新・遊歩道

日常の中で気づいたこと、感じたこと、心を打ったこと、旅の記録などを写真入りで書く日記です。

『武士の家計簿』  磯田道史 著

2009年08月23日 | 本・新聞小説

Busiちょうど2年前の8月、NHK「知るを楽しむ」で「拝見・武士の家計簿」が1カ月にわたって放送されました。

講師の磯田氏が最近発見した加賀藩の古文書から、人物や社会を復元した実にユニークな番組でした。

映画やドラマを観るたびに、大名も藩士も家の収入と支出はどのような仕組みになっているのか、具体的にどのような家計だったのか・・・肝心の経済状態がいつも疑問でした。

武士は食わねど高楊枝…と意地を張っていた武士の家計は、おおむね火の車で、年収の2倍の借金は珍しくなかったようです。これは今までの武士の概念とは違う、目からうろこの番組でした。歴史小説、時代小説では、武士の表の顔しか見えてきませんが、ここでは資料に基づいた裏側の武士の日常が手に取るように見えてきました。

江戸の貨幣価値、武士の収入、俸禄と銀換算、家の負債、家財売却リストなど、自分の身の丈でイメージできて江戸の日常が急に身近に感じられました。

Busi2_5もっと詳しく知りたいと思っていたところ、たまたま受けていた古文書講座で推薦されたのが『武士の家計簿』で、ベストセラーになっていた本でした。早速購入すると、例が具体的なだけに非常にわかりやすい納得しやすい楽しい本でした。

江戸後期、加賀藩の女性は決してしいたげられていたわけではありません。ちゃんとお小遣いの配分も受けていたのです。子供を産み母、祖母となるに従ってステータスは上がり、お小遣いが増えているのです。

離婚率も高くそのために妻の財産は独立していたというのも、封建的な武家女性のイメージとはずいぶん違っていました。

とても興味深いのが、借金返済のために家財を売却したリストです。書籍、花嫁衣装、茶道具、食器の代銀(匁)を現代感覚の円に換算して、なんと1000万円で売却しているのです。

利息18%の借金を減らし、残りを交渉によりどうにか返済して0からのスタート。子供に教育を受けさせて、その能力で幕末から明治へと立身出世していく過程が見事なドラマのようです。

それにしても加賀藩のおけいこ事は、月謝が8000円、1週間の集中修行が30万円弱とは、現代の教育費以上で意外でした。

この本の知識を得ただけで、テレビも映画も小説もグンと面白く読めそうです。

ついでながら、磯田氏とこの段ボールいっぱいの古文書との出会いは平成13年夏。販売目録で偶然に見つけて、ポケットに16万円をねじこんで駆けつけたのだそうです。この偶然の出来事が歴史をまた新しく認識させたと思うと、つくづく資料の貴重さを思わずにはおられません。

コメント (12)