ときどき通りがかりに寄る農家の野菜
スタンド。
今日はおじさんが畑から収穫したばか
りのスイカを並べていた。
「今日は日曜だからお客も多いな」
となんだか嬉しそう。
私が横のナスとトマトを選別している
間に、4組のお客があった。
ついつい、おじさんの口もなめらかに
なる。
「昨日はよゥ、茶毒(ガ)にやられて
皮膚科にいって薬もらってきてよゥ、
ひどくなるとあかんべと思ってなァ、
一日TVをみて畑にいかなかったんだ。
そしたら、キューリがこんなになって
ヨ」
手元にはオバケのように大きくなった
キューリと普通サイズのものがあった。
「一日、収穫せんと、こんなになるだ
からなァ、生き物は正直というか、なァ」
「そんでも、こちとらも生身の人間だ
かんな、いろいろ用事もあってな、
畑にいけん日もあるべな」
おじさんは耳が遠い。
こちらの質問や相槌もろくに聞こえない
らしく、会話が成り立たない。
「おじさん、これいくら?」
客が聞いても、えんえんと自分のペース
で喋っている。
やっとお金を出すと、
「あい、どうも、どうも」
といってまた喋り出す。
「こんなんやってもな、幾らにもなんね
のよ。手間ヒマ思えばなァ。
そんでもよ、ボケるよりはいいかと思っ
てなァ」
どうしてどうして、おじさんは年間通し
て、四季折々の野菜をた~くさん作って
いる。
ふだんは無人だからお金を備えつけの箱
にちゃりんと入れるだけ。
おじさんに遭遇するのはめずらしい。
だから客もついつい話しかけるのだが、
よほど大きい声で、しかも何回もくり
返さないと、通じない。
今日はスイカを割って、みんなに振る
舞っていた。
「昨日まで2000円で売ってたんだ
けどなあ、今日から1500円だ」
どうやら、値段を決めるのもおじさん
の腹ひとつのようだ。
「ほんでもなあ、お盆前には夏野菜も
終わってしまうがな」
おじさんの独り言はまだ続いていた。
私はナスとトマトとゴーヤを買って
きた。歩きなので、一個のスイカは
とても持って帰れない。