第29日 <8月7日(土)>
【行 程】 白銀荘(上富良野町)(泊) → ビルケの森インフォメーションセンター → 美郷名水 → 新栄の丘 → 道の駅:びえい「丘のくら」 → 北西の丘展望公園駐車場(泊) <37km>
昨日の脱出作戦は大成功だった。もし十勝平野のどこかに涼を求めて燻(くす)ぶっていたら、日中は危うく熱中症になりかけ、夜は眠れずに邦子どのも自分も衰弱の度を深めたに違いない。それほどに昨日は異常な暑さだった。内地の酷暑振りについては、連日のニュースで承知しているけど、いずれの地もいきなりこのような猛烈な暑さに見舞われたのではなく、問題となった場所でも、少しずつ暑さの度合いを増して行って体温を超えるような気温に届いたのだと思う。それが北海道の、しかも旅する身では、今までの涼しいエリアでの暮らしから突然に15℃もの差がある環境に放り出されたのであるから、身体がおかしくならない方がおかしい。
標高千mを超える白銀荘の夜の何という快適さであろう。日中の足掻(あが)きが全くの悪夢のようだった。いつもだと夜中にトイレに行ってそのまま起きて書き物に取り掛かってしまうのだが、今朝は7時近くまで寝床の中で、その快適な涼しさを賞味し尽くしたのだった。白銀荘の朝は、昨日の青空は全く望めず、十勝岳山頂は霧の中だった。気温は20℃くらいか。恐らく下界では、早や真夏日に向っての温度上昇が始まっているに違いない。
ということで、今日は出来る限り遅くまでここにいて過したいと考えている。遅い食事の後は、自分は書き物に取り掛かり、邦子どのは少し惰眠を楽しんだ後に、温泉に出かけて行った。ここの湯は100%掛け流しの、とびっきりのいい湯である。自分は昨日それを味わっているので、今日は居残りとする。9時を過ぎると、今日は土曜日とあってか、下界からの日帰り入浴の家族が続々と山に上がってきていた。登山の人たちは、下山する人たちだけが早々と帰路を急いでいた。このような高地にも、ツバメ達がやって来て、賑やかに飛び回っていた。近くの樹木の中からウグイスの囀りが聞こえてくる。ここのウグイスは2種の鳴き声で、「ホー、ホケチョ」と「ホー、ホケキヨ」である。後者の鳴き声は、キョではなく、キヨなのである。これはRVランドの連中の鳴き方と同じである。面白いなと思った。その様なことで、少しも退屈ではない。
邦子どのが戻ってきて、外の景色などを見ながら何やら話している内に、たちまち12時半を過ぎてしまった。大して空腹感もないのだけど、二人とも薬を飲まなければならないために、食事を強要されるような状態にあるため、やむなくおじやを作って食す。外は霧が雨に変わって、断続的に路面を濡らしている。下界の様子は全く判らないが、この分だと雨になっているのかもしれない。予報だと今日も雨模様なのに30℃近い最高気温が示されていたから、蒸し暑いのかも知れない。何時までもここに留まるわけにも行かないので、とにかく下のビルケの森のインフォメーションセンターまで行って様子を見て、大丈夫そうなら美瑛の丘のどこかで泊ることにし、暑くてダメなら今度は大雪山旭岳のロープウエイの駐車場へ行って泊ることにしようと決める。明日中には、札幌市郊外の長沼町にある道の駅に行かなければならない。明後日に車のシャーシの塗装をお願いしていて、その工場が栗山町にあるからである。本当はもう一日ここで過ごしてもいいのだけど、今年最後となる美瑛の丘の風景をちょっとは見ておきたいという気持ちがあるからなのである。
14時近く、とにかく下界に行くことにして出発。白銀荘から白金までの道は、途中から視界が一気に開けて、実に壮大な景観を眼下に楽しむことが出来る。10分ほどの短い時間だけれど、下りの道はたくさんの果報が付随しているのである。白金の温泉街を過ぎ、青い池を通り過して少し行くとビルケの森インフォメーションセンターに到着。ここで小休止。外に出てみると、やっぱり暑い。風が全くなく蒸し暑さがジワッと滲み込んでくる。こりゃあダメかなとも思った。しかしもう戻る気にはなれない。ま、丘の方に行けば少しは風があるかもしれない。
