「今年の漢字」に選ばれた(投票多数)のは「北」でした。「九州北部豪雨」「大谷翔平選手の北海道日本ハム」などいろいろ要素があるようですが、「ミサイルなど北朝鮮の挑発・脅威」が主な理由だといわれています。
一方、アメリカの「タイム」誌は、「今年の人」に沈黙を破って性被害を告発した女性たちを挙げました(写真中)。彼女たちに続いて、勇気をもって告発する人々の間で「Me Too」(私も)が合言葉になりました。
「北朝鮮の脅威」を主な理由とする「北」と「ミー・トゥー」。日本とアメリカの「今年の漢字・言葉」は、きわめて対照的です。その意味するものには雲泥の差があると言わねばなりません。
「ミー・トゥー」は、権力・権威をかさに着たセクハラ・性犯罪の加害者を被害者が勇気をもって告発するもので、「社会的強者」(権力・権威)に対する「弱者」の抵抗・自己主張・自立という意味があるでしょう。
一方、「北」はどうでしょうか。
「北朝鮮の挑発・ミサイル」といいますが、朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)はアメリカに対し、朝鮮戦争の「休戦協定」を「平和協定」にするための対話・交渉を一貫して要求しています。しかしアメリカはこれを拒否し続け、一方で朝鮮が中止を求めている米韓軍事合同演習を繰り返し、日本もそれに加わるようになりました。挑発しているのはどちらでしょうか。
アメリカや日本政府は、朝鮮に対して一方的に「核の放棄」を迫っていますが、アメリカも日本も核兵器禁止条約に背を向け続ける一方、イスラエルやインドの核兵器保有は容認しています(ストックホルム国際平和研究所の推計では、核兵器保有数は朝鮮が10~20に対し、イスラエル80、インド120~130、アメリカは6800)。これは明らかにダブルスタンダードではありませんか。
安倍政権や日本のメディアは「北朝鮮のミサイルが日本を通過」と喧伝し、「Jアラート」で騒ぎ立てました。しかし、ミサイルが通過した宇宙空間に領空は存在しません。「日本を通過」は明らかなデマ宣伝ではなかったでしょうか。
そもそも朝鮮半島の緊張状態を作り出している元凶は、戦前・戦中の日本の植民地支配と戦後のアメリカの東アジア戦略ではないでしょうか。
「北朝鮮問題の根源は、1953年7月に結ばれた(朝鮮戦争―引用者)休戦協定を、米韓が破ってきたことにある。休戦協定では3カ月後に朝鮮半島から他国の軍隊は全て引き揚げると約束して署名したのに、アメリカと韓国は同時に(2カ月後に)米韓相互防衛条約(米韓軍事同盟)を締結して、「米軍は韓国に(無期限に)駐留する」という、完全に相反する条約にも署名した。…日本人には見たくない事実だろうが、これは客観的事実なので、直視するしかない」(遠藤誉東京福祉大学国際交流センター長、7月10日付「ニューズウィーク日本版」)
こうした事実・経過をみれば、「北朝鮮の挑発・脅威」が米日両政府によって戦略的に作り出されたものであることは明白です。
その狙いは、アメリカ製兵器の売り込みと、日本の大軍拡です。5兆1900億円にのぼる史上最大の来年度軍事予算、さらに1基1000億円の「イージス・アショア」の2基購入契約を見れば明らかです。
こうした狙いをもつ米日両政府の「北朝鮮の挑発・脅威」論に無批判に乗せられ、思考停止し朝鮮に「憎悪」を抱く。その表れが、「今年の漢字『北』」ではないでしょうか。
強調しなければならないのは、「北朝鮮の挑発・脅威」論に乗せられて朝鮮に「憎悪」を抱くことは、たんに米日政府の思うつぼであるばかりか、「日本国民」の人間性を蝕んでいるということです。
たとえば朝鮮に対する相次ぐ「制裁」。それが朝鮮市民の生活を圧迫し、健康・生命を脅かしていることは言うまでもありません。市民にとっては「無差別空爆」に匹敵すると言えるでしょう。
ところが安倍首相は、石油を止める「追加制裁」は冬に向かう時期だからいっそう効果的だと言い放ちました。以前、谷本正憲石川県知事が「兵糧攻めで北朝鮮国民を餓死させねばならない」と暴言を吐いて問題になりましたが(6月21日)、安倍氏と谷本氏の間にどれほどの違いがあるでしょうか。
しかし、そんな首相発言にも批判の声1つ上がらず、逆に「制裁の徹底」を求め続ける日本のメディアと「市民」。
また、秋田県などに漂着する朝鮮の漁船。そこに遺体があっても、それを悼むどころか、まるで邪悪なものを見るような視線を向ける「日本国民」。それをあおる安倍政権(政府作製のポスターはその典型)。
他人の苦境、生命の危機・喪失に対するこうした無関心・冷淡さが、人間性の衰退でなくてなんでしょうか。
まして朝鮮は、日本が72年前まで植民地支配して苦しめ、戦後も差別・抑圧してきた国です。日本には、私たち日本人にはその加害責任があるのです。
朝鮮は「3・11」に際し、けっして豊かではない経済状態の中から、いち早く60万㌦(日本赤十字社に10万㌦など)の義捐金を日本に寄せてくれました。その恩を仇(あだ)で返すようなことをしていいのでしょうか。
政府の戦略的キャンペーンと大手メディアの偏向報道に乗せられ、「北朝鮮の脅威」を主な理由にして「北」を「今年の漢字」にするような思考停止から、脱却しようではありませんか。
そして来年は、権力・権威、とりわけ国家権力に対して泣き寝入りせず、長いものにも巻かれず、自立的思考で、言うべきことを言う。そんな「ミー・トゥー」の年にしようではありませんか。
☆ 今年の「アリの一言」は今日で終わります。1年間ご愛読ありがとうございました。
来年は1月1日から始めます(基本的に月、火、木、土)。小さな小さな「一言」が巨大な権力の「堤」にわずかでも「穴」を開けることをめざして。