山本馬骨の くるま旅くらしノオト

「くるま旅くらしという新しい旅のスタイルを」提唱します。その思いや出来事などを綴ってみることにしました。

蝉たちの季節

2020-08-20 17:01:18 | 宵宵妄話

今、蝉の声が姦しい。人間どものコロナ禍など少しも気にせず、樹木のある所の全ては彼らの生命が燃えたぎる世界だ。7年も地中の暗闇に暮らし、ようやく地上に出てきて、しかも翼まで与えられて、この世に生きるのにはたった7日ほどの時間しか与えられていないのだから、彼らの命の絶叫を批判するなどとてもできるものではない。

毎年蝉が鳴き出すと、ああ、もうすぐ暑い季節がやってくるなと思う。この辺りの蝉が初めて鳴くのは6月の中頃だろうか。その蝉というのはニイニイ蝉だ。小型の蝉で、平べったい、押しつぶされたような顔(身体)をしている。細い鳴き声で、「ニイ~」と鳴いている。群れれば大きな鳴き声となるが、この頃はニイニイ蝉が大合唱しているのを見たことがない。尤もニイニイ蝉の鳴き声は、単独で鳴いている方が味がある。芭蕉の「閑けさや岩にしみ入る蝉の声」の句の蝉は、このニイニイ蝉に違いないと自分は思っている。まさに岩に浸みいる鳴き声なのだ。もしニイニイ蝉ではないとしたら、次の候補はひぐらし蝉に違いない。それ以外の蝉はこの情景にはどう考えても相応しくない。そう固く信じている。

 ニイニイ蝉が鳴き始めてしばらく経って、暑さが本格化し始める頃に鳴き出すのはアブラゼミ、ミンミン蝉、クマゼミたちである。自分の育った関東北部では、クマゼミは居なかった。転勤で四国や九州に住んでいる時、その存在を知って驚いたのを思い出す。その鳴き方において、アブラゼミよりも性質(たち)の悪い蝉だなと思った。この頃は温暖化が進んだのか、関東エリアにもクマゼミが進出しているようだが、この地ではまだ見たことがない。もしアブラゼミとクマゼミが一緒に棲むようになって大合唱をするようになったら、今までの蝉に対する親愛感のようなものは一変して憎悪感ともなりかねないだろう。この地にはクマゼミは進出して欲しくない。

この辺りでは、アブラゼミとミンミン蝉が断然リードして真夏を謳歌しているようだ。一番はやはりその数と声の大きさにおいてアブラゼミ、そして個性的な鳴き方では、ミンミン蝉ということになるのではないか。同じ頃にひぐらし蝉も多いが、その鳴き方と鳴き出すタイミングが他と違って、暗くなる時間であり、いかにも哀しく「かな、かな、かな」と鳴くので、この鳴き方は別格だ。

 この三種の蝉たちの鳴き方を音楽として捉えてみると、どちらかといえば単調な大声ばかりのバックコーラスを担当しているのがアブラゼミ、その中で訴えるかのように「ミン、ミイン」とひと際高い声を上げての独唱を受け持つのがミンミンゼミ、そして一面が暗くなってアブラゼミとミンミンゼミが一時声を静めた時に、まるでお経を唱えるかのように哀しい声で鳴くのがひぐらし蝉となるようだ。

 この頃はどの蝉も数が少なくなっている気がする。元気な方から云えば、アブラゼミ→ミンミンゼミ→ひぐらし蝉となるようだ。樹木が少なくなって来ているので、真っ先に数を減らすのはひぐらし蝉の様で、鳴き声を聞くのは限られた場所だけとなっている。ミンミン蝉も以前と比べれば鳴き声も鳴く期間も狭まってきているように思う。アブラゼミだけはワイルド性が強くて、もしかしたら樹木が無くなって電柱だけになってしまっても鳴くのを止めないのかもしれない。あの油を煮立たせるような鳴き方は、生命の逞しさの証なのかもしれない。

 そして、夏の中に秋が混じり始めた頃に鳴き出すのが法師蝉だ。「ツクツクホウシ、ツクツクホウシ」と繰り返して鳴くその声は、もの哀しく、蝉たちの季節に引導を渡すかのごときである。じっと聞いていると、彼の鳴き声は、蝉たちの季節の終わりを告げる挽歌のようだ、「惜しい、つくづく惜しい」を何度か繰り返し、そして最後に「ダメだよう、ダメだよう」を2~3回繰り返して鳴き終わる。蝉たちは涼しくなりだしたら、もうダメなのだと自分たちの生命の終わりを予知し、それを謳う役を担っているのが法師蝉なのだろう。

 人間はこのセミたちの季節に耳を傾けながら、それを歓迎しつつもこの季節が終わるのを待っている。道端に命尽きた蝉たちが幾つも転がっているのを見ていると、少し複雑な気持ちとなる。蝉たちに対しては不遜だけど、この炎暑の季節はそろそろ退散して欲しい。そして、新型コロナという悪魔にも天は引導を渡して欲しいと願っている。

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