shiotch7 の 明日なき暴走

ビートルズを中心に、昭和歌謡からジャズヴォーカルまで、大好きな音楽についてあれこれ書き綴った音楽日記です

The Kids Are Alright DVD / The Who (Pt. 2)

2011-06-01 | Rolling Stones / The Who
 (32)「スパークス」は彼らとしては珍しいインスト・ナンバーで、アルバム「トミー」収録のスタジオ・ヴァージョンよりも「ライヴ・アット・リーズ」のボートラとして世に出た火の出るようなライヴ・ヴァージョンの方が圧倒的にカッコイイ。この映画ではウッドストックでのライヴ映像が使われており、白いつなぎのジャンプスーツで切っ先鋭いソロを連発するピート、何かに憑りつかれたかのように髪を振り乱しながら一心不乱にタンバリンを乱打するロジャー、あんまり画面には映ってないけど地響きを立てるような轟音ベースでサウンドの基盤を支えるジョン、奇人が鬼神と化して背後から猛烈にフロントマンをプッシュしまくるキースと、彼らのレベルの高さを改めて知らしめるようなハードボイルドな演奏で、まさに “ザ・フーは男でござる” を地で行くダイナミックなプレイの応酬が圧巻だ。
 (33)「バーバラ・アン」は言わずと知れたビーチ・ボーイズの大ヒット曲(←オリジナルはリージェンツなんやけど、今やもう完全に “BB5の曲” ですな...)のカヴァー。キース・ムーンはザ・フーに加入する前はサーフィン・バンドに入っていて、自身ビーチ・ボーイズの大ファンというから人は見かけによらないものだ。ピートは “俺が嫌いなビーチ・ボーイズを奴は大好きなんだ。” と言っているし、キースとプライベートでも仲の良かったロジャーは “もしもビーチ・ボーイズのメンバーになれるチャンスがあったなら彼は喜んでザ・フーを辞めていただろう。僕らはキースを喜ばせるためによくこの曲をやってたんだ。” とインタビューで語っている。キース・ムーンがドラムを叩くビーチ・ボーイズというのも聴いてみたい気がするが(←でもそれってハーマンズ・ハーミッツのドラムをボンゾがやるようなモンやな...)、ここではシェパートン・フィルム・スタジオでの和気あいあいとしたリハーサル風景が楽しめる。
 キーをもっと上げて歌えと促すロジャー、それに応えて渾身のファルセットで歌うキース、ニコニコ笑いながらゆったりとベースをつま弾くジョン、BB5は嫌いとか言いながらダック・ウォークまで披露してノリノリのソロを聴かせるピートと、みんなホンマに楽しそうだ。特にピートのラウドなギターが爆裂した瞬間にホンワカ・ムードのポップ・ソングからバリバリのロック曲へと変化する所が最大の聴き所。ただ、同じ歌詞を繰り返すキースに対してピートが言った “We did that bit there. Does it come in twice, that bit?” を日本語字幕で “同じこと2回できる?” となってるのは意味不明。 “それ、さっきと同じやん。その歌詞2回も続くんか?” という意味だと思うのだが...(>_<)
 この DVD の日本語字幕には他にも酷い誤訳が一杯あって、ロジャーが “My main ambition is to get back on the road... with the horrible Who, the worst rock 'n roll group in the world.” と語っているのを “世界最低のバンド、フーをもう一度軌道に乗せたい。” はいくら何でもアカンやろ。 “俺はこの愛すべき騒音バンド、フーともう一度ツアーに出たいんだよ。” という意味じゃないのか? そーいえばピートが言った the Fillmore in New York (←ロック・ファンなら誰でも知ってるライヴの殿堂フィルモア・イーストのことですね)を “フィルムホール” とやられた日にゃあ、もう開いた口が塞がらない。その昔、ライヴ・エイドで再結成したゼッペリンのメンバー紹介の時に、フジテレビが雇ったド素人同時通訳がメンバーの名前すら知らずに “ロバート・パワーズとジョン・トンプソンです!” (←誰やそれ???)とやって大笑いさせてもらって以来のアホバカ訳。ロック関係の字幕はせめて最低限の音楽知識を持ったプロにやってもらいたいものだ。
