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健康心理学 食行動

『よくわかる健康心理学』より

①食行動と健康

  食べることは、空腹やのどの乾きといった生物的欲求を満たすだけでなく、象徴的、倫理的、文化的活動でもあり、人間が存在する上で関わりの深い行動です。栄養のある食品をバランスよく摂取し、エネルギーの摂取と消費を適切に保つことが健康には大切です。しかし、食事の欧米化、食事の不規則化や欠食、個食、簡略化から栄養バランスの乱れが指摘されています。厚生労働省でも健康日本21などの施策を立て、国民が健康的な食生活を送り健康行動を維持できるようさまざまな取り組みを行っています。質の悪い食習慣は、肥満や高血圧、高脂血症などの生活習慣病やがんや虚血性心疾患、骨粗軽症、歯科系疾患を引き起こす引き金となり、医療費の増加、疾病によるQOLの低下などさまざまな問題につながります。したがって、疾病の予防と治療のために徹底したコミュニティーベースでの栄養管理と効果的な健康教育、不健康な食行動改善とその維持を目的とした個人への介入などが求められています。

②食行動変容と心理学研究

 健康的な食事の摂取をライフスタイルとして習慣化させるために短期的ではなく長期的な食行動の変容および維持を目指すことが大切です。より効果的な介入のために さまざまな心理学研究分野からの知見を食行動変容プログラムに生かすことができるでしょう。

 ○自己効力感と食行動

  ダイエット行動や減量、健康的な食事の維持は自己効力感と深い関わりがあります。先行研究では、食事をうまくコントロールできることへの自己効力感が高い者は、元の不健康な食生活に戻ってしまう傾向が少ないことが示されています。また、肥満改善のための行動療法に対七て、自己効力感の高い肥満者はしっかりと取り組む姿勢がみられることも研究からわかっています。

 ○モチベーションと食行動

  減量指導における長期的なモチペーションの維持についての研究は、金銭などの有形の誘因を用いる方法や、ソーシャルサポートを用いる方法などがあります。減量の度合いにより報酬が定期的に得られるシステムは、減量へのモチベーションの維持に効果がありますが、減量前に預金をし減量した分だけ返却されるというシステムは、効果が薄いことがわかっています。また、ソーシャルサポートは、報酬システムの導入よりも効果的です。個人での減量よりも、グループでの介入の方がモチベーションを維持でき減量の成功につながります。親しい友人との参加などによりソーシャルサポートを高めることは、さらに効果的であることがわかっています。

 ○性格と食行動

  ロールシャッハテストを用いて、肥満者の性格と肥満治療の予後を検討した研究の結果、性格の違いに注目し、効果的な肥満治療方針を模索することの必要性が見出されました。物事を多面的にみようとせず大雑把に単純化して捉える高ラムダ型の患者に対しては、小さな目標を示し、その達成時には大きな賞賛を与えることが効果的で、達成感を育成していくことが大事であるといえます。また治療を中断してしまいやすい低EA型に対しては、失敗を繰り返させないための振り返りが必要です。

③食行動変容のためのヘルスプロモーション

 健康な食行動を地域住民に広めていくために、健康教育や肥満教室、地域住民への栄養指導などが行われています。このような個人または家庭を対象としたコミュニティ内での食行動に対しての教育、予防だけでなく、社会・国家という視野からの第1次予防がもっとも大きな効果をあげます。

 児童への食育もその一つです。 2003年に内閣は、「知育」「徳育」「体育」の三本柱に加えて「食育」をあげ、 2005年に食育基本法、 2006年に食育推進基本計画を制定しました。また文部科学省も児童生徒が正しい食習慣を身につけ、食事を通して自己の健康管理ができるようになることを具体的な目標としました。それを受け、食育にはさまざまな方法が導入され始めました。

 効果的な肥満予防教育である児童の食行動変容のための健康増進プログラムKnow Your Bodyもそのうちの一つです。このプログラムの目的は、子どもたちが食生活などの問題に関して健康上好ましい決定を下すのに必要な知識、態度、技術を身につけるのを助け、高血圧、高コレステロール、肥満などのリスクファクターを低減することにあります。また、適切なライフスキルを身につけることにより、セルフエスティームを高めていくライフスキル教育であります。

 疾病予防、健康増進のための政策の変更、食事産業への法制化、食事の質を改善するための全住民に対するヘルスプロモーションは、個人へのアプローチより大きな影響力があり、より効果的で経済的にも効率がよいことがわかっています。

 食に関する情報が氾濫する中、自分のよりよい生き方を求め、自ら自分の食生活を適切なものに保つ能力の育成は、現代の日本において今後さらに広めていくことが大切でしょう。
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