「俳句」といえば「古池や・・」が出てくる程度で、
そっち方面にはとんと疎い閑猫ですが、
季語とか、「二十四節気・七十二候」とか好きです。
本日は歳時記の話。
これが、古池じゃなく、古い古い本で、もうぼろぼろ。
なにしろ昭和9年初版、昭和28年増訂再版発行、という
「虚子編 新歳時記」(三省堂)。
つまり、初版の時点では「新」しかった、ということなんですが、
昭和9年っていえば今から77年前なので・・。
もとは父の本棚にあった本です。
わたしの知る限りでは、父は俳句はやっていませんでした。
わたしは小学生の頃から、なぜかこういう古本が好きで、
とくに旧仮名、旧漢字だーいすき!という変な子だったので、
この歳時記と、同じくらい古い牧野植物図鑑、
それにもっと古い文語体の新約聖書などを貰い受け、
コッソリ宝物にしていたのでした。
さて、ふとしたことから、その古い「新歳時記」の6月をめくってみると、
さつき、花菖蒲、あやめ、杜若などの花々から始まって、
「短夜」「競馬」「初鰹」と・・。
競馬?
京都上賀茂神社の神事の競馬が新暦6月5日に行われることから、
競馬は夏の季語になってるんだとか。
知らなかった。
どんどんめくっていくと、植物の名、鳥や虫の名、
「梅雨」「風薫る」など気象に関する言葉、
それに「田植」「鵜飼」など人の暮らしにかかわる言葉が、
縦糸、横糸となって織り上げられた6月のタペストリー。
ですが、いちいち見ていくと、「え?」と思うものが少々。
たとえば「革布団」。
革の座布団で、夏季専用のものなんだそうですが、
これはちょっと、見たことも聞いたこともありません。
昔の「いいお家」には、あったのかしらん。
そもそも、革製品って、夏向きかなあ?
それから、「蜻蛉」「蟷螂」「蜘蛛の子」はいいとして、
「へ」から始まり「び」で終わる長ーいお方とか、
家の中に出没する足の速いの、遅いの、多いの、などなど、
いわゆる不快害虫の皆さん方のほとんどが、6月の季語。
「蚤」の説明には、こんなことが書いてあります。
「蚤は憎い、が南京蟲や虱などと比べるとまだいゝ方である。
一寸愛嬌者で、夏の夜の跳梁も笑ひくらゐですまされる場合が多い」
虚子さぁん、それ、ほんとかい^^;
で、さらにめくって7月に入ると、
「え? これも?」という季語が続出。
汗疹、脚気、暑気あたり、水あたり、夏痩せ、寝冷え、日射病。
いや、そのへんまでは、まだわかりますが、
コレラ、赤痢、マラリヤ、霍乱。
霍乱というのは、「鬼のカクラン」という成句でしか知らない。
昔はヒトもかかる病気だったらしい。
それより、マラリアなんて、日本にあるの? と思ったら、
昔から「おこり」「わらわやみ」と呼ばれる国産マラリアが存在し、
終戦後は南方から持ち込まれて流行した時期があったとか。
蚊が媒介するんだから、たしかに、夏のものではある。
しかし・・そんなのを季語にして俳句を詠むかなあ。
妻も子も婢もマラリヤやいかにせん 高峰
いかにせん・・って言われても、ねえ。
その後、どうされたでしょうか、高峰さんご一家は。
いまだったら、夏の季語に「冷房」と「冷やし中華」は
当然入っていそうだけれど、虚子さんのには、どちらも見当たらず。
あ、扇風機なんて、どうだろう・・と思ったら、
これは意外と古く、明治の頃からあったようで、
「電力で風を起こさせる器具で、普通電力機に真鍮製の
翼を取附けて廻轉せしめるやうになってゐる」
真鍮製、だったのか。
じゃあ、冷蔵庫は?
これも載っていました。が、
「家庭用冷蔵庫は普通小形金庫型木造のものが多く・・」
昭和29年当時は、まだ電気冷蔵庫は普及しておらず、
金庫みたいな箱に氷を入れて冷やしていたのね。
わたしは、「歳時記というのは古いもの」と思い込んできたため、
じつはこの本以外のものを知らないのですが、
最近出ている歳時記は、どれくらい違うのか、気になってきました。
気象も動植物も伝統行事も、数十年くらいでは変わらないでしょう。
バレンタイン、エイプリルフール、ハロウィンなどは、
たぶんこれ以降に追加されているはず。
母の日、父の日もそうですね。
戦前の初版から、戦後の増訂版までの20年間に変わったものより、
その後の変化のほうがもっと大きいことは想像がつきます。
新しいものがふえると、歳時記はどんどんぶあつくなってしまう。
だけど、テレビ、電子レンジ、パソコンにスマートホン、
どれをとっても季節には無関係だし・・
これから先、季語というのは、それほどふえないんだろうな。
「節電」は、夏の季語に、もうなっているかしら。