知床の玄関口の一つのであるウトロの港に隣接して、オロンコ岩と呼ばれる巨大な岩塊があります。今ウトロでは新しい港を作っているようですが、オロンコ岩はもしかしたらその昔は独立して海の中にあったのかも知れません。知床八景というのがあって、オロンコ岩はその一つに含まれています。因みに知床八景とは、①オシンコシンの滝②オロンコ岩③夕陽台④プニュ岬⑤フレペの滝⑥知床峠⑦知床五湖⑧カムイワッカの滝の8つの場所を言い、殆どがウトロ側にあり、羅臼側には無いようです。提唱者は斜里町のようですから、当然そうなるのかも知れません。私どもは未だ6箇所を不完全に訪ねただけで、全部を見たわけではなく、特に見ようとも考えていません。
ウトロの道の駅から見たオロンコ岩。高さが60mあるという。正面左側の方から頂上に向う道がつくられている。170数段の階段を上るとてっぺんに至る。
さて今日はそのオロンコ岩のてっぺんに、一人で登ったという話です。ウトロには去年新しく道の駅がオープンしました。その名は「うとろシリエトク」、日本語で書けば「宇土呂知床」とでもなるのでしょうか。その道の駅からは海に向って右側に巨大な岩がデンと構えています。これがオロンコ岩です。この辺りには巨岩が多く,オロンコ岩の右手には奇怪な形をしたゴジラ岩と呼ばれるのもあります。これなどは人工的に作られたのかと思うほど、見る角度によって、亀の姿やゴジラの姿に見えるのです。数ある巨岩の中では、オロンコ岩が一番大きくて高さが60m、周囲は良く判りませんが500mくらいはあるのではないでしょうか。
昼寝から目覚めたら、相棒は何処かへ出かけていていませんので、あの気になる岩に行ってみることにしました。そのときは登ることなど考えていませんでした。というよりも上まで登ってゆける道があるとは思っていなかったのです。ところが側に行って見ますと、登山道というか散策道が整備されており、子連れの人たちまでが登っているではありませんか。しかし、あまりにも急勾配なので、大丈夫かなと少なからぬ不安を覚えました。というのも、実は私は高所閉所恐怖症の気があるのです。現役時代一番困ったのは、飛行機に乗ることでした。できる限り飛行機に乗らないようにしていたのですが、飛行機での出張が当たり前となった時代では、かなりの頻度で乗らざるを得ませんでした。搭乗するまでは、往生際が悪くて冷や汗をかいたりしているのですが、乗ってしまうと諦めの覚悟が出来てようやく落ち着くという連続でした。引退後は車旅ですから、もう特別のことでも無いかぎり、生きている間は飛行機には乗らないで済むとホッとしているというような人間なのです。
おっかなびっくり登り始めたのですが、なんと足元というか、崖に造られた小路の脇には、見たこともない高山植物のようなものが花を咲かせているではありませんか!こうなると高所恐怖症の話は別となります。下の登り口の案内板に野草を楽しむことが出来ると書かれていたのを思い出し、もしかしたら、この岩の上にはもっと珍しい野草などがあるのかも知れないと、恐さよりもその期待の方が大きく膨らんだのでした。絶壁の下は波涛が砕け散る黒い海が広がっています。足を滑らせて落ちたら、一巻の終わりです。とにかく下を見ないようにして、前方の岩肌と植物だけを見ながら上を目指したのでした。
登る途中の崖の部分にたくさん点在して咲いていた高山植物風の花。後で調べたら。イブキジャコウソウという名だった。ジャコウソウというからには香りの良い花なのだと思うが、そのときはあまり感じなかった。小さな花だけど美しさは大きいなと思った。
15分ほどかけててっぺんに着きました。そこには一周出来る散策路がつくられていました。絶景かな!です。目前遙かにオホーツクの海が水平線を描いて広がり、眼下にはウトロの港と市街地が全望できます。直ぐ側を通ったときには巨大に見えたゴジラ岩が小さく見えています。これ以上にウトロの景観を俯瞰できる場所は無いなと思いました。
てっぺんから見下ろすゴジラ岩。左側がそうらしい。この二つの岩は、右方の道の駅側から見ると、ゴジラではなく巨大な亀の姿に見える。
そして、そして岩のてっぺんは何と、なんと野草の天国となっていました。先ほど登る途中に見た高山植物のような姿の野草は此処にはありませんでしたが、原生花園と同じようにたくさんの珍しい花も咲いていました。それらを一々紹介するのは止めますが、一つだけどうしても紹介したいのは、トリカブトです。北海道にはエゾトリカブトというのが野に点在しています。先日の釧路湿原では、いつもの場所にそれを見ることが出来なかったのですが、その後川湯温泉あたりでも道端に咲いているのを見かけて、車を停めて写真を撮ったりしていたのでした。それが、なんとこのオロンコ岩のてっぺんにたくさん群生しているではありませんか。いやあ、驚きました。
てっぺんの野草天国広場に咲くエゾトリカブトの花。花の向う遙か下に、新しく造られつつあるウトロの港が見える。
トリカブトは、推理小説などでよく殺人事件の手段に使われるなどしていますが、アルカロイド系のその毒を使って、その昔アイヌの人たちは熊狩りなどに利用したようです。その地下茎に猛毒があり、それを塗った矢を放てば、巨体の猛獣のヒグマでさえもコロリといってしまうというのですから、恐ろしい話です。
しかし、トリカブトの花は、美しいのです。多くの人はそれがトリカブトだとは知らずに綺麗な花が咲いていると好感を持つに違いありません。高貴にしてあでやかな雰囲気を持つその花は、野草の女王といっても良いかもしれません。その花が、他の野草に混じって幾つも咲いているのには驚きました。下界の難を逃れた野草たちが、このてっぺんでひっそりと生命をつないで来たのかもしれません。それにしてもこのような厳しい条件の場所に、良くもまあ生き残っているものだと、野草たちの逞しい生命力に改めて脱帽したのでした。
野草天国広場に点在して咲くエゾトリカブトの花。このような狭い場所に、これほどたくさんの花を見たのは初めての体験だった。
てっぺんは私にとっても天国のような気分の世界で、何枚もの写真などを撮りながら満足の時間を過ごしたのでした。しかし、帰り道は、これはもう登り以上に厳しい精神状態で、手すりをしっかり持って、なるべく崖や海の方は見ないようにしながら、息を整えて一歩一歩を確認しながら時間をかけての下山でした。
思いもかけぬ天国と地獄の世界を短時間で味わい、新たな旅の収穫を拾ったという話です。ウトロに寄られた方には是非お勧めのスポットです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます