yoshのブログ

日々の発見や所感を述べます。

パクス・トクガワーナ

2010-03-03 10:52:49 | 歴史
  天下分け目の関ヶ原の戦に勝利した徳川家康が1603年に江戸に幕府を開いてから1868年に第15代徳川慶喜が大政奉還をするまでの間の約260年間は江戸時代といわれ、パクス・トクガワーナとも言えます。これは、パクス・ロマーナ(ローマによる平和)やパクス・アメリカーナ(アメリカによる平和)からの連想ですが、徳川将軍家による平和の時代といえましょう。徳川将軍を頂点とする世襲の士農工商の身分制度があり、鎖国までしていましたから、海外との交流も自由にできませんでした。不自由で暗黒な時代であったとの見方が明治以後にもありました。しかし、この時代は約260年もの長い間、内戦も外国との戦争も無かった平和な時代であり、世界史的にみても稀で奇跡的とも言える平和な時代でした。明治維新を「夜明け」と見る小説などもあって、国策により公平な歴史認識が妨げられた傾向があります。島崎藤村の「夜明け前」も結果としてそれを助けました。ところで最近この小説の有名な書き出し部分に出典があることを知りました。

木曽路はすべて山の中である。あるところは岨(そば)づたいに行く崖の道であり、あるところは十間の深さに臨む木曽川の岸であり、あるところは山の尾をめぐる谷の入口である。(夜明け前)

木曽路はすべて山の中なり。名にしおふ深山幽谷にて岨づたひに行かけ道多し。―略― 此間左は数十間深き木曽川にー略― 山の尾崎をめぐりて谷へ入る、また先の山の尾先をまはる所多し。(木曽路名所図絵)

道の狭いところには、木を伐って並べ、藤づるでからめ、それで街道の狭いのを補った。 (夜明け前)
道の狭き所は、木を伐わたして並べ、藤づらにてからめ、街道の狭きを補ふ。 
(木曽路名所図絵)

これらを比べると、藤村は文語を現代語に変えただけのように見えます。

また、大佛次郎の「鞍馬天狗」の中で、鞍馬天狗が少年杉作に「杉作、日本の夜明けは近いのだよ」という科白を言っていますが、これも同じ主旨が見受けられます。
実際のところ、江戸時代は暗い夜の時代ではありませんでした。元禄時代や文化文政の時代などには庶民文化が華を開き、身分制度やいろいろなしがらみの中にあっても、人々はその中で生き生きとして精一杯生きました。何よりも人々が望んだ平和で平穏な生活がありました。
政治は朱子学による文治政治であり、平和で凶悪犯罪の少なく礼節を尊ぶ時代だったのではないでしょうか。また、武士のためには全国各地に藩校や武道場があり、庶民のためには町に寺子屋があり、教育が普及しており、そのレベルもかなり高いものであったということです。
武士も町人も女性も各々の分を守り懸命に生きました。藤沢周平の時代小説にはそうした人々の哀感と愛憎が温かい筆致で描かれています。
コメント
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