もう一つ「生物学的文明論」から面白い話題です。
「ナマコ」って本当に不思議な生き物ですね。
世界でナマコを食べるのは、日本人と中国人ぐらい。中華料理では、いったんゆでて干したものを使いますが、日本では生で食べます(だからナマコという)。
『ナマコは巨大な芋虫型です。目を持っていない。目だけでなく、耳も鼻もそして脳もない。目・耳・鼻・脳が集まっている場所が頭ですが、頭とよべるものがない』。本川先生はこのナマコの(世界に10人くらいしかいない)研究者だそうです。
『シカクナマコをジーっと見ていたんですが、さっぱり動かない。よく見ると、ゆっくりとは動いている。朝から夕方までかかって10m動くかどうか。ふつう、動物は近づいていけば逃げます。逃げ足の遅いものは初めから隠れているか、そうでなければ、サンゴや貝のように硬い殻で身を守っています。
でも、ナマコは硬い殻で身を守っているわけでもないし、隠れてもいない。』
逃げも隠れもしなくて、どうして魚などの捕食者にたべられないか。
『ナマコは何を食べているか、ご存知ですか?砂です。口の周りをぐるりと取り巻いて触手が生えています。触手の一本一本は伸び縮みする管です。管の先端がふくれてカリフラワーみたいになっていて、これを砂に押し付けて砂をくっつけ口に運ぶ。砂を食べている。砂は石の粒ですから、もちろん栄養にはならない。砂と一緒に飲み込んだ海藻の切れっぱしや有機物の粒子などを食べる。砂の表面に生えているバクテリヤも栄養になる。砂はそのまま排出する。だから、ナマコの後ろには、ウインナー・ソーセージみたいにつながった砂の糞が見られます。』
そんな貧しい食事で子どもなんか作れるの?それが現実には(いる場所に行けば)うじゃうじゃ居る。決して「砂を噛むような人生」を送っているわけではないという。
(ナマコを)ぎゅっと握り締めると、硬くなる。
『硬さの変わるのは皮の部分で、この皮、相当分厚い。ナマコを輪切りにしてみると、竹輪みたいな感じで、真ん中に穴が開いている。竹輪の身の部分が体壁(われわれが食べる部分)。この体壁の厚みのほとんどが皮。筋肉は体壁の一番内側、つまり竹輪の穴に面したところに、ちょっとだけあります。竹輪の穴の部分には、液体がつまっていて、そこに腸などの内臓が浮いている。』
ナマコは酢でしめて食べますが、酢でしめると皮は硬くなりコリコリする。
『ナマコをつかむと硬くなる。ところがさらに強くもみ続けると、突然、ナマコがやわらかくなりはじめ、しまいにはドロドロに溶けてしまいます。
びっくりしたのは、これで死んだのではない。溶けたナマコは形などなくなりますが、これを、そーっと水槽の中で飼っておくと、だんだんナマコの形になってきて、2~3週間もすると、元通りに「生き返った」のです。』
コリッと硬くなったり、どろどろに溶けるくらいやわらかくなったり、ナマコの皮は硬さが自在に変わるのです。
皮が硬くなるのは、敵に攻撃された時、硬くして身を守る。軟らかくするのは、・・・岩の間に入る時(海が荒れた日には昼間でも岩の間に隠れます)には、よくもこんな所を通れるものだとびっくりするほどの狭い入り口を、体を細く大変形させながら通り抜けます。入り口を通り過ぎたら、体の形も方さも元に戻す。岩の間に隠れているナマコを、魚が見つけて噛み付いたら、噛み付かれた部分が溶けてしまう。ナマコは魚に噛み付かれると、そこの部分の皮を溶かして穴を開け、そこから腸を吐き出します。ナマコの腸はこのわたの原料であり、うまいものですから、魚は喜んでそれを食べる。食べている間にご本尊のナマコは逃げていく。一月もすれば、腸はまた再生する。
フクロナマコという種類のナマコがいる。砂の中にすっぽりと体を埋めており、口のまわりに生えている触手を砂の外に伸ばして、潮流れにのってくる小さな有機物の粒子を捕まえて食べています。このナマコ、魚に触手を噛み付かれると、口のちょうど下、首に当たる部分の皮をものすごく柔らかくして、触手と首とそれに腸までつけて、体から切り離して吐き出す。魚がそれを食べている間にご本尊(といっても皮だけ)身を縮めて隠れてしまう。首の部分には、ナマコの体内では一番まとまった神経系があるのですが、あやうくなると、この首を相手に差し出す。そしてまた首が生えてくる。
