未唯への手紙
未唯への手紙
病態生理学を学ぶための基礎知識 腫瘍
『病態生理学』より 病態生理学を学ぶための基礎知識
良性腫瘍と悪性腫瘍
すべての細胞は一定の規律に従って分裂・増殖しているが、なんらかの原因でこの規律からはずれた細胞が無秩序に増殖したものを腫瘍という。腫瘍形成の中心になっている細胞を腫瘍細胞という。
腫瘍の形態
皮膚や粘膜表面にある腫瘍細胞がかたまり(結節、腫瘤)をつくりながら増殖する場合、その多くは突出したふくらみ(隆起病変)としてあらわれる。これをポリープという。茎を形成しながら発育し、あたかもマツタケのような形態になったものを有茎性ポリープという。また多数のポリープが密集して発生した病態をポリポーシスといい、大腸などでみられる。
腫瘍の悪性度
腫瘍はその臨床的性質および生物学的性質により良性腫瘍と悪性腫瘍とに分けられる。その分類基準は、形態、発育速度、浸潤形式、転移の有無などである。両者の中間的性質を持った腫瘍もある。臨床的には、良性腫瘍は身体への影響が軽微で局所的であり、致死的ではないものが多く、悪性腫瘍は重篤で致死的なものが多い。
上皮性腫瘍と非上皮性腫瘍
ヒトの組織は、体表や腔所の内面をおおう上皮組織とその深部にある非上皮組織とに分けられる。上皮組織は、皮膚・呼吸器・消化器・内分泌器・泌尿生殖器などに存在する。一方、非上皮組織は、骨・筋肉・脂肪・神経・血管・血液などで、どの臓器にも共通して存在する組織である。上皮組織と非上皮組織とは基底膜で明確に分離されている。上皮組織内には血管もリンパ管も存在しない。
がん腫と肉腫
悪性腫瘍のうち、上皮細胞から発生した悪性上皮性腫瘍を癌carcinoma (癌腫、カルチノーマ)といい、非上皮細胞から発生した悪性非上皮性腫瘍を肉腫sarcoma (サルコーマ)という。両者をあわせてがん(キャンサーcancer)、悪性新生物とよばれる。
呼吸器・消化器・内分泌器・泌尿生殖器から発生する悪性腫瘍のほとんどは上皮性腫瘍、すなわち癌である。骨には上皮組織が存在しないため骨から発生する悪性腫瘍はすべて肉腫である。胃には上皮細胞と非上皮細胞か存在する。
したがって、胃には上皮細胞が悪性化した胃癌と非上皮細胞か悪性化した胃肉腫の両方が発生する。胃以外の多くの臓器にも上皮細胞と非上皮細胞が存在するが、肉腫の発生頻度は癌に比べれば非常に低く、悪性新生物の約9割は癌である。
組織型
上皮組織には、扁平上皮・腺上皮・尿路上皮(移行上皮)などがあり、上皮性腫瘍の分類は、この発生母地の種類によって行われている。これを組織型という。扁平上皮から発生したものが扁平上皮癌、腺上皮から発生したものが腺癌、尿路上皮(移行上皮)から発生したものが尿路上皮癌(移行上皮癌)である。どの上皮由来か判然としないものを未分化癌という。
がんの進展・転移
がんの臨床的に大きな問題は、遠隔転移をおこすことである。がん細胞が発生した部位でそのまま発育した腫瘍を原発性腫瘍といい、別な場所から非連続性に移動し、そこで発育した腫瘍を転移性腫瘍という。転移の様式には、血行性転移、リンハ行院転移・播種などがある。
1 血行性転移
上皮性腫瘍の場合、がん発生初期のがん細胞は、血管もリンパ管も存在しない上皮組織内に限局して存在している。増殖によりがん組織が基底膜を破ると、そこには血管やリンパ管を含む非上皮組織かおり、血管壁を破って血管内に侵入したがん細胞は血流に乗って全身をまわる。やがて遠隔組織の血管内壁に接着したがん細胞は、その部分の血管壁を破り、組織に侵入して発育する。これが血管を介した血行性転移である。
非上皮性腫瘍の場合は、発生母地の組織内にすでに血管が存在するため、腫瘍発生直後からすでに遠隔転移をしている可能性がある。
血行匝転移は、全身どこにでも転移する可能性があるが、最初の毛細血管に引っかかることが多い。そのため通常の静脈内に侵入した場合は肺に、門脈内に侵入した場合は肝臓に転移しやすい。このような転移性腫瘍は複数の部位に同時に発生することも多い。
2 リンハ行性転移
がん細胞がリンパ管内に侵入した場合は、リンパ行性転移となりリンパの流れに従ってリンパ節を順番に転移していく。原発巣からのリンパ流を最初に受けるリンパ節をセンチネルリンパ節といい、がんのリンハ行性転移はこのセンチネルリンパ節に最初におこる。センチネルリンパ節にがん細胞が存在しなければ、リンハ行既転移はまだおきていない可能性が高い。
ウィルヒョウリンパ節転移
