に対し、春樹が「ヘンになれよ、世界が変る」と応へるのはピンク映画的な濡れ場ならではの遣り取り。事後、恐らく珍しく、春樹からすき焼きを食べたいとリクエストした翌日、買物を済ませた杏子がウキウキと帰宅すると、“ヒモ男ヒモニテ死ス”の名文句を残し春樹はスーサイドしてゐた。
 配役残り、堅実な娯楽映画はおとなしく回避か放棄するに如くはない、演者が満足に使ひこなせない関西弁といふ地雷をまんまと踏んでみせる世志男は、春樹死後の杏子に「ジュリア・ロバーツにならへんか?」、「わしやあリチャード・ギアや」と箆棒な文句で求婚する、三年越しの指名客・鵜飼。終始白石加代子ばりにキレッキレにキレ倒す里見瑤子は、タワーマンションに居を構へる鵜飼邸のメイド・ミサ。鵜飼との、傍目には人も羨むセレブ生活。家事は全てミサ任せといふ次第で暇を持て余した杏子は、春樹と暮らした、かつての旧居を見に行く。岡田智宏と春日野結衣は、その部屋の現住人・圭介と女子高生?の妹・エリカ。サーモン鮭山は、多分廃墟方面では有名と思しき物件にて、援助交際に見せかけたエリカに半殺しにされ金を奪はれる男・小金井。当初は見るから怪しげな建物に二の足を踏んだ小金井が、先を進むエリカのパンチラに誘はれる件、「待てー☆」といふ台詞を意識的なクリシェとして発声させればサーモン鮭山は界隈で随一。一方、一旦ボコられた小金井が、再起動後改めてエリカに止めを刺される件に際しては、傍で見てゐた杏子が特に何したやうにも見えないゆゑ、エリカが杏子に助けられたと恩義を感じるシークエンスが十全に成立してゐない。後にもう一人登場するカモは、初めから血塗れに加へ画も寄らず特定不能。二周して何とか拾へた西谷雄一と小鷹裕は、逆襲の小金井配下。
 第27回ピンク大賞に於ける最優秀作品賞と、里見瑤子の助演女優賞受賞以前に、映画を撮ること自体が大いなる衝撃とともに話題を呼んだ山内大輔電撃大蔵参戦作。代りなり報復といふ訳でもあるまいが、旦々舎とオーピーの関係が修復された今なほ、オーピーは山邦紀に任せた格好で、工藤雅典にせよ松岡邦彦にせよエクセス本隊がいまいちピリッとしない、デジエクで浜野佐知が一人気を吐く戦況も重ねて興味深い。今岡真治までもがオーピーに草鞋を脱ぐだなどと、一昔どころか一年前でも考へられなかつた無茶苦茶な群雄割拠の中、城定秀夫と友松直之は次は何時何処で動くのか、田中康文は指を咥へて茶を濁してゐるのか、そして森山茂雄はこのまゝ沈黙を守り通すつもりなのか。なかなかどうしてこの期に及んで、二十年今際の間際が続いてまだまだピンクが面白い。
 映画の中身に話を戻すと、凡そこれほど当てにならない代物もさうさうないとはいへ、ツイッター上での賑やかな評判に、俄然期待を膨らませ小屋の敷居を跨いだものである。それはそれとしてそれなりに、安定してゐた生活が恋人の自死を契機に一転を通り越し暗転。堕ちた地獄の底をも、突き抜かんとするソープ嬢の物語。蓋を開けてみると確かに、撲殺、眼球体外離脱、文字通りの爆死に限りなく虐殺に近い拷問と、安普請も考慮すれば寧ろ驚異的なレベルで本格的なスラッシャー描写。おまけに、木に竹を接ぎかねない正直藪蛇なサイバーパンクまで飛び出すとなると、単純な裸映画の枠内には到底納まりきらない問題作であることはひとまづさうゐない。クソみたいな世の中をブッ壊すなるエモーションに関しても、本来は万感の共鳴を以て激賞したいところではある。とはいひつつ、さうはいひつつ。女の裸と惨たらしい死体の山を淡々と積み重ねた末の、ラストに起こる“奇跡”とやらが如何せん心許ない。さんざ飛び道具を繰り出した挙句の肝心要で飛翔力を失するとあつては、カタルシスには甚だ難く、結局春樹やテロリストを自任する圭介・エリカの義ですらなく偽兄妹が振り回し、やがて杏子も感化されるに至る革命思想も、昨今の鬱屈と閉塞した世情から半ば自動的に惹起される、怠惰か無力な厭世観あるいは終末論に親和もしくは迎合した精々ニュアンス程度にしか思へない。よくいつても教科書通り、悪くいへば教条主義的ともいへ、国沢☆実の「特務課の女豹 からみつく陰謀」(主演:伊藤りな)方がこれで案外、革命映画的にはまだしも形になつてゐるやうに見えたものである。御門違ひの誹りをおとなしく被弾するほかないのか、それとも、ほかならぬみづなれいの前戦につき想起も許されるのか。「あぶない美乳 悩殺ヒッチハイク」(2011/監督:森山茂雄/脚本:佐野和宏)の、エンド・クレジットに跨る超絶にして空前のラスト・シーン。何一つ変らず、誰一人救はれない絶望的なロード・ムービーの果てに、本多菊次朗から授けられた魔法で、みづなれいの心が世界を包む奇跡。「あぶない美乳 悩殺ヒッチハイク」が起こしたエクストリームなロマンティックと比べれば、今作の偶さかな延命如き、そもそも奇跡の名に値するのか、単にミサが仕損じたに過ぎない。ガラケー随分と頑丈なんだなといふツッコミ処はあへて呑み込むとして、ザクッと一言で片付けると然程でもない一作。露店感覚で並べられた物騒な意匠に凄いヤバいと騒ぐだけならば、それは子供騙しといふ奴ではなからうか。

 ここだけの仕方のない話、春日野結衣を波多野結衣と名前を混同してて、顔が全然違ふな!?と激しく面喰らひながら観てゐたのは内緒だ。


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