shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

天使の誘惑 / 黛ジュン

2011-09-23 | 昭和歌謡・シングル盤
 今日も前回に引き続きマジカル日本橋猟盤ツアー報告第2弾である。新装開店した MINT Record で笠置シヅ子のレア盤シングルを300円でゲットした私は意気揚々と店を出て南へ向かった。何軒廻っても収穫ゼロの時は足取りも重くなるが、最初の2~3軒でオイシイ思いをするとレコード・ハンターとしてのスイッチが入り、徹底的に漁ってやるぞ!という気になる。自分で言うのもなんだが、非常に単純な性格だ。
 次に行ったサウンドパック本店ではあいにく収穫ゼロだったが、気にせず更に南下して左折すると大十がある。1階は狭いCD店だが奥を2階に上がると広い店内に所狭しとCDやLPが並んでいる。このお店は商品の回転はあまり良くなさそうなのだが、貴重な盤が人目に触れずにひっそりと眠っていそうな雰囲気があるので楽しみだ。シングル盤コーナーは奥の隅の方にあり、細長い段ボール箱に入れられて棚に押し込められているので、一つ一つ箱を引き出して地べたにしゃがんで漁らなくてはいけない。
 エサ箱を猛スピードでチェックしながら “何となく演歌系が多いなぁ...” とテンションが下がりかけてきた時、私の手がピタリと止まった。私が引き抜いたのは赤いトロピカル系キャミソール(っていうのかな...ファッション用語は苦手です)からのぞくむっちり太ももが眩しい黛ジュンの「天使の誘惑」である。
 彼女のシングル盤のほとんどはヤフオクで簡単に手に入れることが出来るのだが、なぜかこの「天使の誘惑」だけは中々出てこないし、たとえ出たとしても “赤盤2,500円” とか、人をナメたようなボッタクリ価格なんである。レコード大賞まで取った大ヒット曲なんやから世間に出回ってるブツの数は多いはずやのに、何でこの盤だけ市場に出にくいんやろ??? とにかくそんな入手困難盤が、ジャケ左下がちょっと破れているとはいえ盤質良好で450円なのだ。コレを逃す手はない。
 黛ジュンは1967年に出した「恋のハレルヤ」で太平の眠りをむさぼっていた歌謡界にロック・ビートを導入して衝撃を与え、あの美空ひばりでさえ一目置いた歌唱力を武器に “一人GS” の先駆者として67年を席巻したが、年が明けた68年5月にリリースしたこの第4弾シングル「天使の誘惑」はそれまでのGS路線から一転してスティール・ギターをフィーチャーした “ハワイアン・ロック” になっており、ジュンお得意の小唄的な節回しを極力抑えながら、鼻歌感覚の親しみやすいメロディーをアップテンポで明るく歌うことによって万人受けしそうな非の打ち所のない歌謡ポップスに仕上げている。
 心がウキウキするような軽快なイントロに続いて “すっきぃなのぉにぃ あのひとぉは いなぁい~♪” と艶々したジュンのヴォーカルがスルスルと滑り込んでくるところなんかもう最高だし、バックのドラムスのビートの刻み方も絶妙だ。曲の雰囲気としてはハワイアンの「月の夜は」に似ているように思えるが、楽曲としての完成度は遥かにこちらの方が高いだろう。この曲を作った鈴木邦彦はジュンの一連のヒット曲を始め、ゴールデンカップスの「長い髪の少女」や奥村チヨの「恋の奴隷」など、私の嗜好のスイートスポットを直撃するような名曲を数多く生み出した名作曲家なのだが、この曲はそんな彼の作品中でも最高傑作と言っていいと思う。
 そういえば今月の音聴き会G3で私は森山加代子と黛ジュンのシングル盤を数枚ずつかけたのだが、バリバリのハードバップ・ジャズ・マニアである plinco さんとハイセンスなボサノヴァ・マニアである 901 さんが異口同音に “エエなぁ!!!” と仰ったのが他でもないこの曲だった。plincoさん曰く“パチンコ屋でよぉかかってたわ” とのことで、当時6歳だった私にはリアルタイムでの記憶は全く無いが、日本中でこの曲が流れ、口ずさまれていたであろうことは容易に想像できる。何度聴いても飽きないどころか、聴けば聴くほどハッピーな気分になれる曲なんてそうそうあるものではない。英語に stand the test of time (時の試練に耐える)という表現があるが、この曲なんかまさにその典型で、今の耳で聴いても実に新鮮に響く大傑作ナンバーである。
 それと、B面に入っている「ブラック・ルーム」がこれまたカッコイイ曲で、R&B歌謡とでも言えばいいのか、シャウトを織り交ぜながら水を得た魚のようにノリノリのヴォーカルを聴かせるジュンといい、そんなジュンをガレージっぽいノリでガンガンプッシュしまくるドラムスといい、コモエスタなイケイケ・サウンドを見事に演出するブラス・セクションといい、とにかくめちゃくちゃソウルフルでグルーヴィー。後半部のコール&レスポンスも最高だ。歌謡曲の範疇を軽く超越したこの曲、私の中ではミコたんの「風とオトコのコ」、カヨちゃんの「火遊びのサンバ」と並ぶ昭和歌謡史上最強のB面ソングなのだ。

Mayuzumi Jun - tenshi no yuwaku


ブラック・ルーム
コメント (4)