一枚の葉

私の好きな画伯・小倉遊亀さんの言葉です。

「一枚の葉が手に入れば宇宙全体が手に入る」

『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』その2

2011-07-13 15:51:45 | 読書

  
    それは実に個性的な友人たちであった。

    勉強は嫌い、成績も最悪だが、性に関しては
    「圧倒的絶対的権威者」だったギリシャ人の
    リッツア。
    そのリッツアがドイツで医者をしているという。
    どうして医学部に入れたの? いつから勉強す
    る気になったの? まさか賄賂やコネを使った
    んじゃないよね。 会うまで信じられなかったが、
    旧友は本当にドイツで開業医をしていた。
    しかも労働者の夫のドイツ人との間に男の子が2人
    もいるという。

    なんとリッツアは、プラハの名門カレル大学の
    医学部を猛勉強の末に卒業したのだった。
    いわく、「私みたいに大して頭のよくない貧乏
    人があれだけ本格的な教育をうけられたのは、
    社会主義体制のおかげかもしれない」
    かつてギリシャの真っ青な空と海を自慢してい
    たリッツアであったが、結局祖国には帰れずじ 
    まい。

    昔、ふっくらとしていて「雌牛」というあだ名
    だったアーニャの口癖は、
    「両親は労働者階級のために日夜、ブルジョア
    階級と闘っている」というもの。
    ところが一家の暮らしぶりは、その打倒すべき
    「ブルジョアそのもの」だった。

    本書のタイトルは、あまりにも彼女が天真爛漫
    に嘘をつくことからきている。
    イギリス人と結婚し、子供をもうけ、旅行雑誌
    の副編集長をしているアーニャはまさに人生の
    「勝ち組」なのだ。
    あれほどルーマニアを愛し、祖国の民族意識の
    高かった少女は、いまやロシア語をすっかり忘
    れ、英語一辺倒である。

    「勝ち組」にいて何でも自己正当化する旧友に、
    作者の万理は違和感を禁じ得ない。
    「あの頃は私もあなたも純真無垢に体制を信じ
    切っていたわね」とか、
    「今の自分は10%がルーマニア人で90%が
    イギリス人」などと平然とのたまうアーニャ。
    
    悪びれもせず、いかにも「誠実そのもの」の旧友
    は、自分の言葉に疑いなど持つはずもない。
    これが「嘘つきアーニャ」の「嘘つきアーニャ」
    たる所以(ゆえん)なのだろう。

    絵が上手で芸術においては天才肌のヤスミンカは
    画家になる夢をあきらめ、医者と結婚し、通訳の
    後にフリーの翻訳者となった。    
    「ずば抜けて頭脳明晰でクール」という昔の第一
    印象は変わらない。

    かの激動の時代の渦中にあり、また傍観者でも
    あった米原万理。
    本書は彼女にしか書けない「真実の物語」なの
    かもしれない。
    
     ☆ ☆ ☆
    写真は鎌倉に越してから犬と散歩する米原万理。
    設計するのが好きで、設計士になりたいといって
    いた万理だったが、自分の設計で建てた佐助の
    家には5年しかいられなかった。

    
    
    


    

    
  
    
    

    
    



    
    

    



     

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