shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

上を向いて歩こう / 坂本九 (Pt. 2)

2011-09-04 | 昭和歌謡・シングル盤
 この曲を作った中村八大という人は本当に凄い作曲家で、シンプルなメロディー一発で聴き手の心をがっちりつかむ技は誰にも真似のできないもの。彼の作品にはみんなで楽しく口ずさめるような明るい歌が多く、音楽にとって最も大切な要素といえる “鼻歌感覚” に溢れた “大衆にアピールする流行歌” の第一人者といえるだろう。例えるなら、高度な音楽理論に裏打ちされた精巧かつ華麗なアレンジで曲を仕上げる宮川泰を “ソースの魔術師” 的なフレンチ・シェフとすれば、中村八大は素材本来の良さを活かしたシンプルな家庭料理で大向こうを唸らせる和の鉄人といったところか。何にせよ、彼は邦楽史上屈指の天才的メロディー・メイカーの一人と言っていいと思う。
 それと、この歌詞を書いた永六輔という人は私の中では長い間 “浅田飴のCMおじさん” のイメージしかなかったので、「上を向いて歩こう」の作詞がこの人だと知った時はビックリ(゜o゜)  後になって知ったことだが、ベンチャーズ歌謡の「二人の銀座」の作詞もこの人だし、昭和歌謡史において重要な作品を何曲か手掛けている偉大な作詞家なのだ。この曲も、 “上を向いて歩こう” 、つまり “悲しみを乗り越え、うつむかずに進み続けよう” という言葉が親しみやすい旋律と相まって聴く者の心と身体に優しく沁みわたる、実に素晴らしい歌詞だと思う。今回の3.11の大震災の後この曲が頻繁にテレビで流れていた(←あのウィー・アー・ザ・ワールドもどきの CM はクサすぎて正直あまり好きになれなかったが...)のも、きっとこの歌に被災した人々を元気づけるパワーがあるからだろう。
 そういえば、中村八大が亡くなった時の追悼番組で永六輔がこの曲の面白いエピソードを語っていて、坂本九の歌い方が “ウヘホムフイテ アハルコォウフォウフォウフォウ♪” に聞こえた永六輔が “ちゃんと綺麗な日本語で歌え!”と激怒したところ、先輩にあたる中村八大の “いいじゃないか、それでいこう” というツルの一声で “フォウフォウフォウ♪” のままでいくことになり、結果的にそれが当たって世界的に大ヒット。後に坂本九の実家に招待された永六輔は母親の話から “フォウフォウフォウ♪” が日本の伝統音楽の歌い方であり、そのエキゾチックな歌い方に世界中の人々がフッと耳を傾けた、ということに気が付き、又それと同時に、そのことを最初から見抜いていた八大さんの凄さを改めて痛感したという。当事者だからこそ語り得る名曲誕生秘話というか、実に興味深いお話なのだが、ラッキーなことに YouTube にアップされてたので宜しければご覧下さい。
 私はこれまで何百回とこの曲を聴いてきたが、一番印象に残っているのが1985年9月21日の「アメリカン・トップ40」で 、DJ のケイシー・ケイサムが同年8月12日にJALの墜落事故で亡くなった坂本九への追悼として「ロング・ディスタンス・デディケーション」のコーナーで日本人リスナーからのリクエストを取り上げた時のこと。 “So Casey, please play SUKIYAKI for my national hero, KYU SAKAMOTO... Okay, here's your long distance dedication.” というケイシーの言葉に続いてこの曲のイントロが流れてきた時、私は胸にグッと熱いモノがこみ上げ、思わず涙がこぼれてしまった。今にして思えば、ケイシーの名調子とこの曲の名旋律、そして偉大な歌手を失った悲しみが化学反応を起こして私の涙腺を刺激したのだと思う。私は今でもこの曲を聴くたびにあの時のケイシーの言葉がオーヴァーラップしてしんみりしてしまう。
 この曲は世界中の人々が知っている大スタンダード・ナンバーだけあってカヴァー・ヴァージョンも数多く存在するが、私が特に好きなのは、この曲が世界に知られるきっかけとなったケニー・ボールの哀愁舞い散るディキシーランド・ジャズ・ヴァージョン、3.11に起こった東日本大震災に心を痛めたクレモンティーヌがそのわずか1週間後にレコーディングして我々に届けてくれた心温まるフレンチ・ボッサ・ヴァージョン、そして以前このブログでも取り上げたRCサクセションの “日本の有名なロックンロール” ヴァージョンetc... スタイルは違えども、そのどれもがこの曲の哀愁を見事に引き出す素晴らしいカヴァーに仕上がっている。涙がこぼれないように、上を向いて聴いて下さい。

☆レコードとは違い “冬の日~♪” まである映画版レア・ヴァージョン↓
0001 映画 上を向いて歩こう 坂本九 吉永小百合 昭和37年


☆お洒落なフレンチ・ボッサの中に宿る哀愁が聴き所↓
Clementine - Sukiyaki in French (Ue wo muite arukou)


☆ワン、トゥー、さん、しっ!!!
RCサクセション 上を向いて歩こう


【おまけ】永六輔が語るこの曲のエピソードは5:25あたりから↓
上を向いて歩こう~中村八大 こころのうた~ 1/6