12日、茶色の古式装束に身を包んだ天皇明仁が宮中の賢所(かしこどころ)にしずしずと入っていく姿がテレビに映り、「今日から退位礼に関連する儀式が始まった」というコメントが流れ、「そうなのか」とうかつにもその時気付きました。「天皇の退位」には数々の儀式、皇室神道に基づく宗教儀式が行われるのだと。
天皇の「生前退位」は現憲法(象徴天皇制)下ではもちろん、明治以降かつてなかったこと。したがって「退位に伴う儀式」も当然初めてです。どのような儀式がどのように行われるのか、注目し点検する必要があります。
12日行われたのは「期日奉告の儀」(と称するもの)。その様子を共同電(13日付地方各紙)はこう伝えています。
「(明仁天皇は)皇祖神とされる『天照大神』を祭る『賢所』の前で一礼した。賢所の中では『御告文(おつげぶみ)』を読み、退位することを報告。陛下の儀式が全て終わると、皇太子さまも拝礼、その後、秋篠宮ご夫妻や他の皇族、宮内庁幹部が順に参拝した」
「御告文」には、退位の事実と日付(4月30日)が書かれていたといいます。
報道によれば、退位までの今後の主な儀式予定は次の通りです。
▶3月25~28日 皇后とともに京都・奈良訪問
▶同 26日 神武天皇陵(奈良県橿原市)参拝
▶4月18日 伊勢神宮参拝
▶同 23日 昭和天皇陵(武蔵野陵、八王子市)参拝
▶同 30日 宮中三殿(賢所、皇霊殿、神殿)参拝
「退位礼正殿の儀」(宮中)
退位に伴う儀式は「期日奉告の儀」を含め11あるといいますから、上記のほか報じられていない(公表されていない)儀式(秘儀?)が5~6あることになります。
一見して分かるように、これは「即位礼」の儀式に準じたものです。「退位礼」の前例がないため「即位礼」に準拠したと思われます。したがって、その問題点も「即位礼」と同様に多岐にわたります。
第1に、天皇が退位の事実とその日付けを報告している対象が、天照大神をはじめとする皇祖神だということです。
「伊勢神宮や神武天皇陵への親謁は、明治維新以後の万世一系観念や国家神道の教学を体現するもの」(『岩波 天皇・皇室辞典』)に他なりません。天皇は天照大神によって天皇となる、という皇室神道の基本概念です。これが「この(天皇の)地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく」とする現行憲法第1条とまったく相いれないことは明白です。
第2に、したがって「期日奉告の儀」や伊勢神宮、神武天皇陵参拝などはさすがに「国事行為」とはできず「私的行為」とされ、費用も皇室の生活費である「内廷費」から出す建前になっています。
ところが、こうした退位に伴う儀式は、宮内庁が作成した「儀式案」を、政府の公的組織である「式典委員会」が「承認」(2018年11月20日)したものです。つまり「国事行為」とはされない(できない)ものの、実質的には“国家行事”の扱いで行われるのであり、メディアもそれとして報道しています。
上記の「期日奉告の儀」に「宮内庁幹部」が(当然公務として)参加し賢所(天照大神)を参拝ていますが、それもこれが実質的に国家行事扱いされていることの証明です。
明白な宗教(皇室神道)儀式が実質的に国家行事として行われているのであり、宮内庁幹部の行為も含め、憲法に違反していることは明らかです。
第3に、11の一連の儀式は、退位当日の「退位礼正殿の儀」に収斂されていきますが、この「正殿の儀」は臆面もなく「国事行為」とされ、国費で賄われます。
「退位礼正殿の儀」が明白な宗教儀式であることは改めて言うまでもありません。「即位礼正殿の儀」とともに、それが「国事行為」とされていることは明白な憲法(政教分離)違反です。
しかも、「即位礼」はまだしも皇室典範に規定(第24条)がありますが、「退位礼」の法的根拠は何もありません。
以上のように、天皇の「退位」「即位」に関して、明々白々な憲法違反行為が政府、メディア一体となって公然と行われるのです。きわめて異常な事態であり、絶対に容認することはできません。