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アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

戦時下のメディア規制と記者の「自己検閲」

2022年08月18日 | 国家と戦争
   

 7日のNHKスペシャルは、「戦火の放送局」とてウクライナの公共放送局・ススピーリネを特集しました。ウクライナでは民間放送局の活動が困難で、ススピーリネが唯一の放送局となっているようです。以下、番組から。

 ウクライナ検察庁は同局に対し、「戦争犯罪の証拠の収集・分析のために取材で得た情報を提供してほしい(提供せよ)」と要請。同局はこれに応じています。

 このことについて同局の編集長はこう語ります(写真中)。
「正直に言うと非常に頭を抱える問題です。ジャーナリストは常に中立的でなければいけません。しかし、現状では必ずしもそれができません。今は私たち自身や家族が侵攻によって直接危機にさらされているからです

 同局のミコラ・チェルノティツィキー会長もこう言います。
政権が変わるたびに国営放送がその意向に左右されるのを見てきました。戦時下の放送局は特有の軍事的な制限を受けます。私たちにとってこの軍事的制限が政治的制限に変化しないことが重要です

 戦死した兵士の遺族を取材した女性記者(写真左)は、「悲しみ、痛みが増しました。数十万の人々と同じ立場で、やるべき事をやり、闘い続けます」と語りました。

 13日の報道特集(TBS)も、「戦争下のウクライナメディア」としてススピーリネを取り上げました。以下、番組から。

 ウクライナでは同局の下に5つのチャンネルが合同でニュース発信しています。ニュースの前には必ず、「団結すれば強し!軍を募金で支援しましょう」というCMが流されます。

 ウクライナでは国防省が定例会見を行っていますが、死傷者の数などは公表されません。会見を取材した女性記者(写真右)は、「この会見は開かれたものと信じているか」との質問に、こう答えました。

戦時中は公開してもいい情報とそうでない情報を区別するために、自己検閲が必要になることもあります。私たちは発言の内容や伝え方について責任を負うべきです。国防省や兵士にしてはいけない質問がある。兵士や民間人の命が何よりも大事です」

 メディアの監督・規制を行っている「テレビ・ラジオ放送国民会議」の議長はこう言います。
「今は戦時中で戒厳令が発令されています。戒厳令が発令されるとどの国でも国を守るために情報を規制します。日本では第二次世界大戦時にメディアは制限され戦況を正しく伝えることができなかったと聞いていますが、ウクライナでは状況が全く異なります。講じられているのは検閲ではなく必要不可欠な対策です

 ウクライナ公共放送についてはすでに4月初めの「クローズアップ現代」で取り上げられ、チェルノティツィキー会長はその時も、同局が「公平公正」とは言えないと認めていました(4月8日のブログ参照)。

 2つの番組で幹部たちは、「政治的制限」でないとか「検閲ではなく必要不可欠な対策」だと言っていましたが、国営放送への規制・統制が「政治的制限」であり「検閲」であることは明らかです。

 加えて、今回の番組であらためて考えさせられたのは、現場の記者たちの自己規制・自己検閲です。

 記者たちは、国家の規制・圧力、局の方針に自ら積極的に応じ、国家への質問(追及)を自己規制・自己検閲しています。そこにあるのは、記者である前に、ウクライナ国民であるという意識であり、それが「中立」「公平・公正」というジャーナリズムの規範を超越しています。国家と一体となって「戦っている」のです。

 ロシアでは政府に批判的なメディアが弾圧されています。それはもちろん言論・報道の重大な危機です。一方、ウクライナでは政府に批判的なメディアの存在は伝えられず(検閲され)、政府に積極的に同調・協力するメディア・記者たちの活動が肯定的に報じられています。

 しかし、言論・報道の重大な危機であることは後者も変わらないのではないでしょうか。国家による暴力的弾圧は抗う相手が明確ですが(もちろん容易ではありませんが)、メディア・記者の自己規制・自己検閲は自分自身と闘わねばならないだけ困難が大きいとも言えます。

 アムネスティの「遺憾表明」は戦時下の人権団体の危機を示していますが(17日のブログ参照)、ウクライナ国営放送の幹部・記者たちの自己規制・自己検閲は、戦時下におけるジャーナリズム・記者のあり方に重要な問題を投げ掛けています。
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