実はナマコは毒をもっているので、ナマコを食う魚はあまりいない。しかし、例外があって、タラやサメはナマコを食う。だから、毒だけでなく、硬さの変わる皮も必要。この毒は魚以外にはあまり効かない。人間の腸からは吸収されないので、大丈夫だそうです。
ナマコの餌は砂。砂はまわりにいくらでもある。探し回る必要はないので、動き回るための筋肉もあまり要らない。餌を見つけるための目や耳や鼻のような感覚器官も、なくて済む。感覚入力を統合して筋肉に指令を出すための、立派な脳も必要ない。エネルギーを使わないから、酸素や養分をどんどん組織へと送るための心臓もなくて済む。
脳がない、心臓がない、感覚器官がない、筋肉が少なくて、皮ばっかりの動物。ナマコはわれわれ脊椎動物とはまったく違う体の作りをしている。脊椎動物は決してのそのそしていない。早く走ったり泳いだりして獲物を捕らえ敵から逃げるのが脊椎動物。早く動くためには、しなやかで軽い体と強力な筋肉が必要です。硬くて重厚な鎧で身体を守ると、重量が増え、速く動けなくなるので、(カメなどは例外だが)やわらかい肉をむき出しにした、無防備な体で、だから、逃げ足と危険をいち早く察知する感覚器官がなければ生き残れません。もちろん運動系と感覚系とを上手にあやつるには、発達した脳や神経系が要ります。あまり動かなくてもやっていける動物なら、脳はいりません。脳死問題はナマコにはない。
われわれ哺乳類のように活発に動くには、たくさんエネルギーが必要です。発達した筋肉を持つということは、エネルギーをたくさん使うことを意味します。だから、食べ物も、栄養価の高い物を好みます。 ナマコのように、砂を噛んで生きるわけにはいきません。
ナマコは砂の上に棲み、砂を食べている。棲んでいるのが食べ物の上だから、食べる心配がない。天国みたいです。省エネに徹して、この世を天国にした。
頭いいなぁ。でも脳はない。
「ナマコ」って本当に不思議な生き物ですね。
世界でナマコを食べるのは、日本人と中国人ぐらい。中華料理では、いったんゆでて干したものを使いますが、日本では生で食べます(だからナマコという)。
『ナマコは巨大な芋虫型です。目を持っていない。目だけでなく、耳も鼻もそして脳もない。目・耳・鼻・脳が集まっている場所が頭ですが、頭とよべるものがない』。本川先生はこのナマコの(世界に10人くらいしかいない)研究者だそうです。
『シカクナマコをジーっと見ていたんですが、さっぱり動かない。よく見ると、ゆっくりとは動いている。朝から夕方までかかって10m動くかどうか。ふつう、動物は近づいていけば逃げます。逃げ足の遅いものは初めから隠れているか、そうでなければ、サンゴや貝のように硬い殻で身を守っています。
でも、ナマコは硬い殻で身を守っているわけでもないし、隠れてもいない。』
逃げも隠れもしなくて、どうして魚などの捕食者にたべられないか。
『ナマコは何を食べているか、ご存知ですか?砂です。口の周りをぐるりと取り巻いて触手が生えています。触手の一本一本は伸び縮みする管です。管の先端がふくれてカリフラワーみたいになっていて、これを砂に押し付けて砂をくっつけ口に運ぶ。砂を食べている。砂は石の粒ですから、もちろん栄養にはならない。砂と一緒に飲み込んだ海藻の切れっぱしや有機物の粒子などを食べる。砂の表面に生えているバクテリヤも栄養になる。砂はそのまま排出する。だから、ナマコの後ろには、ウインナー・ソーセージみたいにつながった砂の糞が見られます。』
そんな貧しい食事で子どもなんか作れるの?それが現実には(いる場所に行けば)うじゃうじゃ居る。決して「砂を噛むような人生」を送っているわけではないという。
(ナマコを)ぎゅっと握り締めると、硬くなる。
