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「台湾海峡1949年」龍應台著

2021-09-15 04:36:01 | 


 「台湾海峡1949年」龍應台著を読ませて貰った。すごい本だと思った。事実というものが持つ圧倒的な力に満ちている。戦争というものの実態に迫るノンフィクション小説である。台湾の作家であるのだが、香港大学で一年間この本を書くための、優秀人文学者という立場を任命されて、書く部屋を与えられ書いたものである。

 中国台湾各地アジア各地で体験者を探しだし、情報を集めて、戦争の現場に出向き書いた本だという。今では書くことの出来なくなった本である。証言できる人が、その当時でも80代を超えている。2012年出版である。この本をこの本を残してくれて良かったと思う。この本を残してくれて良かったと思う。

 この本は台湾が置かれた悲惨な住民の弾圧の歴史を、あらゆる角度からノンフィクションとしてとらえてみようという試みである。と言ってももちろん、台湾の外省人の子供という作者自身の立場に立脚していることは、当然のことである。外省人とは1949年に台湾に脱出した国民党軍やその周辺の人々のことである。

 台湾の苦しい歴史が生み出した本は、当然台湾人の立場から書かれたものが多い。しかし、この本の作者は、台湾原住民の立場、台湾本省人の立場、台湾にやってきた外相人の立場、共産党中国人の立場、それぞれをできうる限りの公平な眼で俯瞰しようとしているものである。

 もちろん植民地支配者としての日本人としては、どう受け止めるにしても、加害者としての立場を逃れることは出来ないと言う意味で、日本人には苦しい本である。台湾本省人は、蒋介石と共に来た新しい支配者である、外省人の台湾人殺戮の事実は類を見ないほど、無残なむごいものであったらしい。台湾には外省人が書いたものだから、2,27事件に触れる量が少ないという不満もあると後書きにある。

 この本は出版後も事実確認が繰り返され、訂正が繰り返されたらしい。この本がきっかけとなり、様々な戦乱時の記憶が社会全体によみがえったらしい。加害者、被害者それぞれの立場で、台湾の苦しい時代が記録に止まることになった。

 ノンフィクション小説と行っても書くものは書くものの立ち位置で書く。読むものは読むがわの立ち位置で読むのだから、それぞれに読み方が違うのは当然のことである。それでもここに書かれていることは事実である。事実であると言う強さが満ちている本だ。文章に事実に迫ろうとい力がある。濾した力のある文章は日本では少ない。

 日本が台湾で行った植民地時代のことに正面から目を向ける必要がある。台湾の方々が日本に対して、温かいまなざしを持ってくれているのは台湾人の度量の大きさによるものである。蒋介石国民党に対する評価は、日本では誤解に基づいている。
 
(1)北海道がソ連の占領を免れえたのは、蒋介石総統が九州占領の権利を放棄して、これを阻止したからである。
(2)天皇制を護持できたのは、蒋介石総統がこれを強く主張してくれたからである。
(3)中国派遣軍と、在中日本人を蒋介石総統は無事に送還してくれた。
(4)500億ドルにのぼる対日賠償請求権を蒋介石総統が放棄してくれたから、日本はスムーズに復興できた。
この4つの内容的にはすべて間違えである。ソビエトのように日本兵をシベリアで強制労働させるようなことが無かったのは、中国がすでに内戦状態であったからである。

 日本軍に対して、どちらの軍も加わることは要請した。しかし、従わないものは早く返してしまう方が良いと考えたのだろう。賠償請求に関しては、一応の当事者政府としての蒋介石が敗北したために、賠償を放棄することを決めてしまった。中国を支配した共産党軍が要求したときにはすでに請求放棄が決まっていた。

 中国政府はこの本を出版禁止にしている。今の中国には事実に向かい合う公正さは無い。そのことは中国人自身が充分に気付いていることだ。天安門事件すら無かったことになる政治状況。悪かったのは日本軍であり、国民党軍である。そして毛沢東共産軍が正義なのだ。

 そんなことを単純に信ずるような中国の人達では無い。政府が必死に日本軍の暴虐を主張すればするほど、その後起こった内戦での共産軍の暴虐をだれも忘れることは無い。それは今起きている、香港の弾圧を見れば政府のやることは誰にも類推できることだ。

 独裁国家というものは必ずそういうことになる。自己正当化ばかりするのだ。だからこそ、効率の悪い議会制民主主義とそれを支える選挙制度が重要になる。今ミャンマーでは選挙に不正があったというこじつけの元に、軍事政権が民主主義政権を弾圧して、軍政を敷いた。

 どれほどその正当性を主張しても、民主主義を否定する理由は異論を封ずると言うことだ。様々な意見が錯綜して、混乱ばかりしているものが、民主主義ではあるが、この面倒くさい手間のかかる制度には意味がある。少数意見の尊重が出来なくなれば、結局の所独裁になる。

 内戦がミャンマーでも、アフガニスタンでも起きている。同じ民族が殺し合うのだ。異民族なら許されるというわけでは無いが、親兄弟が権力の命令で、殺し合うようなことは実に悲惨なことである。中国では子供の一人は共産軍に入れ、もう一人は国民党軍に入隊させるというような事が行われた。

 中国も台湾も経済成長を遂げた。それぞれに国作りをしている。中国は国家資本主義と言うような独特な方法で、経済大国を作り上げている。国際競争力が目標であるなら、ある意味合理的な手法である。ゲームにはまり込んでいる寝そべり族と呼ばれる若者に対して、ゲームを国が禁止しようとしている。

 国が箸の上げ下ろしまでとやかく言う。実に嫌な国だが、国際競争力だけを見れば、こういうことが出来る国は無類に強いだろう。勝てば正義だとすれば、これから中国が正義になることだって無いとは言えない。世界は人間の暮らしの本当の価値を、経済を越えたところに見いださなければならない。

 台湾もめざましい経済成長である。台湾は常に中国の支配圧力の中にいる。台湾は自由と民主主義を尊重している。どこを歩いていても中国にある、見張られているような不快感は無い。社会の空気がとても良い。台湾の社会を大切にしなければならない。
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