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マルクスは大英図書館で著作

『世界精神マルクス』より ジャック・アタリ
大英図書館での研究
 ほぼ六年前に契約した経済学の書物を書き上げるために、エンゲルスの示唆で大英図書館へ通う。そこで狭い家によって奪われた静けさと熱気を満喫した。そして家では二人の妊婦がいざこざを起こしてもいた。大英図書館には他の亡命者もいた。彼らも「世界の運命を変える書物」を書こうと資料を探していた。
 カールはそこで貨幣、賃金、資本、投資、労働者の生活状態を研究する。「彼は朝早く行き、夜七時までそこにいて、家に戻って食事をし、書斎でタバコを吸いながら仕事をする」。イェニーも彼にどこかで賃労働の職を見つけてほしいと、非難するわけでもない。彼はますます経済学に没頭する。そしてますます政治に対する興味を失う。共産主義者同盟の会議にますます疎遠になっていったとき、チャーティストの指導者ジョーンズが来訪し、彼に民主友愛会について語った。社会民主国際協会を作ろうと考えていたが、カールは関心をもたなかった。彼はむしろ『タイムズ』の蒸気船ブレーザーの記事を読む方に気を取られた。これはドーヴァーとカレーの間の最初の海底ケーブルを敷設した船であった。そこに革命があると彼は考える。エングルスと電信で会話する、なんという時間の得か。
 一八五一年三月二十八日、新しい小さな家で、夫婦の五番目の子供フランツィスカが生まれた。三月三十日の調査では、そこには四人が住み(カール、イェニー、ヘレーネ、彼らを助けるためにやってきたその妹のマリアンネ、彼女もイェニーの母が給与を支払っていた。そして四人の子供(マルクスの生き残った娘三人と息子一人)。彼らは一年に部屋代としてニニポンド支払っていた。ヘレーネは子供の父親について明かすことはなかった。
 娘の誕生の三日後、誕生を知らせる手紙で、経済に関しては読めるものは読み終え、これ以上の仕事はないという手紙をエングルスに書く。「五週間以内でこのやっかいな経済学と手を切れると考えている。大英図書館で、別の学問を研究しようと思っている。経済学には退屈し始めているからだ。根本的には経済学はアダム・スミスとデヴィッド・リカードウ以来進歩はしていない。もちろん孤立した、とりわけ詳細な研究が進んではいるか」。この手紙でエングルスが演じるひとつの役割について述べている。次の手紙ではそのことについて書いていない。しかし、フリードリヒには、四月にマルクスがエンゲルスのもとを訪問する際、そのことを直接話そうといっている。ここで問題になっている秘密が何であるかは後に話そう。
 エングルスは皮肉をもって、しかしやさしく答える。「君は重要だと思う書物が見つかれば、書くことはないのだから」と。なぜならエングルスはマルクスの性格をよく知っていた。実際、カールは読み続け、書くことはない。
マルクスの可能性
 資本主義が、社会関係の商品化を完成し、資源のすべてを利用しつくすとすれば、しかも資本主義が人間を破壊することがないとすれば、世界的社会主義への道を開いてくれるだろう。言い換えれば、市場は友愛に道を譲るだろう。それを想像するには、マルクスが世界的社会主義を描いたときすでに作り出していた原理に戻る必要がある。すなわち、無償「生産」するのではなく、「創る」という芸術、共有、自由と責任の遂行に必要な財(「重要な財」)を自分のものにすることである。それを行う世界国家がない以上、地球規模による権力の遂行ではなく、マルクスが好んだこの「革命的進歩」、世界精神へ移行することによって成し遂げられるだろう。責任と無償に進まねばならない。すべての人間が世界市民となり、最終的には世界は人間のために作られることになろう。
 その際、カール・マルクスを再読する必要がある。そこに、過去の世紀の間違いを再度犯さず、間違った確信に進まないための原因を汲みとることができよう。権力はすべて可逆的であること、理論はすべて異論によってつくられるということ、真実はすべて乗り越えられるものであること、専制は死を招き、絶対的善は絶対的悪の源泉であることを認めるべきだろう。思想はすべてを説明することなく開き、反対意見を認め、原因と責任、メカニズムと行為者、階級と人間を混同してはいけない。
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