丘の方に行く前に、少なくなった水を補給するため近くにある美郷名水を汲みに立ち寄る。30分ほど掛けて水を汲み終える。人気の場所で、入れ替わり立ち代り水を汲む人や涼を求める人たちがやって来ていた。水場に集まるのは、人間が動物であるという明確な証拠だと思っている。ロボットには水は不要であろう。人体組織の大半は水が動かしているのだ。良い水を求めるのは人間の本能であろう。この頃はその本能を忘れた人も多くなっているようだ。腐蝕を防ぐという点では水道水は安全度が高いのだろうが、人体の活性化のためには大地のミネラルを多く含んだ湧き水の方がはるかに優れていると信じている。だから、旅先では常に湧き水には関心がある。
今年2回目の美瑛の丘であるが、今日はこのところあまり寄っていない新栄の丘に行ってみることにした。美瑛は丘の町であり、幾つかの展望の名所があるが、新栄の丘は十勝連峰を望見できる場所であり、山の写真を撮る人たちが多く集まる場所である。今日のような雨模様の曇天では、それらしき人は居らず、観光バスやレンタカーでの来訪者が殆どである。皆さん、ちょっと周辺を見渡し、その広さに満足するのか、2~3枚記念写真を撮り、その後は近くの売店でアイスクリームやカットメロンの一切れを味わって、さっさと立ち去ってしまう。ま、観光とはその様なものなのであろう。
新栄の丘の景観。雲が多くて視界がはっきりしなかった。ここからは大雪山連峰が望見され、山岳写真を撮る人人が多く集まるのだが、今日は誰も居なかったようだ。
我々の方は今日ここに泊るか、泊らないかの判断が一つの課題となっており、空の様子やトイレや水などの状況も確認する。丘の上なので、風があり、暑さには十分対応できそうである。しかし、周囲はトウキビ畑ばかりで、夜になって誰もいなくなったら、いかにも心細い場所となってしまう。今は山の写真を撮るために泊る人も居ない。もう、中途半端な季節に入ってしまっているようだ。ということで、泊るのならもう少し先の北西の丘の方が良いのではないかと判断する。
途中で町の方にも行ってみようと、JR美瑛駅前近くにある道の駅:びえい「丘のくら」に寄って見た。ここは何年か前にオープンした比較的新しい道の駅である。以前来た時は、開店したばかりで、大変な混雑振りで車を停めるのに往生したのを思い出す。やっとの思いで駐車を果たし中に入ってみたのだが、中は人ばかりで、何がなんだか判らないままに嫌気がさして出てきたのを覚えている。今日はそれほど混んではいなかった。しかし中に入ってみると、その昔の石造りの倉庫を改修した駅舎の大半はホテルのようなものとなっており、あとは少しばかりの地元の観光土産の売り場しかない。それも極めて狭い。あの開店時の混雑の正体がこんなものだったのかと知って、改めてガッカリした。このような施設がどうして道の駅なのかと疑問を覚えるほどである。もう二度と来ないだろうなと思った。変に気取った、美瑛の悪い部分を表象しているかのような施設に感じた。
近くのスーパーで少し買い物をした後、R237の反対側にある北西の丘展望台公園に行く。国道から入って直ぐの場所だけど、町の姦しさを感じさせない場所で、観光客には人気があり、観光バスの来訪も多い。さすがに17時近くなると、来訪者も少なくなって、静けさを取り戻し始めたようだった。邦子どのがいつもガラス工芸品を買うなどしている店のご主人に、泊りの条件などについて伺ってきたようで、それによると暑さはなかなか静まらないとのこと。今は風があるから良いけど、夕暮れが雲を少なくして無風となったら、ここはかなり暑いという話だった。空を見ると、かなり黒雲が湧いてきており、今夜は一雨来るのではないかと思われる状況だったので、ま、大丈夫眠るに耐えられるだろうと判断し、ここに泊ることに決める。
18時を過ぎると、車は殆ど居なくなり、付近の店も全部閉店して、静かになった。やがて無人となる。風はほんの少しだけど、雲は益々量を増やしており、暑さの方は大丈夫である。ここは障害物が無い所為かTVが良く映る。しかし碌にニュースを見ることもなく、いい加減な食事を済ますと、たちまち眠りに襲われて寝床にもぐりこむ。邦子どのの方がずっと正気だったようだ。
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