第19日 <7月28日(水)>
【行 程】
ウスタイベ千畳岩キャンプ場 → 道の駅:マリーンアイランド岡島 → 道の駅:おうむ → 紋別市内:コインランドリー → 道の駅:かみゆうべつ温泉チューリップの湯(泊) <132km>
昨夜も時々車の天井を雨音が叩いて、空の機嫌の悪さをしつこく伝え続けていた。記録の記載を終え、外を見てみると悪意に染まった空が、黒雲を走らせて、蝦夷梅雨は未だ終わっていないことを改めて宣言しているかの感がした。何時になったらスッキリ晴れてくれるのか、今までに北海道の夏を感じた日は数日もない。この日照不足は、遠からず農作物などには様々な影響が出るに違いない。
ウスタイベ千畳岩キャンプ場は、枝幸の市街地を南方向に見下ろす巨大な岩場につくられており、その広さは千畳などの狭さでは無い。7月初めの枝幸カニ祭りの時には、ここが会場となって、数百台もの大小様々な旅車が集まるのである。ウスタイベが何を意味するのかは地名辞典を持参しなかったので解らないけど、恐らく直ぐそれと納得できる地形をさしているに違いない。ここのキャンプ場は、嬉しくもありがたいことに、水もトイレもそしてゴミ処理も全て無料でOKなのである。広い北海道といえども、このようなサービスを提供してくれる自治体は少ない。
ウスタイベ千畳岩キャンプ場の景観。この広大なキャンプ場の向こう側はオホーツクの海である。毎年7月第1土~日曜に行なわれる枝幸町のカニ祭りには、この広大なキャンプ場が全国からの訪問者で溢れる状態となる。
枝幸町にはもう一箇所岡島エリアにキャンプ場があるけど、ここも同じようにサービスを提供して頂いている。岡島の方には無料の電源供給設備も作られていたのだったが、来訪者のマナーの悪さに堪忍袋の緒を切った行政サイドが電源の供給を止めてしまった。それは当然だと思う。せっかくの好意に対して形振り構わぬ我欲の行為は、人間社会を破壊するに等しい。破壊を防ぐためには、好意のサービスを引っ込めるというのは当たり前のことだと思う。それにしても世の中の常識のレベルは、相当に低下してしまっている。自由と規律とのバランスが個人主義社会を支える基盤となっているはずなのだが、今の世はそのバランスが自分勝手という、仲間勝手という我欲の張り出した醜悪さにまみれ出しているようだ。寂しい話である。
食事の後、海の方に少し歩きに行く。雨は止んでいるけど、何時降り出すかはわからない。暗い海の中には、早くも何かの漁をしているのか何艘かの漁船が波間に漂って見えた。岩場の突端にこの地の開発に携わった先人の中での、海で遭難された人々を慰霊する碑が建っている。いつもここへ来ると祈りを奉げることにしている。般若心経を誦した。枝幸町は今はこのエリアの漁業などの中核地として栄えているけど、その昔の先人たちはオホーツクの海の厳しい自然との闘いの中に、幾人もの尊い生命を犠牲にされたに違いない。果てしなく広がる海を見ながら、改めてそのご苦労のことを思った。
ウスタイベ千畳岩の上に建つ海難慰霊碑。眼下に広がる北オホーツクの海に命をかけて漁に取り組んだ先人たちの尊い犠牲が今日の枝幸町の礎を築いたのだ。
岩場の至る所には、巨大に茂ったイタドリなどの草の中に愛らしいツリガネニンジンやアヤメなどが咲いていた。このあたりで特に目立つのは、エゾニュウと呼ばれるウドに似た巨大な植物である。北海道の植物は、同種の内地のものに較べて、その多くが大型になっている。それは年間を通しての短い生育時間にしか恵まれていないことに対する、植物達の生命力の反動なのかも知れない。北海道へ来るといつもその不思議を思うのである。
北国の植物たちは概して大型のものが多いが、その中でも海辺に自生するエゾニュウはとりわけて目だった存在である。この写真のものは3m近い大きさだったと思う。
その後、同じ駐車場に滞在されているつくばナンバーの旅車が居られたので、その様な話をKさんにすると、ご存知の方だとか。それで一緒にいって紹介して頂いて挨拶を交わした。Gさんとおっしゃるご夫妻は、守谷市の隣のつくば市在住で、常磐道の谷田部IC近くにお住まいだというから、我が家からは15kmほどしか離れていないようだ。ご主人はおとなしそうな方だったが、その分の元気を一身に満たされたように、奥さんは多弁、能弁の方とお見受けした。世の中にはよくある夫婦の組み合わせパターンの一つのように思った。(失礼) 我が家は、さてどうなのであろう。Gさんと同じなのかもしれない。新しい知り合いが又一つ増えて、旅は楽しい。
Kさんご夫妻は一足先に北に向って出発されていった。我々も少し後に南に向って出発する。今日はどこまで行けるのか、行く先は未定である。紋別市内のコインランドリーで洗濯をしたいと邦子どのが言うので、その先の適当な場所に錨を下ろすことになるのだと思う。ウスタイベ千畳岩キャンプ場を後にして、先ずは近くの道の駅:マリンアイランド岡島に立ち寄る。ついでに電源付サイトのあったキャンプ場を覗いてみた。一説では有料になって電源付サイトが再開されたと聞いていたが、3台ほど滞在している方に訊いたところでは、電気は来ていないとのこと。やはり風説だった。火の無い所に煙は立たぬというけれど、火元も確かめずに煙ばかりを噴出す奴も世の中には多い。
