古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

地上の暮らしは大変だ

2017-07-23 | 読書

本川達雄先生の本はいつも面白い話題が満載です。2月に出た「ウニは凄い バッタもすごい」(中公新書)を購入しました。

生物は海で誕生した。陸にまず上がったのは植物である。次いで節足動物が上陸、植物を餌とし、さらに四肢動物が上陸して節足動物を餌とした。初期の四肢動物はすべて肉食である。四肢動物が陸上で暮らす困難をどう解決しちったか、見てみよう。

1.  水の入手

生物の身体は重量で見ると、半分以上が水で、水がなければ生きていけない。水中なら周りにいくらでも水があるが、陸では水の入手が深刻な問題になる。

入手だけでなく、水を失うことも問題となる。周りが乾いた空気だから、生物の身体のように水っぽいものからは水は蒸発して逃げてしまう。体表を覆ってそれを防がねばならない。昆虫では体表のクチクラのワックス層がその役目を担い、四肢動物ではグループにより異なるが、昆虫類では鱗、鳥類は羽毛、哺乳類では毛がその役目を果たす。

 両生類ではどうか。両生類は魚から進化して最初に陸に上がった四肢動物である。魚には鱗があったが、両生類はそれを脱ぎ捨ててしまった。

 鱗を脱いだことには呼吸が関係しているかもしれない。両生類では肺が発達しておらず、かなりの程度皮膚呼吸に頼る。酸素の半分以上は皮膚から取り込み、二酸化炭素の排出にいたってはほとんど皮膚からで、皮膚呼吸の妨げになる鱗を両生類は脱いでしまった。

2.  姿勢の維持

水中では体重のほとんどは水の浮力が支えてくれる。ところが空気の比重は水の800分の1だから陸では体重の0.1%ほどしか浮力がない。水中で暮らしていた時の身体のままでは自重で身体がつぶれてしまう恐れがある。身体を支える支持系(骨格系)が必要になる。陸では歩くのも大変である。身体を地面につけ雨脚で這えば、ものすごく大きい摩擦が生ずる。それを避けるには身体を地面から持ち上げる必要があり、それには大きなエネルギーがいる。水中なら浮力で支えられるし、水の流れに乗ってしまえば何もしなくても遠くまで行ける。

3. 食物の入手と消化

水中の生物は身体を支えるための硬い構造を持たないため、食物としては扱いやすい。また水中には生物の遺骸が分解された小さな粒子が沢山漂っている。

 それに対して、陸上生物は姿勢維持のために硬い構造を持っている。これを破壊しないと中身は消化できない。そのためには丈夫な歯や顎にょる物理的な破砕や、長い腸を時間をかけて通す化学的処理が必要になる。

4. 窒素代謝物の処理

身体を作っているタンパク質は、毎日分解され新たに作り直されている。タンパク質は分解されアンモニヤが生じ、これは有毒。水中なら体外に放出すればすぐ薄められるが、陸ではそうはいかない。身の回りを汚染してしまう。

そこで陸上動物はアンモニヤを無毒な尿素にして水に溶かし尿にして捨てる。ただし工ネルギーと、水が失われる。鳥類では水に溶けない尿酸にして固形物として排泄する。これは節水には良いが尿酸を創るのは尿素を造る3倍のエネルギーが必要だ。

5. 生殖

身体の小さいものほど体の割に表面積が大きい。水が逃げやすい。だから体の極端に小さい時代(卵、精子、幼生の時期)は陸上生活者にとって最も乾燥しやすい危険な時期である。両生類ではこの時期を水中ですごす。その他の四肢類では、卵や精子が大概の環境に直接触れないよう、交尾してオスがメスの体内に直接精子を送り込みメスの体内で受精させる。

爬虫類、鳥類、哺乳類の三つはまとめて有羊膜類と呼ばれる。胚が羊膜でできた袋で包まれているからだ。袋の中は水(羊水)が詰まっており、胚は水中で育つ。袋は、爬虫類・鳥類では丈夫で乾燥しにくい卵殻に包まれて母体の外に生み出される。哺乳類の場合には、袋が母の子宮内に入ったままで胚は育っていく。

 陸ではこれほど生殖に手間がかかるが、水中では事態はいとも簡単。乾燥の心配はないし、周りの水は動いており、短距離なら精子も泳いでいける。体外に卵と精子を放出するだけで受精がおこせてしまう。

(この時、メスとオスに快感があるかどうか、かねてから疑問におもっているが)

受精して子が出来たら、子供たちを広い範囲に散らばせるのがいい。陸ではそれをするにもコストがかかる。ところが水中では、幼生が水流に乗って遠くまで流れていける。小さければ相対的に表面積が大きいので沈みにくく流れを受けやすい。乾燥の心配もないので長期間漂うことが可能だ。そこで水中生活者では、幼生が子孫を広くばらまく作割を担う。成長した後に移動するよりコストがはるかに少ないのだ。

 ただし食われるリスクはたかまるから沢山の卵をばらまくことになる。

6. 温度の安定

水は空気より温めにくく冷めにくい。水の比熱は空気の4.2倍。密度は空気の830倍あるからだ。水中では気温の変化が少ないが、陸上では気温変化が大きい。生きているとは体内で化学反応が行われていることを意味し、化学反応は温度の変化を大きく受ける。この問題を鳥や哺乳類は恒温動物になることで解決する。まわりが寒くなれば食物を燃やして発熱し、暑くなれば汗を出してその気化熱で体を冷やす。ただし大量のエネルギーと水が必要になる。

7. 酸素の入手

陸上で容易になるのは酸素の入手だけ。陸の酸素濃度は海の30倍。空中の酸素の拡散速度も水中の8000倍もある。空中での呼吸は楽なのだが、だからといって呼吸器官に何の工夫も施さずに陸上生活に移動できるわけではない。エラは空中では働かないので肺を発達させなければならなかった。

 

最後に本川先生が授業の最後に歌った曲

地上の暮らしは大変だ

 

大変だ。大変だ。大変だ。大変だ。

地上の暮らしは大変なのだ。

丈夫な骨や細胞壁がなければ姿勢が保てない。

楽じゃないんだ地上の暮らし

 

大変だ。大変だ。大変だ。大変だ。

餌を食べるのも大変なのだ。

硬いクチクラや細胞壁を砕いて初めて中身が食える。

手間暇かかるぞ 地上の暮らし。

 

大変だ。大変だ。大変だ。大変だ。

水場は遠いぞ大変だ。

身体の6.7.8割水なのだから表面覆って節水しなきゃ

粘液、クチクラ、羽毛にうろこ

 

大変だ。大変だ。大変だ。大変だ。

歩いて行くのも大変なのだ。

水の中ならば浮力の支え

流れも後押ししてくれる。

そんなことは期待できぬ

地上の暮らし。