腹腔内臓器からのリンパは胸管を通り左内頚静脈と鎖骨下静脈がつくる左静脈角部より静脈内に流入する。したがって、左鎖骨上高リンパ節に転移がある場合、がん細胞の静脈内への流入による全身への転移の可能性がきわめて高くなる。これをウィルヒョウリンパ節転移という。
3 播種
胃や大腸のような腹腔内臓器のがんが浸潤して腹膜まで達すると、がん組織が腹腔内面に顔を出す。すると腹腔内にあたかも植物の種をばら播いたようにがん細胞が広がり、広い範囲に多数の転移巣を生じる。これを播種という。
腹膜播種と胸膜播種
胃がんや膠臓がんが腹膜方向に発育した場合、腹膜播種が生じる 。また、肺がんが胸膜面まで発育すると胸膜播種が生じる。播種による転移巣が発育すると炎症をおこし、腹水や胸水がたまってくる。これをがん性腹膜炎・がん性胸膜炎という。この場合、貯留している腹水・胸水はタンパク質の含有量が高く、しばしば血性で、液中にはがん細胞を含む。
シュニッツラー転移
腹腔内で最も低位置にあるダグラス高(女性の直腸と子宮との間)や直腸膀胱高(男性の直腸と膀胱との間)には、腹腔内に播種されたがん細胞が集まりやすく、転移巣をつくりやすい。このような転移をシュニッツラー転移という。シュニッツラー転移の有無は、直腸の指診で診断可能である。
がん遺伝子とウイルスによる発がん
がん遺伝子
ヒトは、src、ras、myc、her2などのがん遺伝子を持っている.こうしたがん遺伝子は、本来は細胞の分化や増殖を調節する遺伝子としてはたらいているもので、通常の制御された状態では細胞をがん化させる作用はない。しかし、なんらかの原因で制御がはずれて活性化されると、がんを発生させることがある。
がん抑制遺伝子
また、ヒトの正常細胞には、p53やBRCA1.2といったがん化を抑制するがん抑制遺伝子も存在する。これらの遺伝子に欠損や変異がおこると、がんが発生することがある。たとえば、遺伝子に異常があると、家族性乳がんの発症リスクが高まる。一
ウイルスによる発がん
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)はヒトヘの感染により成人T細胞白血病(ATL)を発症する。また、ヒトパピローマウイルス(HPV)は、子宮頭がんの原因となることが知られている。
良性腫瘍と悪性腫瘍
すべての細胞は一定の規律に従って分裂・増殖しているが、なんらかの原因でこの規律からはずれた細胞が無秩序に増殖したものを腫瘍という。腫瘍形成の中心になっている細胞を腫瘍細胞という。
腫瘍の形態
皮膚や粘膜表面にある腫瘍細胞がかたまり(結節、腫瘤)をつくりながら増殖する場合、その多くは突出したふくらみ(隆起病変)としてあらわれる。これをポリープという。茎を形成しながら発育し、あたかもマツタケのような形態になったものを有茎性ポリープという。また多数のポリープが密集して発生した病態をポリポーシスといい、大腸などでみられる。
腫瘍の悪性度
腫瘍はその臨床的性質および生物学的性質により良性腫瘍と悪性腫瘍とに分けられる。その分類基準は、形態、発育速度、浸潤形式、転移の有無などである。両者の中間的性質を持った腫瘍もある。臨床的には、良性腫瘍は身体への影響が軽微で局所的であり、致死的ではないものが多く、悪性腫瘍は重篤で致死的なものが多い。
上皮性腫瘍と非上皮性腫瘍
ヒトの組織は、体表や腔所の内面をおおう上皮組織とその深部にある非上皮組織とに分けられる。上皮組織は、皮膚・呼吸器・消化器・内分泌器・泌尿生殖器などに存在する。一方、非上皮組織は、骨・筋肉・脂肪・神経・血管・血液などで、どの臓器にも共通して存在する組織である。上皮組織と非上皮組織とは基底膜で明確に分離されている。上皮組織内には血管もリンパ管も存在しない。
がん腫と肉腫
悪性腫瘍のうち、上皮細胞から発生した悪性上皮性腫瘍を癌carcinoma (癌腫、カルチノーマ)といい、非上皮細胞から発生した悪性非上皮性腫瘍を肉腫sarcoma (サルコーマ)という。両者をあわせてがん(キャンサーcancer)、悪性新生物とよばれる。
呼吸器・消化器・内分泌器・泌尿生殖器から発生する悪性腫瘍のほとんどは上皮性腫瘍、すなわち癌である。骨には上皮組織が存在しないため骨から発生する悪性腫瘍はすべて肉腫である。胃には上皮細胞と非上皮細胞か存在する。
したがって、胃には上皮細胞が悪性化した胃癌と非上皮細胞か悪性化した胃肉腫の両方が発生する。胃以外の多くの臓器にも上皮細胞と非上皮細胞が存在するが、肉腫の発生頻度は癌に比べれば非常に低く、悪性新生物の約9割は癌である。
