レーヌスのさざめき

レーヌスとはライン河のラテン名。ドイツ文化とローマ史の好きな筆者が、マンガや歴史や読書などシュミ語りします。

ヒゲは悪党の印?

2006-06-14 15:01:46 | 
 どのカテゴリーに入れたものか迷う話題。
 本棚を整理しようと思うと、とっておくほど必要ではない本をもう一度読んで、ところどころコピーやメモをとって本体を手放そうとする。そういうわけで再読した本『武士道とエロス』氏家幹人 講談社現代新書1995年。以前『炎の蜃気楼』ファンの友だちからもらった。一言で言えば、武士社会での男色の歴史。盛んだったのは戦国で、江戸の安定期にはいってくると衰え出す。前髪立ての美少年の装いも、武骨なヒゲも、どちらも減退する、つまり、過剰な「男」もまた好まれなくなっている。歌舞伎や浄瑠璃の悪役はヒゲ面が典型だという。別の本で読んだことだが、江戸期の「枕絵」は明治以降のポルノと違って男の顔もはっきり描かれていて、それはたいてい優男型、毛深いのは悪相だったそうだ。(そしてそれはBoysLoveジャンルの描写にもあてはまるという文脈で。) そういえば、三浦しをん『ロマンス小説の7日間』で、ハーレクインの類の翻訳をしている主人公が、胸毛の描写は削ったことを担当者に伝えていた(そう指示されたのだったか?)。
 南米が舞台の『シャンペン・シャワー』の連載中に、読者欄で、「彼らは外人さんなのになぜ体毛がないんでしょう?」という読者のツッコミと、「そんなの描いてたらタイトルの爽やかさと裏腹な暑苦しいマンガになりそう」という返答があった。確かに、立派な筋肉は描かれてもそれがタワシ状態だったりはしないものだ。
 ヒゲもけっこうタブーである。宝塚で『風と共に去りぬ』を上演したとき、レット・バトラーにヒゲをつけるかどうかで大もめしたそうだ。美貌の皇后シシィはよく少女マンガになるが、その息子のルドルフは肖像ではヒゲがあるのに、これもまた描かれない。少なくとも、若い二枚目にはそうそうない。ヒゲの習慣も時代・地域でかなり違う。ローマでは時代差はあるが、いちばん馴染みのある時期(共和制末期~帝政初期のつもり)だとヒゲなしが基本(脱毛もしてたようだし)、ヴァイキング社会ではーー『サガ』で女同士のケンカであんたの亭主はヒゲなしだと罵る場面があったりするのでーーたぶんヒゲは盛ん。日本で明治以降にまたヒゲが復活したのは欧米とつきあった影響だろう。まぁ、ヒゲといってもむさくるしいのもキザなのもあって、「バンカラファッション」なんてものはムサさをオシャレとして称揚した例。男の長髪が軟弱なものにされたのって結構歴史が浅いのではないかと思う。チョンマゲなんて解いたらかなり長いはずだし。(「座・乱読」で最近、フランク人は長髪も戦士の資格だったと読んだ。)

 どうも話が混乱してきた。

 最終章で意外なものを見つけた。
「男は容貌ではない、と人はいう。だが、容貌とは顔かたちであり顔つきである。それゆえに、男は美貌ではない、というのならばわからないでもないが、男は顔かたちではない、とは言えないのではないか」
「初代ローマ皇帝アウグストゥスほか美貌の男性の例を挙げたこの本の著者は、美貌とはいえないが個性と風格に富んだ「イイ顔」にも言及している。」
ーーおわかりだろう、塩野さんの『再び男たちへ』だ。この『武士道とエロス』は、プロローグで秀吉の草履温めの逸話を論じた際、『男の肖像』を引用している。ということは、氏家さんは当然、あのアグリッパの章も視界に入れてるはずだ。それを思うと奇妙に嬉しくなってくる。
 再読して、ここにアウちゃんの名前が出てきていたことを発見したのでここで報告したくなった次第である。

 こういう再発見の楽しみがあるから、本を手放すことは難しいんだ・・・
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雨のいろいろ

2006-06-14 14:54:26 |   ことばや名前
「梅雨」、「つゆ」と「ばいう」ではそれなりに響きが違う。でも字面は悪くない。

 かつて学部生の時、ドイツ文学史の時間に、ドイツの抒情詩で多く出てくる語はなにか?という話題が出た。トップが断然Liebe(愛、恋)であったことは確か。水気を含む語に乏しいということだった。その点、日本のほうが雨が多いようだ。少なくとも歌謡曲の世界まで視野に入れれば一目瞭然。そういえば女子高の現国でも、日本の雨はイメージが湿っぽいという話になっていたものだ。
 「雨」の区別は多い。大雨・小雨、「おおあめ」はそのものズバリでしかなく、「土砂降り」はいかにも叩きつけるようだが、「こさめ」の語感は優しい。「霧雨(きりさめ)」も良い。「氷雨(ひさめ)」なんて、その中を歩くのはごめんでも風情はある。「五月雨(さみだれ)」「秋雨(あきさめ)」「春雨(はるさめ)」。
 まだまだ続くこの雨の季節、せめて言葉のイメージだけでも楽しみたい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする