shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

The Concert For New York City DVD / The Who 他

2011-06-17 | Rolling Stones / The Who
 ザ・フーの真骨頂は聴く者の魂を揺さぶるようなそのライヴ・パフォーマンスにある。そんな彼らのライヴの成否の鍵を握っていたのはドラマーのキース・ムーンだった。ピートがインタビューで “ジョンのベースがリード楽器で自分はリズム・キープ、キースのドラムがオーケストラだ。” と語っていたが、ザ・フー・サウンドの要であるキースが絶好調だった1970年前後あたりがライヴ・バンドとしてのザ・フーの全盛期であり、「ウッドストック」、「ワイト島」、「ロンドン・コロシアム」、「リーズ大学」など、名演が目白押しだ。逆に「キルバーン」(1977)なんかは死兆星を見てしまったキースの不調が響いたのかバンド(特にピート)のテンションが下がってしまっているように感じられる。まぁそれでも凡百のロック・バンドよりは遙かに演奏のレベルが高く、見ていてついつい引き込まれてしまうのがザ・フーの凄いところなのだが...
 キースの死後に2代目ドラマーとなったのは元スモール・フェイセズのケニー・ジョーンズ。彼のプレイはとても正確でスピード感もあり決して悪いドラマーではないと思うのだが、残念なことにザ・フーには合わなかった。ドラマーが変わったことによってザ・フーをザ・フーたらしめていた野性味が消えてしまったのだ。ちょうどドラムがフィリー・ジョー・ジョーンズからジミー・コブに変わって地味になったマイルス・デイヴィス・クインテットのようなモンである。このあたりの違いはキース時代の「アット・リーズ」(1970)とケニー時代の「フーズ・ラスト」(1982)とを聴き比べれば一聴瞭然だが、とにかくザ・フーのあの唯一無比のサウンドはキースの手数の多いドラミングが生み出すうねるようなグルーヴがあって初めて成立する類のものだということを痛感させられる。だから不本意ではあるが “キース抜きでザ・フー・サウンドの復活はありえない” と諦めざるを得なかった。
 ところがそんな私の考えを木っ端微塵に打ち砕いたのが、キース・ムーンにドラムを教わったというザック・スターキー、何を隠そうあのリンゴ・スターの息子である。いくらリンゴの血を受け継いでいても、いくらキースの愛弟子だといっても、ザ・フーのドラマーの重責を果たすのは正直キツイんちゃうかと思っていたが、初めてザック入りザ・フーの演奏を聴いた時、まるで墓場からキースがよみがえってきたかのようなそのエモーショナルでダイナミックなプレイに圧倒された。今ではザック入りのザ・フーはどれもこれも大好きだが、中でも私が一番気に入っているのがこの「コンサート・フォー・ニューヨーク・シティ」である。
 これは9・11テロで殉職した消防士や警察官の遺族のために2001年10月20日にニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデンで行われたチャリティー・コンサートのライヴDVDで、ポール・マッカートニーの呼びかけでミック・ジャガー&キース・リチャード、エリック・クラプトン、デビッド・ボウイ、ビリー・ジョエル、ボンジョヴィといった錚々たる顔ぶれが集結したのだが、そんな中で圧倒的に素晴らしいライヴ・パフォーマンスで “全部持って行った” 感がある(←英語で steal the show というらしい...)のがザ・フーである。
 このコンサートで彼らが演奏したのは4曲。まずはキャッチーな「フー・アー・ユー」、背後からガンガンとプッシュしまくるザックの躍動感あふれるドラミングを得て生き返ったかのようなピートの豪快な風車奏法全開でMSGはコーフンのるつぼと化す(3分48秒)。マネージャーに “長年ザ・フーを見守ってきたがあんな凄いステージは初めてだ...” と言わしめたこの超絶パフォーマンスの立役者は間違いなくザックだろう。下に全曲貼り付けておいたので、ザックのスリリングなプレイに注目してご覧下さい。
 2曲目は「ババ・オライリー」、オーディエンスの大合唱が起こるところなんか見ていて熱いモノがこみあげてくるが、この曲でもザックのドライヴ感溢れるドラミングが音楽を前へ前へと押し進めていく様が圧巻だ。3曲目は「ビハインド・ブルー・アイズ」、曲の半ばでスロー・パートからテンポ・チェンジするところでマイクをブンブン回しているロジャーにピートが体当たりし、ロジャーが嬉しそうな表情でよろめくシーン(2分55秒)がたまらなく好きだ。
 ピートの We are honored to be here. (この舞台に立てて光栄だ)という言葉に続いてラスト曲はもうコレしかない「ウォント・ゲット・フールド・アゲイン」、バックのスクリーンには星条旗に挟まれたユニオンジャックが誇らしげに映し出されている。会場の盛り上がりは最高潮だ。キースの魂が乗り移ったかのように全身全霊でドラムを叩き続けるザック、あんまり画面に映らへんけど黙々とリード・ベースを弾き続けるジョン(←例のガイコツのジャンプ・スーツ着てたらもっと映ったかも... 笑)、そして出たッ!!! ピートとロジャーのシンクロナイズド風車(4分47秒)、まさにライヴの鬼、ザ・フー完全復活である。ステージ右脇のTVカメラを持ったスタッフが曲に合わせて大声で歌いながら撮影(5分38秒)してるのには大笑い(^.^) バックのスクリーンに映るのは自由の女神の向こうにそびえ立つツインタワーだ。ニクイなぁ、この演出。
 そしてシンセの長~い間奏で “くるぞくるぞ...” と緊張感を目一杯高めておいて一気に キタ━━━(゜∀゜)━━━!!! という感じで炸裂するザックのドラム連打にロジャーのシャウト... これこそまさにこのコンサートのハイライト! もうカッコ良すぎて言葉が出ない(≧▽≦)  客席のシェリル・クロウもノリノリだ(8分30秒)。とにかくロック・ファンでいてホンマに良かったなぁと思わせてくれる怒涛のエンディングで、コブシを突き上げて総立ちのオーディエンスの姿が全てを雄弁に物語っている。 “やったぜ!”という感じで肩を組むピートとロジャーの姿にはファンとして感無量のモノがあるが、二人ともとても60歳前のオッサンとは思えないカッコ良さだ。ただ、最後のロジャーの言葉 “We could never follow what you did.” の日本語字幕が “過ちを繰り返すなよ” という意味不明のアホバカ訳だったのには呆れてモノも言えない。何で人々のために頑張った人達の行いが “過ち” やねん! ここは “君たちの勇敢な行為は俺たちにはとてもマネのできないことさ” とでも訳さないとその後に湧き起った大歓声の説明が付かないだろう。「キッズ・アー・オールライト」の時にも書いたが、日本盤 DVD の字幕の酷さには目を覆いたくなる。よぉこんなんで金取るわ(>_<)
 理不尽なテロにより失意のどん底に突き落とされた人々に夢と希望を与えたザ・フーの力強いロックンロール、私はこの DVD を見て音楽の持つ底知れぬパワーを実感させられた。Long Live Rock!!!

The Who-Who Are You@Concert For New York City 1/4


The Who-Baba O'Riley@Concert For New York City 2/4


The Who-Behind Blue Eyes@Concert For New York City 3/4


THE WHO " Won't Get Fooled Again" Concert For NYC 10-20-2001
コメント (2)