組織型
上皮組織には、扁平上皮・腺上皮・尿路上皮(移行上皮)などがあり、上皮性腫瘍の分類は、この発生母地の種類によって行われている。これを組織型という。扁平上皮から発生したものが扁平上皮癌、腺上皮から発生したものが腺癌、尿路上皮(移行上皮)から発生したものが尿路上皮癌(移行上皮癌)である。どの上皮由来か判然としないものを未分化癌という。
がんの進展・転移
がんの臨床的に大きな問題は、遠隔転移をおこすことである。がん細胞が発生した部位でそのまま発育した腫瘍を原発性腫瘍といい、別な場所から非連続性に移動し、そこで発育した腫瘍を転移性腫瘍という。転移の様式には、血行性転移、リンハ行院転移・播種などがある。
1 血行性転移
上皮性腫瘍の場合、がん発生初期のがん細胞は、血管もリンパ管も存在しない上皮組織内に限局して存在している。増殖によりがん組織が基底膜を破ると、そこには血管やリンパ管を含む非上皮組織かおり、血管壁を破って血管内に侵入したがん細胞は血流に乗って全身をまわる。やがて遠隔組織の血管内壁に接着したがん細胞は、その部分の血管壁を破り、組織に侵入して発育する。これが血管を介した血行性転移である。
非上皮性腫瘍の場合は、発生母地の組織内にすでに血管が存在するため、腫瘍発生直後からすでに遠隔転移をしている可能性がある。
血行匝転移は、全身どこにでも転移する可能性があるが、最初の毛細血管に引っかかることが多い。そのため通常の静脈内に侵入した場合は肺に、門脈内に侵入した場合は肝臓に転移しやすい。このような転移性腫瘍は複数の部位に同時に発生することも多い。
2 リンハ行性転移
がん細胞がリンパ管内に侵入した場合は、リンパ行性転移となりリンパの流れに従ってリンパ節を順番に転移していく。原発巣からのリンパ流を最初に受けるリンパ節をセンチネルリンパ節といい、がんのリンハ行性転移はこのセンチネルリンパ節に最初におこる。センチネルリンパ節にがん細胞が存在しなければ、リンハ行既転移はまだおきていない可能性が高い。
ウィルヒョウリンパ節転移
腹腔内臓器からのリンパは胸管を通り左内頚静脈と鎖骨下静脈がつくる左静脈角部より静脈内に流入する。したがって、左鎖骨上高リンパ節に転移がある場合、がん細胞の静脈内への流入による全身への転移の可能性がきわめて高くなる。これをウィルヒョウリンパ節転移という。
3 播種
胃や大腸のような腹腔内臓器のがんが浸潤して腹膜まで達すると、がん組織が腹腔内面に顔を出す。すると腹腔内にあたかも植物の種をばら播いたようにがん細胞が広がり、広い範囲に多数の転移巣を生じる。これを播種という。
腹膜播種と胸膜播種
胃がんや膠臓がんが腹膜方向に発育した場合、腹膜播種が生じる 。また、肺がんが胸膜面まで発育すると胸膜播種が生じる。播種による転移巣が発育すると炎症をおこし、腹水や胸水がたまってくる。これをがん性腹膜炎・がん性胸膜炎という。この場合、貯留している腹水・胸水はタンパク質の含有量が高く、しばしば血性で、液中にはがん細胞を含む。
シュニッツラー転移
腹腔内で最も低位置にあるダグラス高(女性の直腸と子宮との間)や直腸膀胱高(男性の直腸と膀胱との間)には、腹腔内に播種されたがん細胞が集まりやすく、転移巣をつくりやすい。このような転移をシュニッツラー転移という。シュニッツラー転移の有無は、直腸の指診で診断可能である。
がん遺伝子とウイルスによる発がん
がん遺伝子
ヒトは、src、ras、myc、her2などのがん遺伝子を持っている.こうしたがん遺伝子は、本来は細胞の分化や増殖を調節する遺伝子としてはたらいているもので、通常の制御された状態では細胞をがん化させる作用はない。しかし、なんらかの原因で制御がはずれて活性化されると、がんを発生させることがある。
がん抑制遺伝子
また、ヒトの正常細胞には、p53やBRCA1.2といったがん化を抑制するがん抑制遺伝子も存在する。これらの遺伝子に欠損や変異がおこると、がんが発生することがある。たとえば、遺伝子に異常があると、家族性乳がんの発症リスクが高まる。一
ウイルスによる発がん
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)はヒトヘの感染により成人T細胞白血病(ATL)を発症する。また、ヒトパピローマウイルス(HPV)は、子宮頭がんの原因となることが知られている。
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