shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

ザ・ビートルズ最後の新曲「Now And Then」

2023-11-05 | The Beatles
 確か6月頃だったと思うが、ヤフー・ニュースに「ポール・マッカートニーが AI(人工知能)を導入してビートルズの新曲を製作中」という記事が出た。私は一瞬 “えっ、AI 使うて新曲って一体どーゆーこと???” とワケがわからなかった。私は AI がどーとかチャットGPTがこーとか言われるとブツブツが出るくらい(笑)拒否反応を示す古いタイプの人間で、映画「ターミネーター」の “スカイネット” やTVドラマ「スタートレック・ディスカバリー」の “コントロール” などを見て余計に AI 嫌いが助長されているのかもしれないが、一番決定的だったのは何年か前にNHKが AI を使って美空ひばりの偽物をでっち上げた時のネガティヴなイメージが私の中に染み付いていることで、ビートルズで “AIひばり” みたいなキモいことはやめてくれよ... と思ったのだ。だからその時点では正直言ってあまり期待もせず、とりあえずその後の成り行きを見守っていたのだが、その後の進捗状況に関するニュースはあまり出てこず、私も “ひょっとしてあの話は立ち消えになったんかな???” と思っていた。
 ところが先月の末、唐突に「ビートルズ最後の新曲 Now And Then、11月2日に世界同時配信決定!」というニュースが飛び込んできた。11/2て、あと1週間しかないやん! 私はネット上の情報を調べまくり、AI 云々というのはピーター・ジャクソン監督が映画「Get Back」で開発し、ポールが自らのライヴで「I've Got A Feeling」をジョンとデュエットした、あのデミックス技術のことだとわかり一安心。要するに音の悪いデモ・テープからジョンの声を完全に分離してクリスタル・クリアーな状態にまで磨き上げ、そこにポールとリンゴ、そして生前のジョージがアンソロジー・プロジェクト時に残した演奏をミックスして仕上げたのだという。そういうことなら最初からデミックスって言えばいいものを、何が AI やねん! “AI レノン” なんか聞かされたらブチギレてまうわ。ということで、私の中で AI 騒動は一件落着。事の詳細を上手くまとめたショート・フィルムが YouTube にアップされているので、そちら↓をご覧あれ。
The Beatles - Now And Then - The Last Beatles Song (Short Film)


 で、いよいよ待ちに待った11月2日... YouTubeでこの「Now And Then」を初めて聴いた時、ジョンの歌声が流れてきた瞬間に熱いものがこみ上げてきた。モノ悲しげなメロディーも相まって、心の琴線をビンビン震わせるのだ。ビートルズ・サウンドの要というべきリンゴの “ザ・ワン・アンド・オンリー” なドラミング、「アビー・ロード」を彷彿とさせる美しいコーラス・ハーモニー、「アンソロジー」でこの曲に取り組んでいる時にジョージが弾いた味わい深いギター・カッティング、ポールがジョージへの想いを込めて弾いたという哀調スライド・ギター、そしてそこに「Eleanor Rigby」を想わせるリズミカルなストリングスが寄り添いながら収斂していく様はまさに蘇えったザ・ビートルズそのものだった。
 ジョンが書いた歌詞 “Now and then I miss you... now and then I want you to be there for me...(時々君が恋しくなる... 君がそばにいてくれたらって思うんだ)” の you はおそらくポールのことではないかと思うのだが、今となってはこのラインは逆に全ビートルズ・ファン(そして残されたポールやリンゴ)がジョンやジョージに対して抱いている共通の想いと言えるだろう。
 音源公開の翌日にピーター・ジャクソンが製作したミュージック・ビデオが解禁されたが私はそれを見て、不覚にもまたまた涙腺が決壊してしまった。在りし日のジョンやジョージの姿が最新テクノロジーによって絶妙に合成され、まるでポールやリンゴと共演しているかのように画面上に4人の姿が映し出されるのである。これを観て涙しないビートルズ・ファンはいないだろう。さすがは映像製作のプロという他ないが、バリバリのビートルズ・ファンを公言するピーター・ジャクソン監督ならではの素晴らしい映像作品だと思う。
The Beatles - Now And Then (Official Music Video)


 ポールのカウントで始まる「I Saw Her Standing There」でスタートしたビートルズの歴史が、同じくポールのカウントで始まるこの「Now And Then」で幕を閉じるというのも何か運命的なものを感じさせる。何て言うか、あぁこれで本当に終わりなんやなぁ... という一抹の寂しさも確かにあるが、それ以上に、人生の大半をリアルタイムで彼らの音楽と共に過ごせたことの喜び、そして4人への心からの感謝の想いがこみ上げてきた。私にとって彼らの歌はまさに “希望” であり、“生きる喜び” そのものだった。そして時代がどう変わろうと、彼らの音楽は変わらずに私にその喜びを与え続けてくれるだろう。
 まさか21世紀になってビートルズの新曲リリースに立ち会えるとは夢にも思わなかったが、この「Now And Then」を聴いて改めてビートルズ・ファンでよかったなぁ... という思いを強くした。レコード・コレクションにこの「Now And Then」という掛け替えのない1枚が加わって幸せだ。