古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

里山資本主義

2014-03-20 | 読書
『里山資本主義』(藻谷浩介&NHK広島取材班著、角川、2013年7月刊)は、藻谷浩介さんの2冊目の書き下ろし。1冊目は、勿論『デフレの正体』である。
 生産年齢人口が「デフレ」の原因と説く筆者は、2冊目で何を語るか、とこの本をGETしてきました。第1章では、事例紹介、岡山県真庭市の銘建工業を取り上げる。製材の過程で出るおがくずを燃やす「木質バイオマス発電」、使用する電力のほぼ100%を自家発電で賄う。生産する木質ペレットは灯油とほぼ同じコストで、ほぼ同じ熱量を得ることができる。
 真庭市では銘建工業の木くずによる発電に加え、ペレットの熱利用に目を向けエネルギー自給率を高めている。
 市の調査によると、全市で消費するエネルギーのうち実に11%を木のエネルギーで賄うという。
 
 面白いのは、外国の例、第2章「21世紀先進国はオーストリア」でのオーストリア紹介。同国の記事はあまり見たことがないので、興味を惹かれました。
 ジェトロが公表しているデータ(2011)によれば失業率はEU加盟国中最低の4.2%、一人当たり名目GDPは49688ドルで世界11位(日本は17位)、対内直接投資額は2011年前期比3.2倍の101億6300万ユーロ、対外直接投資額も3.8倍の219億500万ユーロ。何故人口1000万人に満たない小さな国、オーストリアの経済が安定しているのか?その秘密は「里山資本主義」だと説く。
 国土は北海道と同じぐらいの大きさで、森林面積でいうと、日本の約15%に過ぎないが、日本全国で生産する1年間に生産する量より多少多いぐらいの丸太を生産する森林先進国なのだ。
 日本と同じく地下資源に乏しく、原油を中東諸国に、天然ガスをロシヤからのパイプラインによる供給の依存してきた。このため、国際情勢が不安定化するたびにエネルギー危機に見舞われてきた。オーストリア人には中東からタンカーで運んでくる原油より、身近な資源の方が信頼できる。石油やガスを木質ペレットに置き換えることで、安心・安全を護れると考えた。
 今や私たちの生活の隅々にまで浸透したグローバル経済。農産物を地産地消しても、それを作るエネルギーを地域外から買っていると、グローバル化の影響は免れない。
 労働市場でも、ペレットは、ガスや原油にない大きな可能性を生み出した。原油や天然ガスの輸入ばかりしていては、雇用はほとんど増えない。
 ペレットやそれを利用したボイラーの生産技術は、オーストリアが他国の二歩も三歩も先を進む。他国にはない産業を育てれば、当然関連技術も自前で育てることになり、労働需要も高まる。
現在、オーストリアのエネルギー産出量の約28.5%は再生可能エネルギーによって賄われ、EUは、2030年までにバイオエネルギーの割合を34%にする目標を掲げる。
オーストリアは、世界でも珍しい「脱原発」を憲法に明記している国家である。1999年に制定された新憲法律「原子力から自由なオーストリア」で、第2項で、原発を新たに建設することと、既に建設された原発を稼働させることを禁止している。ちなみに第1項では、核兵器の製造、保有、移送、実験、使用を禁止している。
オーストリヤの人々はこれでも満足しなかった。オーストリアでは電力の一部を他の国から輸入していたが、その元をたどってみると、6%は他の国にある原発で作られた電力だ、とわかったのである。
原発由来の電力は1ワットたりとも使いたくない。2011年7月「エコ電力法」という法律を改正、風力や太陽光、それにバイオマス発電を増やすことを目的にその発電技術利用拡大のための補助金を2100万ユーロに増額・・・
これにより近いうちに電力の輸入をすべて停止できると計算している。
2000年ごろからロシヤはたびたび、冬を前にパイプラインによる天然ガスの供給を止めると脅かした。その結果、何度もパニックが起きた。オーストリアの人々が外からのエネルギー供給に対し強い警戒心を持つのはこの影響が大きい。
藻谷さんは言う。「人が生きていくのに必要なのは、お金だろうか。それとも水と食料と燃料だろうか」。
「日本の国際競争力は、地に落ちてなどいない。報道とは違って日本製品の多くが着実に売れ続けているのに加え、これまでの海外投資も多くの金利配当収入をもたらし、バブル崩壊後の20年間だけでも300兆円ほどの経常収支が外国から流れ込んだ。」
「一方、日本政府に還ってきている税収は年間40兆円未満。政府は毎年税収と同額以上を借り増ししないと資金繰りが回っていかない。そうこうしているうちに国内の貯蓄がすべて国債になってしまう状況が近づきつつある。」
「他方で海外に支払う燃料代は年々増えている。日本の石油・石炭・天然ガスなどの輸入額は、20年前には5兆円に満たなかったが、・・・今では年間20兆円を超えている。」
藻谷さんの「里山資本主義」とは、お金の循環がすべてを決するという「マネー資本主義」(グローバル経済)経済システムの横に、こっそりとお金に依存しないサブシステムを構築しておこうという考え方です。
アベノミクスの円安は、折角競争力ある日本製品を安く売り、海外から買い付ける燃料・食糧を高くする。燃料・食糧は工業で稼いだお金で世界中から買えばいい、という考えが日本経済の苦境を招いていると思う。藻谷さんのいうように、グローバル経済で稼ぐというシステムの他に、燃料・食糧は近場で調達するサブシステムがないといけない。「里山資本主義」は、お金の効率よりも運搬距離の効率を重視するシステムと言えます。

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