閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

「どうやって作るの?」

2012-02-06 22:59:20 | お知らせ(新刊)

翻訳絵本の新刊です。
「どうやって作るの? パンから電気まで」(オールドレン・ワトソン作/絵 偕成社)

「こんな絵本があるんですけど」と原書を見せていただいたのが
昨年の初夏の頃でした。
原題は「Where Everyday Things Come From」
日常生活で使うものや食べるもの19品目をとりあげ、
それがどこで何からどのようにして作られるか・・
ということをやさしく説明した知識絵本です。
(上の画像は「本の作り方」の印刷機。この前に「紙の作り方」がある)
1974年にアメリカで出版された本なので・・38年前ですね。

こんな古い児童書が今になって翻訳出版されるケースは
わりあい珍しいのではないかと思います。
編集のKさんが、会社の大掃除で倉庫から出てきた古い冊子の中で、
かこさとしさんがこの本にふれて書かれている文章を発見し、
それで興味をもって・・というのが発端でした。

ぱっと見て、うわ~い!と思ったのは、
わたしが子どもの頃のアメリカのリトル・ゴールデン・ブックスや、
リチャード・スキャリーの絵本によく似た「匂い」があったからです。
それに、描かれている機械類の多くが昔のもので、
日本でいえば昭和、ものによっては明治・大正の、
レトロな工場の雰囲気、というのも気に入りました。

本のカバー袖にも書きましたが、現代の工場の多くは
大規模で、複雑で、高度にオートメーション化され、
「そこで何が行われているのか」ということが
外からはわかりにくくなっています。
部分的には見ることができても、全体の流れは把握しにくい。
こっちから原料を入れ、あっちから製品が出てくるという・・
一般人からみればブラックボックスのようなもの。

時代をさかのぼれば、さかのぼるほど、ものごとはシンプルになり、
原始的になり、子どもにわかるレベルに近づいていく。
最新の、最先端を知ることが、どんな場合も最良とは限らない。
まずはいちばんシンプルな基本を知ること。
基本の上に、積み重ねられた進歩があり、バリエーションがあるのを知ること。
そういう意味で、このちょっとレトロな絵本は、いまにもじゅうぶん通用する。
というより、いまだからこそ必要かもしれない、と思いました。

翻訳といっても、何をどうするというごく平易な文章なので、
あとは「正しく、わかりやすく」を心がければいいだけ。
この文章量なら、3日もあれば、できちゃいますね。
・・と、軽~く考えたのがとんでもない間違いで、
ほとんど半年かかってしまいました。

何に時間がかかったかというと、資料調べです。
「正しく、わかりやすく」書くには、そのことを
自分でちゃんとわかっていないとだめなので・・
むずかしい言葉をやさしく言い換えるためには、
その言葉だけでなく、周辺や背後にあるものまで
じゅうぶん理解しておかなきゃいけないのです。
これが、思ったより大変だった!

なにしろ、わたしは理科は極端に苦手な人。
でも、そんなこと言ってられませんから、
溶鉱炉の構造だとか、プラスティックの化学式だとか、
ガラスや石鹸や塗料の製造法だとか、新しいの、古いの、
国内、国外、もう、ひたすら調べました。
さいわい各種企業のサイトから、かなり詳しい知識を得ることができ、
とても助かりました。
「サイエンスチャンネル」の「ザ・メイキング」(動画)なども
大いに役立ちました。
インターネットって、ほんとに、便利だなあ・・。

絵本なので、絵が描いてありますから、そこに描かれている
機械や道具は何というものか、何に使われるのか、
ひととおりぜんぶ調べました。
現在は使われていないものや、アメリカと日本で違う部分、
子ども向きに省略しておおまかに描かれているところ、
原文の説明が足りないところは、できる限り訳文でフォローして、
「いまの日本の子どもが読んでわかる」ようにしたつもり。
その結果、やや「超訳」になった部分はお許しいただきたく。

(そして、例によって、調べものをしていると、
どんどん脇道に迷い込んでしまう。
どうして「パンの作り方」の項で、O・ヘンリーの短編集まで
読まなきゃならなくなったか・・それを説明すると
またものすごく長くなるので省きますが、とにかく
納得するまで調べないと気が済まない閑猫の悪い癖・・笑)

こうして、ノート1冊分お勉強して、
50以上のサイトをブックマークして、
Kさんと100回以上メールのやりとりをして、
いろいろな方々のお知恵を借りて、
87ページというぶあつい絵本の翻訳ができました。

内容はとっても真面目ですが、登場するのが人間でなく
動物になっていることもあり、視覚的にも楽しめる絵本だと思います。
ベテラン職人さんが、機械のそばで新聞読んでいたり、
炉の熱を利用してお茶をいれた形跡があったり、
工場内になぜかバナナの皮が落ちてたり・・(笑)
そういう、ちょっと「ゆるい」ところも、いい感じです。
いくら高度に機械化されても、その機械を作るのも動かすのもヒトであり、
製品を使うのもヒトである・・ということを、あらためて思い出させてくれます。

この本を読んだ子どもが、顔をかがやかせて台所にやってきて、
「ねーねー、おかあさん、タイヤってどうやって作るか知ってる?
知らない? 教えてあげようか。あのねー」
としゃべり出したら、
「うるさいわねえ、いま忙しいのッ!」
なあんて言わないで、どうぞ聞いてあげてください。
新しく知識を得ることも、それをまた人に伝えることも、
ほんとうにわくわくする、うれしいことなんですから。

 

どうやって作るの? パンから電気まで
オールドレン・ワトソン/作絵
竹下文子/訳
偕成社
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