真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「逆セクハラの危険 私は、変態常習者!」(2000『口説き屋麗子 火傷する快感』の2009年旧作改題版/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/脚本・監督:佐々木乃武良/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:佐藤文男/照明:藤塚正行/助監督:竹洞哲也/編集:フィルムクラフト/監督助手:内藤慈/撮影助手:竹俣一・稲葉茂/照明助手:長田はるか・平岡えり/ヘアメイク:パルティール/タイトル:道川昭/出演:沢木まゆみ・葉月蛍・麻生みゅう・なかみつせいじ・岡田謙一郎・加藤智明)。出演者中葉月蛍は、本篇クレジットから略字。
 鳴る目覚ましを、未だ眠る南条麗子(沢木)の代りに既にほぼ着替へも済ませた、夫・俊夫(加藤)が止める。悩ましく横たはる沢木まゆみの寝姿だけで、早くも煽情性はレッド・ゾーンだ。俊夫を送り出した麗子は、興信所から次の標的を指令する便りを受け取る。何某かの仕事をしてゐること自体はオープンのやうなので、俊夫に対しては如何に言ひ包めてあるのか、麗子は依頼人の配偶者の不倫相手を寝取ることにより浮気をやめさせる、“口説き屋”といふ秘密の稼業を持つてゐた。近作にいふ復縁屋とは方法論が若干異なり、直截には、矢張りいはゆる別れさせ屋に当たる。麗子の今回のターゲットは、依頼人の夫・佐伯明(岡田)の部下兼不倫相手・楠田美帆(麻生)。投資のセールスを装ひ美帆に接近した麗子は、美帆に両刀の気配を感じ取ると、男の口説き屋を新たに手配するのではなく、自ら美帆を攻略することを思ひ立つ。ここの舵捌きに於いて、百合シーンの愉悦を導入するといふこと以外に、更にもう一名別の男優部を連れて来なくとも事済む、といふ利点とを両立させる辺りは、さりげなくピンク映画固有の論理として秀逸。そもそも、美帆をオトすのにどうして男の口説き屋が初めから出撃しないのか?などといふ疑問はひとまづ禁句だぜ。麗子は最中にマスをかく男のフラッシュ・バックをちらつかせつつ、麗しく美帆を陥落させる。美帆は佐伯を捨て会社を辞めるが、当然の如くその頃麗子は、手の平を返すやうに姿を消す。
 美帆撃墜の報酬に五十万を得て御満悦な麗子が、俊夫の入る風呂に割り込む羨ましい限りの夫婦生活を経て、次なる獲物は、精神科医の甲斐靖彦(なかみつせいじ/千葉誠樹のアテレコ)と、論文執筆用のセカンド・ハウスにて不自然極まりなくも同居する女・島杏子(葉月)。麗子は今度は、化粧品の訪問販売員に扮し杏子に近付く。ここは正直、依頼人の妻が自宅に連れ込む間男が甲斐、といふ形の方がより相当であるのではなからうかとの疑念は拭ひ難い。二度重なると流石に、不自然に工夫に欠けよう。別邸に乗り込んだ麗子は早速、「無意識下の行動に於ける幼児期の影響」とやらを研究テーマとする甲斐の迎撃を受ける。心の奥底まで見通すやうな甲斐の眼差しに動揺を覚えながらも、プロフェッショナルとしての強い自負も豊かな胸に、麗子は甲斐との対決を決意する。
 妖艶と評すには若干若いが、完成された美貌を誇る全盛期の沢木まゆみと、性の深遠を自在に統べる魔王然としたなかみつせいじとの激突は、スリリングで抜群に見応へがある。“全盛期”といつたが、実は沢木まゆみにとつては今作がピンクデビュー作で、2002年までの―ピンクでは―短い実働期間は、即ち全て全盛期にも思へてしまふのだが。たて続けられる点も予め基本設定に組み込まれた濡れ場は、ダイナミックな構図を、更に美麗に押さへるハイ・スペックな撮影に加速される。なほ且つクロス・カウンターを先に撃つた方が負けるドラマは、女の裸を差し引いた素面の劇映画としても素晴らしく出来てゐる。ここは手放しで激賞したいところではあるのだが、唯一の穴は俊夫役の加藤智明の、どうにもかうにも心許ない弱さ。とりあへず俊夫出演場面に関しては、どうしても画面が緩む感は禁じ得ない。とはいへ桃色サスペンスの傑作として、佐々木乃武良を語る上でも、沢木まゆみを語る上でも外せない必見作といへよう。

 その他出演者として、主には杏子と絡む公園の痴漢男が誰なのかは不明。背格好が近いとはいへ、服装とアングルとで認定を回避した岡田謙一郎、ではないやうに見えた。話は変るがところで頼むから、新題はもう少し真面目に考へてつけて呉れ。折角の映画なのに、あまりにもぞんざいであんまり、語呂からへべれけである。


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