『硬さの変わるのは皮の部分で、この皮、相当分厚い。ナマコを輪切りにしてみると、竹輪みたいな感じで、真ん中に穴が開いている。竹輪の身の部分が体壁(われわれが食べる部分)。この体壁の厚みのほとんどが皮。筋肉は体壁の一番内側、つまり竹輪の穴に面したところに、ちょっとだけあります。竹輪の穴の部分には、液体がつまっていて、そこに腸などの内臓が浮いている。』
ナマコは酢でしめて食べますが、酢でしめると皮は硬くなりコリコリする。
『ナマコをつかむと硬くなる。ところがさらに強くもみ続けると、突然、ナマコがやわらかくなりはじめ、しまいにはドロドロに溶けてしまいます。
びっくりしたのは、これで死んだのではない。溶けたナマコは形などなくなりますが、これを、そーっと水槽の中で飼っておくと、だんだんナマコの形になってきて、2~3週間もすると、元通りに「生き返った」のです。』
コリッと硬くなったり、どろどろに溶けるくらいやわらかくなったり、ナマコの皮は硬さが自在に変わるのです。
皮が硬くなるのは、敵に攻撃された時、硬くして身を守る。軟らかくするのは、・・・岩の間に入る時(海が荒れた日には昼間でも岩の間に隠れます)には、よくもこんな所を通れるものだとびっくりするほどの狭い入り口を、体を細く大変形させながら通り抜けます。入り口を通り過ぎたら、体の形も方さも元に戻す。岩の間に隠れているナマコを、魚が見つけて噛み付いたら、噛み付かれた部分が溶けてしまう。ナマコは魚に噛み付かれると、そこの部分の皮を溶かして穴を開け、そこから腸を吐き出します。ナマコの腸はこのわたの原料であり、うまいものですから、魚は喜んでそれを食べる。食べている間にご本尊のナマコは逃げていく。一月もすれば、腸はまた再生する。
フクロナマコという種類のナマコがいる。砂の中にすっぽりと体を埋めており、口のまわりに生えている触手を砂の外に伸ばして、潮流れにのってくる小さな有機物の粒子を捕まえて食べています。このナマコ、魚に触手を噛み付かれると、口のちょうど下、首に当たる部分の皮をものすごく柔らかくして、触手と首とそれに腸までつけて、体から切り離して吐き出す。魚がそれを食べている間にご本尊(といっても皮だけ)身を縮めて隠れてしまう。首の部分には、ナマコの体内では一番まとまった神経系があるのですが、あやうくなると、この首を相手に差し出す。そしてまた首が生えてくる。
実はナマコは毒をもっているので、ナマコを食う魚はあまりいない。しかし、例外があって、タラやサメはナマコを食う。だから、毒だけでなく、硬さの変わる皮も必要。この毒は魚以外にはあまり効かない。人間の腸からは吸収されないので、大丈夫だそうです。
ナマコの餌は砂。砂はまわりにいくらでもある。探し回る必要はないので、動き回るための筋肉もあまり要らない。餌を見つけるための目や耳や鼻のような感覚器官も、なくて済む。感覚入力を統合して筋肉に指令を出すための、立派な脳も必要ない。エネルギーを使わないから、酸素や養分をどんどん組織へと送るための心臓もなくて済む。
脳がない、心臓がない、感覚器官がない、筋肉が少なくて、皮ばっかりの動物。ナマコはわれわれ脊椎動物とはまったく違う体の作りをしている。脊椎動物は決してのそのそしていない。早く走ったり泳いだりして獲物を捕らえ敵から逃げるのが脊椎動物。早く動くためには、しなやかで軽い体と強力な筋肉が必要です。硬くて重厚な鎧で身体を守ると、重量が増え、速く動けなくなるので、(カメなどは例外だが)やわらかい肉をむき出しにした、無防備な体で、だから、逃げ足と危険をいち早く察知する感覚器官がなければ生き残れません。もちろん運動系と感覚系とを上手にあやつるには、発達した脳や神経系が要ります。あまり動かなくてもやっていける動物なら、脳はいりません。脳死問題はナマコにはない。
われわれ哺乳類のように活発に動くには、たくさんエネルギーが必要です。発達した筋肉を持つということは、エネルギーをたくさん使うことを意味します。だから、食べ物も、栄養価の高い物を好みます。 ナマコのように、砂を噛んで生きるわけにはいきません。
ナマコは砂の上に棲み、砂を食べている。棲んでいるのが食べ物の上だから、食べる心配がない。天国みたいです。省エネに徹して、この世を天国にした。
頭いいなぁ。でも脳はない。