古稀の青春・喜寿傘寿の青春

「青春は人生のある時期でなく心の持ち方である。
信念とともに若く疑惑とともに老いる」を座右の銘に書き続けます。

思考停止状態

2014-05-07 | 読書
『銀行問題の核心』(江上剛&郷原信郎著、講談社現代新書、2014年2月)を図書館の棚で見つけて読んでみました。マスコミでおなじみの二人の対談ですが。ご両人の履歴がユニークです。江上さんは、早大政治経済学部政治学科の卒業後、第一勧銀に入行。97年の勧銀総会屋事件の混乱収拾に尽力。支店長時代に小説家としてデヴュー。
 片や、郷原さん。東大理学部卒で、検事任官。2006年退官後、弁護士。著書に「『法令順守』が日本を滅ぼす」(新潮新書)、『思考停止社会』(講談社現代新書)など。
―――大学で地質学をやっていた関係で、卒業後に鉱山会社の技術者として就職したんですが、すぐに自分が地質屋にまったく向いていないことがわかって、会社を辞めて司法試験を目指すという無茶なことを考えました―――
 お二人は、陸山会事件、銀行のシステム障害、大阪地検の証拠改ざん事件など、語り合っているのですが、事件の背景に、以下の言葉がすべて共通するように思われました。
郷原 九州電力の「やらせメール事件」の第3者委員会をやっているとき、中堅社員が「うちの会社は思考停止しないと出世できない組織ですから」と言っていました。まともにものを判断する人間はどんどん排除されていく。現場では電力を安定的に供給するために日々状況に対応し、判断して仕事をしていかないといけないのですが、課長以上になると、上のいうことを聞いて上に気に入られる人間が出世していく、そういう思考停止状態の人間だけが会社に生き残っていく・・・・
 まず、銀行のシステム障害。
江上 2002年に3行が統合して、システムも一緒にするときに大規模なシステム障害事故がありました。そのとき僕はまだ銀行にいて支店長をやっていました。そこでシステム統合前に富士銀行の役員などを集めて、絶対お宅のシステムのほうがいいからそれをもっと主張してくれと働きかけていたら、第一勧銀の役員から、おまえはなんだ、余計なことを言うなと言われましてね。だってどう考えても富士銀行のシステムの方が優れていて問題はおきませんよと、いったんですけどね。第一勧銀は第一と勧銀が一緒になるときも問題を起こした諸先輩の過去があるんじゃないですかというようなことまで言ったんですが、第一勧銀のシステムを使うことはもう既定路線だ、400億円も使っているんだ、余計なことを言うなって言われました。
 システム統合に合わせて、新しい伝票に全部切り替えるから古い伝票を全部破棄しろと本部から指示がきたんです。でも僕は・・・古い伝票を最低一か月分を持つように指示しました。
 そしたらオンライン事故でしょう。当然、古い伝票以外は使えない。他の支店の連中が古い伝票を僕の支店に取りに来ましたよ。
 次に陸山会事件と検察の証拠改ざん。
郷原 2009年の西松建設事件、翌年の陸山会の土地取得を巡る事件での政治資金規正法違反の立件に対しては、徹底して批判しました。従来の政治資金規正法の罰則適用からはあり得ないやり方で、まさに暴走捜査でした。そして、大阪地検の郵便不正事件では、厚労省の現職局長村木敦子氏(現事務次官)を逮捕、起訴しましたが、無罪判決を受け、しかも、主任検事の証拠改ざんまで明らかになり、検察に対する信頼は失墜した。・・・共同捜査に組み込まれると、検事個人は何も考えず、ストーリー通りの供述調書を作って署名させるだけの組織のマシーンになることを求められるのです。
郷原 西松建設社長を外為法違反で逮捕したのですが、その容疑事実というのは、交通違反程度の微罪でした。一部上場企業の社長をこんな微罪で逮捕したのに、その先に何もなかったことになると、特捜幹部の責任問題です。そうなると、普通ならやらないような事件でもなんとか立件して、特捜部として捜査の出口をつくりたいということで、政治資金規正法の強制捜査に着手したんだと思います。
 政権側が検察上層部に指示して、特捜部が動いたという「国策捜査」ではなく、あくまで特捜部の現場が無理な操作に着手しようとしたのに対して、検察内部で、どうしてそれをとめられなかったのか、という問題だと思います。
郷原 特捜部として捜査の対象とすべき案件かどうかということを見極めることがきわめて重要です。しかし、そもそも特捜部というところは、事件を選別しているところだというところが、一般の人にはあまり理解されていないように思います。
 たとえば、殺人事件であれば、事件が発生しているのに捜査しないということはあり得ない。・・・しかし、特捜部が手掛ける事件というのはそうではなくて、事件を捜査の対象とするかどうかについて、まず特捜部の現場が判断する。そこで、やろうという話になった事件について、最高検も含めて上層部の了承の下に強制捜査に着手するんです。ですから・・・問題は、そういう事件の取捨選択が適切に行われているのかどうか、そこをチェックする仕組みがうまく機能していないということなんです。
 昨年秋のみずほ銀行への業務改善命令。
郷原 2013年9月の金融庁のみずほ銀行への業務改善命令は、「反社会的勢力との取引を把握してから2年以上も対応を行っていなかった」「反社会的勢力との取引が多数存在するという情報も担当役員止まりとなっていた」の2点を問題にしたものです。
 後者について言うと。報告が担当役員止まりだったというのは事実でなくて、取締役会やコンプライヤンス委員会に報告されていた。
江上 「頭取の佐藤さんの説明しかないんですが、報告書には反社融資に関して2,3行・・
 この話を聞いて僕は1997年の第一勧銀の総会屋事件のことを思いだしたんです。総会屋事件で東京地裁が審査担当役員などみんな捕まえていったんですが、あのときもみんな、担当者は総会屋のことを報告書に1行か2行しか書いてないんですよ。1行か2行しか書いていない書類に、役員ははんこを押した。そのはんこを押した人たちが、みんな捕まっていった。
 では、なんで1行2行しか書かなかったのか。重大なことなのに不思議なことだと普通は思いますね。たとえばAという融資先を、こうやって鵜飼融資しましたといったことが1行しか書いていない。でも、ここで総務の担当者の意図として、上にあまり知られたくないという思いが働いたんだと思うんですよね。」
 上も下も思考停止状態だった?
もしかしたら、小保方問題にも、理研内部に思考停止状態があったのかもしれない?