第34日 <8月12日(木)>
【行 程】
Aさんご自宅 → Aさん別荘(泊) <20km>
台風が近づいているとの情報が次第に気になってきた。どうやら北海道の方に向っているらしい。何でまた、今頃こっちに来るんだと思わずには居られないが、天の気分なのだからしょうがないと諦めるしかない。この地も朝からかなりの雨が降り続いており、うっかり南下などすると大ごとに出くわす危険性もあるようだ。このような時には、ジタバタせずに安全な箇所にジッとしているのが一番無難である。さしずめは千歳辺りで風雨が通り過ぎるのを待てばいいのでは、などと思っていた。
ところが、朝食を頂いた後の奥さんの話では、今日も泊って頂くのが当然と考えておられたようで、少なからず驚いた。邦子どのがどのようなお願いをしたのかはよく判らないけど、こんなにも長く甘えてよいものかどうかチョッピリ疑問を抱いたのである。でも奥さんはご主人にも、今夜は別荘の方に泊まるからと承諾済みというお話だった。旅先でこれほどのご厚意に甘えたことはない。本当に良いのかしばらく迷ったのだが、結局はそれをありがたくお受けすることにした。というのも、昨夜の話でもご主人とはウマが合いそうで、また奥さんのお話も興味深いものがあって、邦子どのはもうすっかり古くからの親しき友人気取りなのである。このようなことも格別に珍しいことなのであった。
午前中は歓談をしながらゆったりと過し、午後になったのに気づいて、別荘の方に行くことになって移動する。台風は秋田に上陸の後、岩手県を横切りながら、少し南側に進路を変えたらしく、北海道は暴風圏からは外れることになったようであった。しかし、刺激された前線は雨を降らし続けており、この地も朝からずっと雨降りである。時々小降りにはなるけど、地盤は緩んで要注意である。全道各地に幾つもの警報が発令されており、安易な予断の許されない状況が続いていた。
別荘では、しばらく話の方はお二人にお任せすることにして、自分の方は、書きものの残りをこなした後、久し振りに高校野球をTV観戦する。甲子園の方は雨が上がって、球児たちは暑さの中で熱戦を繰り広げていた。その内になんだか眠くなり出し、しばらく午睡の世界へ旅立つ。暑さは何処かへ去ってしまったのか隠れたのか、雨降りを除けばまことに凌ぎやすい涼しさで、気持ちが良い。
目覚めたのは16時過ぎ、思い立って奥さんにSUN号(旅車)にお越し頂いて、三人でお茶を一緒にすることにした。考えてみれば、ずっと奥さんのお世話になりっ放しで、未だ一度も車の中の状況をご覧頂いていなかったのである。くるま旅というものがどのようなものであるかは、やっぱり旅車を覗いて頂かなければ判らないように思う。旅の本質は同じであっても、使用する車によってその実際の暮らしぶりにはかなりの差があるように思う。なかなかキャブコンの中に坐って話をする機会はないのではと思い、是非一度ご体験頂きたいと思った。それで、その後は車の中で少しばかり旅の話が弾んだのであった。気がつくと雨は止んで、遠く北広島や札幌辺りの街の灯が煌めき始めていた。
別荘に戻り、奥さんの特製スパゲッティをご馳走になる。具材の殆どは直ぐ下の畑から懐中電灯を照らしながら採ってきたものである。美味くないわけなど何処にもない。自分ひとりがそれを肴に一杯やり続けて、数杯分を体内に取り込んだのだった。こうなると入り口の方の動きも闊達となり、話し上手(=聞き上手)の奥さんに乗せられてしまった感じで、まあ、良く喋ること、我ながらあっけにとられるほどに歓談の主役となってしまったのだった。さすがの邦子どのもその毒気に疲れを覚えたのか、先に寝床に横になってしまっていた。気がつけば22時を過ぎており、あわてて饒舌を押さえる。いやあ、とんだ一幕でした。車に戻り、少し反省しながらたちまち爆睡に落ちる。
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