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位相空間論 概説

『数学事典』より

位相空間論が数学の分野として確立されたのは比較的新しい。集合論的位相空間論と代数的位相幾何学は、現在では区別される。後者では代数的手法によって問題を解く。集合論的位相空間論(位相幾何)の起源は実解析にある。収束の理論は、実数の演算、順序を表に出すことなく、点集合の性質のみを用いて展開できることを示した。こうして位相構造が第3の構造として抽象化された。すなわち、この構造では、近傍、開集合、閉集合、触点、集積点、収束、連結性、コンパクト性などの一般概念が定式化され、点集合は、それらを基にして分類される。

このように位相空間論が解析学を越えて発展したことに本質的に寄与したのは、その公理論的基礎付けである。幾何同様、数種類の点集合が、適切に選ぱれた公理系で特徴付けられる。

これは例えば,空間の任意の点に,近傍公理をみたす部分集合の系、すなわち近傍系を対応させて行われる。位相空問のこの定義は主にハウスドルフにまでさかのぼる。基礎概念「近傍」によって、中心概念「開集合」が捉えられる。位相数学にとって、後者の概念は、位相空問のもう一つの同値な定義としてより正当なものとなる。そこではまず部分集合族が開集合族として公理により提示され、次に開集合を用いて「近傍」が定義される。この、開集合族に基づく位相空問の定義によりいろいろな証明が容易となる。全開集合の系を位相と呼び、それらが部分集合であるところの根底にある集合をその位相の台集合と呼ぶ。

二つの位相空間の比較は、台空間の間の写像であり、双方の位相の開集合を関係付けるものにより行われる。台集合の間の全単射で、開集合族の間の全単射を引き起こすものが存在するとき、両者を同相な空間という。それらは位相的手段によっては区別できない。このような写像を、同相写像(ホメオモルフィズム)と呼ぶ。幾何学で考えたように、同相写像の作用に対して不変にとどまるような位相空間の性質が重要になる。そのような性質は位相不変量と呼ばれる。

一連の位相不変量は、さらに連続写像のような、より広いクラスの写像のもとで不変のままなことがある。もちろん同相写像はすべてそのようなものであるが、連続写像がすべて同相とは限らない。しかし、逆写像も連続であるような、全単射連続写像全体として、同相写像のクラスは完全に記述される。連続写像のもとでの不変量はすべて同相不変量であるので、位相幾何では実解析の場合と同様、連続写像が重要な意味を持つ。それゆえ、ユークリッド空間における位相幾何は「連続幾何」とも呼ばれる。2個以上の元を持つ底集合を位相空間化するには、実に多くの方法がある(p。205)。その内から何を選ぶかは、そこで展開されるべき理論に基づいて行われる。例えば、ユークリッド空間には、いわゆる自然な位相が与えられる。この位相が特別視されるのは、解析学への考慮からである。この位相での開集合を定義する際に用いられる性質は、2点間の距離が測りうること、すなわち、この空間が計量的であることである。この「測ること」は、ユークリッド計量と呼ばれる写像の性質として記述される。

ユークリッド空間の一般化は距離空間であるが、これらはユークリッド空間のように計量を用いて位相空間となる。全距離空間の類は純位相的性質によって、すなわち、計量そのものを使うことなく特徴付けられる(距離付け可能性)。集合の位相付けは、すでにある位相空間で、その集合と特別な写像によって関係付けられているものを利用して行われることもしばしばある。いわば位相を誘導するのである。この方法は例えば部分集合、商集合、直積、和集合などの位相付けに用いられる。

位相空間論の目的は、解析学での収束理論を可能な限り一般の位相空間に持ち込むことにある。そのため点列の概念は拡張されフイルター基(フィルター、p。216)が考察される。この理論は、しかし、特別な位相空間において初めて満足すべきものとなる。

ハウスドルフ空間は分離公理をみたす空間の類に属する。この類の重要なものとして、特に距離付可能性の観点から正則、完全正則、あるいは正規空間などがある。距離空間は、この類の空間の例となっている。

被覆の性質の考察から擬コンパクト空間、コンパクト空間などが定義される。コンパクト空間は距離空間と同様、すべての分離公理をみたしているが、すべての距離空間がコンパクトであるわけではない。しかしながら、距離空間はすべてパラコンパクトである。これはコンパクト性と正規性の間に導入された概念で、距離付け可能性に関して重要なものである。

位相空間論は、解析学、関数論、関数解析。徴分幾何などの、数学の多くの分野に基礎を与えるもつである。


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