夏大好きの清少納言ですが、『枕草子』には誰もが
知っている「春はあけぼの……」の次にこう書いて
います。
夏は夜。
月のころはさらなり。
闇もなほ、蛍のおほく飛びちがひたる。
また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて
行くもをかし。
夏は夜がいいわ。月が出ていたら最高よ。真っ暗闇
だって蛍がたくさん飛び交っていたらたまらない。
たくさんでなく、一つ二つぽ~っと光っているのも
趣があっていいのよ。
……とまあ、解説するまでもなく、この簡単明瞭で
たくみな描写力、素晴らしい文才というほかありま
せん。
『枕草子』は定子サロンを盛り上げるために書かれ
たのですが、数えた人によると、この「をかし」は
170以上もあって、
平安女性(というより清少納言)がいかにこの想い
を第一としていたかが分かります。
「をかし」は面白いといった意味ではなく、
「趣がある」「情緒がある」「ゆかしい」というセン
スです。
しかし歴史は非情なもので、定子の父親が死ぬと、
定子サロンは急に衰えて、反対に勢力をもってきた
のが彰子サロンです。
彰子の父親はあの藤原道長で、ライバルを蹴落とし、
娘を一条天皇に嫁がせると、その実力は絶大なもの
となります。
当時の貴族は、娘を天皇に嫁がせることに血道を
あげていました。
お后のサロン(後宮)も実家の力がものをいう時代
だったのです。
次第にさびしくなる定子サロン、それでも清少納言
は何とかして定子をなぐさめようと心を砕きます。
『枕草子』には、そのあたりの情景も出てきて、
ほろりとさせられます。
一条天皇は十代半ばで結婚した、この4歳上の定子
(第一夫人)を愛していました。
彰子はまだ12歳で幼くて、物足りなかったので
しょう。
一条天皇をめぐる二人のお后(定子と彰子)、
さらに時の権力者がくわわっての栄枯盛衰、
これはフィクションではなく事実なのです。
この彰子サロンに勤めたのが紫式部ですから、
またまた面白くなるということです。
※ 清少納言を模した切手(平成20)