 (37)「フー・アー・ユー」は元々大好きな曲だったが、この楽しさ溢れるビデオクリップを見てますます好きになった。ヘッドフォンをした頭に黒いガムテープをグルグル巻き、赤いTシャツを着て張り切るキースの百面相(?)ドラミング、そしてジョン、キース、ピートの3人でじゃれ合いながら(笑)仲良くコーラス・ハーモニーをキメる姿が微笑ましくて心が和む。めちゃくちゃキャッチーな曲でありながらロック魂溢れるプレイで要所要所をキッチリ引き締めるあたりはさすがという他ない名曲名演だ。
 (41)「ウォント・ゲット・フールド・アゲイン」は「フーズ・ネクスト」の時に貼り付けたリカット・ヴァージョンが極めつけだと思うが、あの映像の元になったのがこの映画で使われたシェパートン・ライヴの時のもの。跳んだりはねたりと元気一杯の“人間風車”ピート・タウンゼンド、マイクを “いつもより多めに回しております” ロジャー・ダルトリー、 “男は黙ってサッポロビール” を貫きながら驚異の速弾きで魅せるジョン・エントウィッスル、そして巨星墜つる直前の最後の輝きを見せるキース・ムーンという、ザ・フーの魅力を凝縮したような素晴らしい映像で、ロジャーとピートのシンクロナイズド風車(←4分30秒あたり)は見ていて楽しいし、シンセのインターバルを突き破るかのようにロジャーが雄叫びを上げ、ピートがジャンプ&スライディングをキメるシーンがスローで映し出される瞬間(←7分50秒あたり)なんかもう鳥肌モノだ。
 演奏を終え、ドラム・セットを飛び越えてヨロヨロと前に出てきたキースにピートが “よぉやった!” とばかりに抱きつくシーンもこの数ヶ月後にキースが急死することを考えれば万感胸に迫るものがある。ピートにはこれがキースとの最後のギグになるかもという予感があったのかもしれない。その後、エンド・ロールのバックに「ロング・リヴ・ロック」が流れ、過去の様々なライヴのエンディング・シーンが走馬灯のようにフラッシュバックされる演出もニクイなぁ...(^o^)丿
 この映画には演奏シーン以外にも、73年にメンバー4人で「ラッセル・ハーティ・プラス」という番組に出た時のハチャメチャ・インタビュー(←キースがどんどん服を脱いでいってパンツ一丁になったり、ピートの服を破いたりと、ムチャクチャやりたい放題してます...)や音楽的リーダーとしての苦悩を吐露するピートの単独インタビュー、キース・ムーンとリンゴ・スターの掛け合い漫才(?)みたいなお喋りなど、ファンにとっては見所満載である。
 ボーナス・ディスクでは「ババ・オライリー」と「ウォント・ゲット・フールド・アゲイン」の演奏シーンでメンバー一人一人を単独で追ったマルチアングルが面白く、特にジョン・エントウィッスルの凄腕ベースには驚倒させられること間違いなし! “ディレクターズ・カット” と銘打ってはいるが、ディスク1の内容は通常盤と同じようなので、カタギのファンは通常盤、コアなファンはこちら、ということでいいと思う。
 最高に “人間臭い” バンド、ザ・フー。そんな彼らの魅力を見事に捉えたこの DVD はザ・フーのファンだけでなくすべてのロック・ファン必見のロック・ドキュメンタリー映画の傑作だと思う。

The Who Bust Out (Sparks at Woodstock)


Keith Moon - The Who (Barbara Ann)


Who are You


Wont Get Fooled Again