「久比岐(くびき)自転車歩行者道」とは、旧国鉄北陸本線の
線路跡地を利用した、国道8号線に沿って走る自転車と歩行
者の専用道路。
上越市虫生岩戸(むしゆういわと)から糸魚川市中宿(なかじ
ゅく)まで全長は32㎞ある。
「くびき」とは、新潟県上越地域(上越市、糸魚川市、妙高市)
の古い呼び名で「久比岐」または「頸城」と書く。
なぜこの道を歩こうとしたか…。約ひと月前、塩の道・千国
街道歩きのゴール後、糸魚川市内の小公園に寄った際、東屋
(あずまや)で読書をしていた男性から、「塩の道と違って、海
沿いを歩ける自転車道があるから、歩いてみないか」と勧めら
れたことがきっかけである。
すぐ近く、駅前の観光案内所で、コースガイドはないか尋ね
たら、「ここにはないが、もしかしたら駅西側の自転車店にあ
るかもしれない」と教えてくれた。
その自転車店に行き、声をかけたら、「あなたの来るのを待
ってました!、ありますよ」と店主らしい人が、手元の「久比岐
自転車道ガイドマップ」を渡してくれた。
残暑やゲリラ豪雨も落ち着いてきた9月3日(水)、再び青春
18きっぷで、JR武蔵野線、中央線、大糸線を乗り継いで糸魚
川駅に降り立った。
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第1日 2008年9月4日(木)
=糸魚川から名立まで=
前日の雨も上がり、曇り空となった。糸魚川市街西部の旅館
を7時過ぎに出る。糸魚川駅構内のコンビニで弁当を求め、7
時35分に出発した。
駅前通を真っ直ぐ行くと、海岸のそばに、この歩きを勧めてく
れた人と会った海望公園があるが、手前の大町2丁目の交差
点を右折し、中心街の通りを東に向かう。
すぐ先に、早稲田大学校歌や「カチューシャ」、「春よこい」など
の作詞者として知られる相馬御風(そうまぎょふう)の生家が
あった。
御風は、明治・大正・昭和3代にわたり、人間の真実を求め、
文学・歴史・民族などの研究にその生涯をかけ、特に良寛の研
修者として知られ、著書も多いという。
海川橋を過ぎて、海際から来た国道8号と交差すると、通は
狭まり、古くからの街道らしさを感じさせる家並みが続く。
梶屋敷駅の手前で、線路を越える橋を渡って、南側にある大
雲寺に寄る。
越後らしい独特のつくりの大本堂。ひなびた山門の両側にあ
った、石をくり貫いた中に祭られた小さい石仏群が珍しい。
梶屋敷駅には、直江津に遠足に行くらしい近くの大和川小の
低学年児童がザックを背負って並び、教師の注意を聞いていた。
古い商店や民家の続く梶屋敷の家並みの一角に、「明治天皇
御駐輦碑」が立つ。
すぐ先で国道に出ると、穏やかな日本海の展望が広がる。早
川の橋から眺める南側は、雲の残る山並みの展望がよい。
橋の先が、久比岐自転車歩行者道(以下「自転車道」という)
の入口。黒松の下に、東屋(あずまや)とルート案内図がある。
ここから上越市内の終点までは、32㎞の道のりである。
目の下の海岸は、ゴロゴロした石が多く、後方にも行く手にも、
スパッと切れた岬が望まれる。9時10分に、まず行く手の岬を
目指して自転車道をスタートした。
1㎞余りの最初の集落、中宿には、早くも中宿休憩所がある
が、歩き始めたばかりなので通過する。
家並み続きの中浜にも中央川休憩所が、同じくらいの間隔の
浦本漁港そばには、芝生がきれいな浦本海岸公園があり、トイ
レも設けられていた。
青空も見えて気温が上がってきたが、海からの風が気持ち
よい。行く手に高見崎が迫ってきた。
JR浦本駅の先で、国道8号より山側に回って国道沿いを進
む。赤帽子を被った地蔵さん2体が、路傍のお堂に並んでいた。
高見崎に向かい緩やかに上って振り返ると、浦本の展望がよい。
岬を過ぎたら次第に国道から離れ、緑豊富な道筋を抜けて鬼
伏(おにぶし)集落に入る。
すぐ上には、北陸自動車道が迫ってきた。アンテナの立つ次
の岬が現れ、再び国道際に下って鬼舞(きぶ)集落へ。
海を見下ろす高台に、御霊神社がある。石鳥居には、「備後
尾道石工惣八作 嘉永2年(1849)8月吉日」と刻まれていた。
このあたりの家は、何れも黒光りのする瓦屋根。ずいぶん前
の出張の帰途、国鉄北陸本線で通過した際も、車中から見た
光景が同様だったことを思い出す。
左手に大きな本堂の寺が見えてきた。地形図にも記された
西性寺。寺に下ったら庫裡(くり)も趣ある造り。
寺は幼稚園を併設していて、園児が庭や本堂の縁の下で
遊んでいた。
木浦川の橋から南側は、色づいた水田や北陸自動車道、そ
の向こうに緑の山並みなどの展望が広がる。
山すその高みを通過して浜木浦(はまこのうら)集落を抜ける。
次の岬に向かって緩やかに上がって振り返ると、浜木浦から
鬼舞へと湾沿いの家並みが続いていた。
岬を回るあたりも、国道より高みなので海の展望がよい。国
鉄時代の石積みの壁面に付いたツタが、秋を告げる色づきを
見せていた。
その先の壁面には、崩壊防止のテトラポット状のコンクリート
がたくさん止められていた。
能生(のう)川のたもとにあった能生駐輪場のベンチで、海を眺
めながら休憩。川を渡ると自転車道中で最大の町並み、能生に
入る。
現在は糸魚川市内だが、旧能生町役場付近が町の中心らし
い。旧役場前にあったサンエイというスーパーで飲物を補充す
る。このあたりでは、自転車道も住民の生活道路と並行して
いた。
少し先で、「越後新四国八十八ヶ所第1番霊場白寿観音霊
場光明院」の看板が目に入ったので、右手斜面に上がった。
急石段の上にりっぱな山門があり、緑豊富な境内にサルス
ベリが咲き、越後風の本堂がある。だがこちらは、第2番霊場、
実相院だった。
石段の横にある大ケヤキもなかなかのもの。
1番霊場光明院は、道を挟んだ西側を上がったところ。実相
院より新しく庭も草が生えていたが、墓地の前に古い石の羅漢
像が並び、寺の歴史がしのばれた。 (続く)