レーヌスのさざめき

レーヌスとはライン河のラテン名。ドイツ文化とローマ史の好きな筆者が、マンガや歴史や読書などシュミ語りします。

遺伝子の力

2006-12-11 13:51:21 | 歴史
 これを「歴史」カテゴリーに入れていいのかい、と思う。いっそ「メンクイ話」カテをつくってしまいたいくらいだ。

 かつて、『孫』という歌が流行ったことがある。
「じいさんあんたにそっくりだよと人に言われりゃ嬉しくなって」というフレーズに「ずうずうしい、長谷川一夫みたいなおじいさんならともかく」とシビアなコメントを述べた人がいた。私ならここで、アウグストゥスのような祖父、シシィのような祖母なら、と言う。
 清水義範の『もっとおもしろくても理科』(講談社文庫)の「遺伝」を扱った章に西原理恵子の描いていたマンガでこんなのがあった。「私のいとこのおっさんに大橋巨泉をたたきつぶしたような顔の人がいる 美人のヨメをもらう おっさんにいきうつしの娘が生まれる おっさんの両親がヨメさんの両親にバッタのように手をついて謝っていたのを覚えている」--謙虚な人たちである。孫の顔について、我が子よりも配偶者のほうが器量よしであっても、自分の子に似ていることを喜ぶ人は少なくないのではなかろうか。他人が見舞った際にも、親に似ていることをホメ言葉のように使うのも思えば奇妙なことだ。子供自身があとで嫌がるかもしれんのに。三浦しをんさんがエッセイで、子供のころの思い出として、娘にとって父親に似てるなんてブスといわれてるのと同じこと、と書いていたな。・・・父親によりけりだと思うが。

 アウグストゥスの娘ユリアと、親友アグリッパの間の(つまり父娘ほどの年の差夫妻)長男ガイウス・カエサルは、子供のころはアウグストゥスに似て可愛く、大人になったらゴツい父に似てきたらしい。
 オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフと愛妻エリーザベト(愛称シシィ)の一人息子ルドルフの一人娘エリーザベト(エルジィ)は、祖母に似て美貌といわれている。
 --こういう祖父母ならば似てめでたいんだけどな。

 塩野さんの『パクス・ロマーナ』の単行本に載ってた、アウグストゥスの下の継息子ドルススは、母リウィアと明らかに似ている!この一事だけでも、継父がこの子をひいきしたことも納得できるというものだ。メンクイのようだし。愛妻によく似たキレイな子ならば可愛がりたくもなるだろう。
 「哲人皇帝」マルクス・アウレリウスの不肖の息子として悪名高いコモドゥス、ローマ史上指折りのバカ皇帝は、その母が浮気者だったことから、剣闘士あたりが実父ではないかと言われたそうだが、肖像からすれば父にそっくりである。
 
 「新選組友の会」の会報に載っていた記事によると、晩年の永倉新八を、近藤勇の娘と名乗る義太夫語りが東京から訪ねてきたことがあるそうだ。その写真がゴツイ顔してて、なるほど似ている。
 近藤が京で囲っていた深雪太夫、その妹にも手を出してしまって子供が生まれたのは一応史実で、深雪の談話が『始末記』(?)に載っている。「妹の生んだ娘は「お勇」と名づけられ、近藤さんに瓜二つのようでした。 あまりに不憫でならぬので・・・」
 これを初めて読んだときには考えなかったけど、これをネタにしたギャグマンガでは、「瓜二つのようでした」で、ごつい顔デカ口の赤ん坊がおしゃぶり加えてる絵で、「不憫で」のコマで、ぷっ、と噴出している、それを読んで、ああなるほど、あのいかつい顔に似てる女の子ではフビンだろうな、と納得した次第だ。いや、本当はどういう文脈だったのか忘れたけど。本妻のツネさんとの間の娘はどんなだったのだろうな。しっかり者の母、剛毅な父に、性格のほうは似てほしいものだ。

 プラド美術館展のカタログに載っている、ティツィアーノの描いたカール5世とその息子フェリペ2世はよく似ている。「ハプスブルクの唇」は確かに見てとれる。
 ヘンリー8世とエリザベス1世も、確かに血縁を感じさせる。性格もきっと受け継いでいたろう。私は、彼女は父を憎んで、だからこそ超えてやろうとしていたと思っていたので、父との類似を自覚すると複雑な気持ちになっていたろうと推測している。(私とメアリとどちらが美人かと大使を問い詰めて困らせた話は似たようなのがヘンリーにもある。)
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