古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

脳の視点から見る恋愛

2016-09-29 | サイエンス
『単純な脳、複雑な私』(池谷裕二著、講談社ブルーバック2013年9月刊)から面白い話題を紹介します。
最初は「脳科学からみた恋愛」です。
「生物の使命」、やらなければいけないことの一つは、子孫を残すことです。ヒトだけでなく、すべての動物は子孫を残します。サルも子孫を残すために交尾します。サルはヒトに最も近い哺乳類。ではサルに恋愛感情はあるのでしょうか。
 サルも子育てをしますが、もっぱら母親の役割。実は父親はだれかわからない。たとえば動物園のサル山ならば、オスの数が限られています。そんな環境でも父親はわからないのが普通です。つまり「恋愛」の結果として子孫を残しているというわけではない。サルは発情したら、わりと手当たり次第、近くにいる異性と交尾し、子孫を繁栄させていくらしい。
では、ヒトはどうか。人間にはより高度な知性があります。おそらくできる限り優秀な子孫を残したいと、あれこれ思いを巡らせる。
 つまり、より秀でたパートナーをみつけなくちゃいけないという願望、つまり精神的プレッシャーが生まれる。しかし地球上にはどれだけのヒトがいるでしょうか。世界の人口は60億とか70億とか言われます。異性の数はその半分の30億人以上いる。
 30億人の候補者からベストな人、この人こそ最良なパートナーを決めるのは不可能でしょう。一人ひとり検証していたら、あっという間に繁殖適齢期が過ぎてしまう。
全ての候補を検証できないから次善の策として、身近の「まあまあよい人」を選んで妥協しないといけない。この意味でヒトとサルは同じです。ただそれだけだと、知的生物ヒトとしては、どこか納得できない。ではどうするか。
 ここで登場するのが「恋愛」、恋愛感情は「このヒトでいいのだ」と無理やり納得するために脳に備わっている。恋愛はテグメンタ(脳の“報酬系”と呼ばれる部位、快感を感ずるとき活性化する)を活性化して心を盲目にしてくれる。すると、目の前の恋人しか見えなくなりほかのヒトはどうでもいい。「私はこのヒトが好きなんだ」という奇妙な妄想が生まれる。
 それがベストな選択肢かどうかなんて実際はわからない。というより実際にはもっといい人はたくさん他にいるでしょう。それでも、脳が盲目になり、心の底からバカになることで、私たちは当面は納得して、子孫を残すことができる。
 以上とても「いい話」ですね。
 古来、芸術や演劇文学、それに哲学などでは、恋愛は崇高な対象として大切にされてきた。でも、脳の視点から見ると恋愛なんて、脳の誤作動だという解釈もできるというのです。