shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

Another World / ちあきなおみ

2010-01-10 | 昭和歌謡
 今日もちあきさんである。とにかく今年に入ってからはビートルズとちあきさんしか聴いていないと言っていいぐらいハマっている。彼女のレパートリーは大きく分けて、 (1)オリジナル・ヒット曲(歌謡曲と演歌)、(2)邦楽のカヴァー(歌謡ポップス、ムード歌謡、昭和初期の叙情歌、フォーク、ニューミュージック)、(3)洋楽のカヴァー(ジャズ、シャンソン、そしてポルトガル民謡のファド)の3つに分けられると思うが、私が特に魅かれたのは(2)(3)の膨大な数のカヴァーである。もちろんオリジナル・ヒット曲もエエのだが、彼女のシンガーとしての表現力、そして聴き手を魅きつける吸引力が最も顕著な形で発揮されるのが誰でも知っている名曲のカヴァーなのだ。今日はそんな彼女の外国曲カヴァーばかりを集めた2枚組「Another World」をご紹介したい。
 ちあきさんはデビューした1969年からコロムビア・レコードに在籍していたが、1978年に “ヒット曲を追うのではなく、自分が歌いたい歌にじっくり取り組みたい” と休業を宣言、3年間の充電期間を経てビクターに移籍し、1981年にはフランスのシャンソンをカヴァーした「それぞれのテーブル」、1982年にはアメリカのジャズ・スタンダードをカヴァーした「THREE HUNDREDS CLUB」、そして1983年にはポルトガルのファドをカヴァーした「待夢(たいむ)」と、“日本の歌を見つめ直すため” に外国曲を独自の解釈でカヴァーしたアルバムを年1作のペースで発表していく。そしてこれらの “外国曲カヴァー3部作” の集大成として1985年に昭和初期の流行歌を斬新な(?)アレンジでカヴァーした「港が見える丘」をリリース、その中に収録されていた「星影の小径」はCMソングとしてお茶の間に流れていたのでご存じの方も多いかと思う。その後、彼女は1988年にテイチクへと移籍し、再び歌謡曲の世界へと戻っていくのだが、そういう意味でも彼女の80's ビクター時代というのはポップス系のちあきさんが好きなファンの狙い目なのだ。
 この「Another World」は新星堂の自社レーベル、オーマガトキからリリースされた2枚組CDで、上記の「それぞれのテーブル」、「THREE HUNDREDS CLUB」、「待夢(たいむ)」を完全収録し、更に「港が見える丘」からタイトル曲と「星影の小径」の2曲を加えた32曲入りの超お徳用盤なのだ。残念ながら現在廃盤で入手困難らしく、定価3,990円だったものが7,000円以上で取引されているようなのだが、私は元旦の真夜中に Google で検索しまくり東京の歌謡曲専門店の通販リストに3,000円で出ているのを運良く発見、思わずクリックする手が震えそうになるほどコーフンしてしまった。ホンマに新年早々ツイてるわ(^.^) 
 このアルバムは全30曲すべてにオリジナルの日本語詞が、そして曲のタイトルも歌詞の内容を的確に表した日本題が付けられている。ここで展開されているのは演歌のエの字もないソフィスティケーションの世界であり、クールでありながらふくよかで温か味を感じさせる彼女のヴォーカルが絶品だ。雰囲気としては「いい日旅立ち」や「美・サイレント」の頃の山口百恵を更に大人っぽくしたような感じで、洗練されたちあきさんの世界、アナザー・ワールドが堪能できる。とにかく小手先の技巧をひけらかすのではなく、全身全霊で自分の歌世界を表現しているのが凄い。その極めつけと言えるのが上記の「星影の小径」で、その透明感溢れる歌声は1949年に小畑実が歌ったこの古い流行歌に新たな生命を吹き込み、まるで彼女のオリジナル曲のような印象を聴く者に与える。特に唄い出しのアカペラ一人多重コーラスなんかもう鳥肌モノ。カヴァーがオリジナルを超える瞬間が実にスリリングだ。因みにこの曲は1986年にマキシムコーヒーの、1992年にアウディの、そして2006年にキリン五穀茶と、20年間で3度もCMに起用されている。彼女の歌声がそれだけ多くの人々にアピールしたという何よりの証だろう。
 超一流アーティストによるカヴァーはオリジナルを凌駕する。ビートルズしかり、エルヴィスしかりである。そんなことを考えながら、再度「星影の小径」や「黄昏のビギン」を聴くと彼女がいかに凄い存在かを改めて痛感させられる。ちあきなおみの真髄はカヴァーにあり、なのである。

Audi ファーレンネットワーク ちあきなおみ① 1999


ちあきなおみ 星影の小径

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