今年最初の新刊です。
『かえっておいでアホウドリ』(絵/鈴木まもる ハッピーオウル社)
ちょっと中を見るのは→こちら
珍しくノンフィクション絵本です。
『りんごのおじさん』では無農薬栽培に挑戦したおじさんがモデル、
次はアホウドリ保護に取り組んだ人を…ということで、
本来は「人」シリーズになるはずの企画でした。
が、その後いろいろと紆余曲折がありまして、
最終的に「人」より「鳥」を中心にすえた絵本となりました。
りんごのとき、絵を描くMは青森まで取材に行きました。
しかし、今回の舞台は、鳥島。
日本の南の海上にぽつんと浮かぶ小さな無人島で、
管轄は東京都、なのですが、ものすごく遠い…だけでなく、
保護区域になっているため、勝手に上陸することができません。
アホウドリの調査に行く研究者に同行するしかなく、
そうすると調査が終わるまで何週間もずーっと帰れない。
しかも、島には電気もなければお風呂もない(笑
というので、残念ながら、現地取材はあきらめました。
アホウドリについては、大人向きの専門書から、
子ども向きに詳しく書かれた科学読み物まで、
すでにたくさんの本が出ています。
今回、絵本をつくるにあたって、わたしの役目は、
「幼児にもわかる文章にすること」でした。
そのため、鳥のことを書くとき必ず出てくる用語
…繁殖期とか産卵とか営巣地とか習性とか保護とか…
を一切使わず、すべてひらがなで、やさしい言葉に言い換えました。
具体的な年号や数値もなるべく入れませんでした。
結果として、科学的正確さに欠ける、という批判は、
当然あるかもしれません。
だけど、科学的って、何だろう。
まだ自分の年齢を「両手の指で」数えられる子どもたちには、
正確なデータが数字で並んでいることよりも、
こんな鳥がいるんだ、こういうことがあったんだ、
という事実に触れることが、まずは大事じゃないのかな。
と思ったわけです。
さて、ここで、アホウドリという、この鳥の名前について。
昔、日本人が初めてこの大型の海鳥を見つけたとき、
鳥が人を見ても逃げようとせず、たやすく手づかみでとれたので、
(しかし食べても美味しくなかった、と思う、たぶん)
阿呆鳥とか馬鹿鳥とか呼ぶようになった…
というのは鳥に対して大変失礼な話でして、
(そんな俗称を採用しちゃった鳥類学者も、なんだかなあ)
今さらながら、どうにかならないものでしょうか。
アホウドリ研究の第一人者である長谷川博教授は
古名のひとつ「沖の太夫」を使うことを提唱されていますが、
学術的な名称というのは、そう簡単には変えられないようです。
で、ここからは例によって「閑猫説」になりますが…
本来、これは「阿呆」ではなくて
「鵬(ほう)の鳥」だったのではないか。
大鵬という有名な力士がいましたが、その鵬ですね。
Wikipediaによりますと、中国の伝説にいわく…
〈北の果てにある天の池には、鯤(こん)と呼ばれる
体が数千里にも及ぶ巨大な魚が棲んでいる。
その鯤が南の海へ向かうときに、巨大な鳥「鵬」になる。
九万里(約36万キロ)上空まで飛び上がって舞い、
その翼は天地を覆い隠すとされる〉
この、北の果てから南の海へ向かう、という話、
毎年秋にベーリング海から繁殖のために南下してくる
アホウドリの生態とぴったり一致するのです。
(サイズは中国らしくずいぶん大げさになってますけども…)
昔、海上を飛ぶ大きな鳥の姿を見かけた船乗りは、
あれこそ伝説の「鵬」に違いない!と思ったことでしょう。
「ホウ」だけではちょっと呼びにくいので「ホウの鳥」。
これは「鴻」が「コウの鳥」になったのと同じ。
しかし、近代になり、故事に疎い連中がやってきて、
「ホウの鳥のホウって何よ?」「ああ、そりゃ阿呆のホウだろ」
ということで、現在の名が定着してしまったのではないか。
あくまでも個人的な想像にすぎません。
違ってましたらご容赦ください。
わたしとしては、「アホウドリ」改め「ホウノトリ」とすることを
ぜひ提案したいと思うのですが。
かえっておいでアホウドリ | |
竹下文子・作 鈴木 まもる・絵 |
|
ハッピーオウル社 |