岡島を後にして、本格的に南下を開始する。左手に横たわるオホーツクの海は、波も穏やかで、ゆったりと浜辺をさすっている感じだった。この海が冬には流氷で埋まってしまうなどとは到底想像もつかない。その様なことを思いながら走り続けて、12時過ぎ雄武の道の駅に到着する。ここで昼食休憩とする。道の駅脇のスーパーに行き、うどんを仕入れて食す。調理担当は邦子どのではない。彼女はご老女のような存在で、麺類の調理は殆どが自分の担当となっている。久し振りに熱い汁を啜って、先ずは満足。少し休むことにして、この間駅舎の方に出向き、ブログの更新をする。先日もここの公共ネットワークを利用させて頂いて旅に出て初めての更新をしたのだったが、今日再訪できたので、旅のその後の状況について簡単に報告をさせて頂くことにした。少し古いタイプのパソコンのため、画面が暗く字がよく見えないこともあって、少し手間取った。終わって外を見ると雨が本降りになっていた。慌てて車に戻る。
俄かに空が暗くなって、突然一発雷鳴が轟いた。宗谷の方には雷注意報が発されていたようだが、ここもその対象エリアだとは思わなかった。雷はあまり好きでは無い。しばらく様子を見ることにした。幸い雷鳴はその一発だけで、驟雨も一度きりで下火になったようなので、出発することにした。
次の目的地は紋別のコインランドリーである。小西さんに凡その場所をお聞きしているので、直ぐに見つかると思う。興部町を過ぎ、紋別が近づく。興部を「おこっぺ」と一発で読める人は少ないと思う。アイヌ語を知らないと、北海道の地名や町名などは、まさにチンプンカンプンである。それにしてもこの最初の当て字は一体誰が作ったのであろうか。紋別までは雨は降ったり止んだりで、濡れた道路と乾いた道路が入れ替わりやってきて、このあたりの天候が乱れているのがわかる。14時半近く紋別のコインランドリー店に到着。
それから後は、邦子どのの世界。洗濯物を運んだ後は、一人近くのショッピングモールを覗きに出向く。今頃はちょっとした市や町の郊外には良くあるタイプのショッピングモールで、大型のスーパー、ホームセンター、ドラッグストア、家電店、衣料店、ファストフード店などが広い駐車場を中心に点在している。ここへ来れば何でも手に入ってしまうというのは、他の小売店などから見れば悪魔がやって来たに等しいのかも知れない。町の中心街が移り変わって行く姿を幾つも見てきたが、この北のエリアでも同じ様な現象が起こっているのを実感した。
洗濯は16時少し前に終了。少し暗さが増してきたようだ。これでは、やっぱり上湧別の道の駅に泊るのがいいかなと思った。サロマ湖周辺にも道の駅が2箇所ほどあるけど、泊りには向いていないように思う。駐車場が坂で傾き過ぎていたり、夜間寂しくなり過ぎるような場所は敬遠したい。その点、上湧別の道の駅は、温泉も併設されており、町の真ん中にあって駐車場も平であり、治安なども安心できる。くるま旅はどこでも自在に泊れるという考え方もあるけど、間違いではないとしてもあまりに安易なのは同感できない。健康と安全・安心あっての良い旅なのである。
17時少し前、道の駅:上湧別温泉チューリップの湯に到着。ここの温泉は人気があり、かなりのくるま旅と思しき人の車が留まっていた。大型の旅車も何台か混ざっていた。我々の方は、今日は入浴は止めることにしている。夕食には少し早いので、少し付近を歩いてみることにした。温泉側の駐車場の裏に鉄道資料館というのがあり、小さな駅舎と二本の二列のレールの上に、ラッセル車と古い客車が置かれている。これはこの近辺の国鉄の保線の仕事を担当していた中湧別保線区のOBの人たちが、路線の廃止に伴い、その歴史を留めるべく北島さんという方を中心につくられたらしい。その碑が建っていた。その裏にもう一つの駐車場があり、トイレや水汲み場もあって、くるま旅の人はどうやらこちらの方を利用しているようである。その水飲み場に、置き忘れたのか、歯ブラシ入りのコップが一つ置かれていた。こんなのを見ると、マナーの悪さを云々されても仕方ないなと思う。忘れた本人は良かろうが、あとから来た人はそれを見て決して愉快には思わないであろう。こういう輩が、新しい老人の中に結構多いような気がするのは、古くなりかけた老人の僻みなのであろうか。
雲が多い所為か、かなり暗くなってきたので、町中の散策は止め、車に戻る。ご飯を炊き、味噌汁を作って質素な夕食となる。一杯の酒さえあれば、他は何も構うものなど無い。映らないTVをチョッピリ見て、諦めて寝床にもぐりこむ。
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