ついにヒエンソウを切り取りました・・・。
池澤夏樹氏連載の新聞小説がいよいよ佳境に入ってきました。ワカタケル(雄略天皇)の国造りの物語です。
この二つの太刀の話になったときに、「この二つの太刀をこの目で確かに見たことがある」という確信の記憶がよみがえりました。
荒々しく、猛々しく野を駆け巡り川をくだり、異国から来た知の人びとの話を聞き、意見を聞き、霊を操る女性の言葉を尊重しながら、徐々に国の統治の形を造り上げてきました。
今月の内容は、ワカタケルに長年使えてきたヲワケが武蔵国に帰ることになり、褒美として鉄剣を贈ることになりました。出雲の砂鉄とタタラを使って剣を作る場面が詳しく書かれています。
まだまだ文字が乏しかった時代に、大王は「李先生」にこの鉄剣の銘の撰文を命じます。
『・・・ワカタケル大王、天下を治める我が、この百度鍛えた名刀を作らせ、めでたさの由来をここに記す』と漢字で彫りこんだ115文字に金線を打ち込んで武蔵国の豪族ヲワケに下賜しました。
ワカタケルはその前にも同じように火の国の豪族ムリテに下賜した剣があります。
『大王ワカタケルの御代に典曽として仕えた者、名はムリテ。八月に、大釜を用いて太刀を作る。八十回練り、九十回打つ。三寸上好の名刀・・・』の75の銀文字はヲワケより格が下だからというものです。
この二つの太刀の話になったときに、「この二つの太刀をこの目で確かに見たことがある」という確信の記憶がよみがえりました。
九州国立博物館で10年ほど前に『古代九州の国宝』展がありました。
その中に錆びた2本の太刀があり、説明がないならとても足を止めるようなものではありません。
よーく見るとその錆の中にくっきりと金色の漢字が浮かび上がってきます。1500年前の耀きと厳かな息づかい!
その漢字は音を当てはめたもので意味は全くわかりません。ただ2本とも国宝に指定されるほどに文字の内容が重要だったのです。
そして今、その文字から天皇の統治体制、漢字文化、鉄の製造、刀剣の製法が分かることをこの小説で納得しました。
当然国宝に値するものだとわかり、その鉄剣2刀をこの目で見た事実に感激しました。華のない地味な展示品でしたが。
倭の五王の一人雄略が武蔵国と火の国、つまり東と西の豪族に貴重な刀剣を与えたことから、日本の国が広範囲に形造られていくのがわかります。
日本書紀でしか伺い知ることのできない時代をこうして垣間見ることができるのは、まさにロマン、素晴らしいことです。
鴻池朋子氏のさし絵、初めの頃は、秘めたうごめくエネルギーを押さえ込むような荒削りなタッチの抽象的なものでしたが、少しずつ具象の絵になっています。まさに国造りが形をなしていくように。
ストーリーも画も、これから先が楽しみです。