殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

現場はいま…ピカチューの乱・11

2024年05月04日 16時50分03秒 | シリーズ・現場はいま…

酔ったピカチューが、次男に電話をかけてから約1ヶ月。

当事者の次男はもとより

長男も、父親と弟が受けた仕打ちに怒り狂っていたが

第三者のF社長が介入したことによって落ち着いた。

 

私も悟っているわけではないが

彼らは私以上に、まだ人間がわかってないため

狂った凡人がいかに厄介な存在かを知らない。

ピカチューの狂気を正面から受け止め

彼らが暴言や暴力に及ぶと損なので

その兆候が無くなったことにホッとしている。

 

同時に私の持論、“共通の敵は結束を深める”に沿って

兄弟二人が団結するようになったのは非常にありがたい。

会社のことはどうにかなるが、兄弟仲だけは

親が何を言おうとどうにもならないので

むしろピカチューに礼を言いたいくらいだ。

 

夫は感情を口に出さないので、怒りの度合いがわからない。

だから先日、たずねてみた。

「松木氏と藤村とピカチューの中で、一番厄介なのは誰?」

夫は間髪入れず断言した。

「ピカチュー」

だとよ。

 

松木氏と藤村は夫とあまり口をきかず

自分の思い通りにやって自分でコケていた。

しかしピカチューは、どんな小さなことにも食いつき

根掘り葉掘り聞きたがる。

それがアキバ社長の命令であることは察しがついているが

しつこくて鬱陶しいそうだ。

 

そんな彼を夫は、「どちて坊や」と呼んでいる。

どちて坊やとは、一休さんのアニメに登場したキャラクター。

何でも「どちて?どちて?」と大人につきまとって聞きたがる

鬱陶しい幼児である。

 

 

こうしてピカチューの乱は、我々の中では終わろうとしている。

また面白い動きがあればご報告することにして

思い返せば夫を排除して自分が成り代わろうとした者は

松木氏や藤村、ピカチューだけではない。

トップバッターは、夫の姉カンジワ・ルイーゼだ。

 

彼女の野望はただ一つ、父親の後を継ぐ女社長。

シチュエーションは違えど告げ口、罠、嘘など

松木氏、藤村、ピカチューとそっくりなやり口は

義父の会社が危なくなるまで30年近く続いた。

 

暗黒の30年は、長かった。

それに比べれば松木氏、藤村、ピカチューのトリオなんて

どうってことない。

身内より他人の方が気楽だ。

家じゃ顔を合わせなくて済むし、夫も彼らもトシなので先が見えている。

 

そして夫とルイーゼの争いは血を分けた姉弟ゆえの

どうしようもない問題と思っていたが

他人でも同じだったとわかり、気が楽になった。

自分が座りたい椅子に何の努力もしないで座る夫が

目障りになるという、単純明快な話だったのだ。

 

ルイーゼに始まり、松木氏、藤村、再び松木氏

そしてピカチューと、4人のリレーはほぼ途切れることが無かった。

どうしてこうも次々と、夫を邪魔にする人間が現れるのか。

そういう人を4人見てきた私には

人の野心を刺激する素質が夫にあるとしか思えない。

誰でも持っている欲が、夫に近づくことで刺激され

そこに暇が加わると、野心が一気に開花するのではなかろうか。

 

だって夫を見ていると、「これじゃあな…」と思うことが満載。

はっきり言えば“落ち度の帝王”、それが彼である。

趣味のバドミントンで出会ったブサイクに騙され

事務員として会社に入れたら商売仇の愛人だったところなど

落ち度の帝王ぶりを象徴しているではないか。

のほほんとしている夫を見ていたら

簡単に交代できるような気がするだろうし

むしろ自分が交代した方がいいんじゃないかと

思ってしまうのだろう。

 

しかし、夫と交代したい人々を観察した場合

「こいつでは絶対無理」と断言できるのも事実。

夫が陰で、それほど高度な仕事をしているというわけではない。

創業者直系の男子でなければ、業界で相手にされない…

それだけ。

その身の上に甘える落ち度の帝王と

業界の掟を覆したい身の程知らず…

この二者によって、会社のゴタゴタは織りなされていくのである。

 

ところでF社長との面会を連休明けに控え

上機嫌だったピカチュー。

自分とこの裏山で採れたタケノコを何本か持って来て

得意げだったという。

運転手のヒロミとアイジンガー・ゼットが持ち帰ったそうだが

現物を見た息子たちに言わせると

「あれはタケノコじゃなくて、竹!」

だそう。

 

ピカチューがくれるといったら、そんなものだ。

昨年の着任直後、自分の作っている米を買って欲しいと言い出したが

誰も買わなかったので、気の毒になった次男が30キロ買った。

自分が米を買うことで、新しく来たピカチューとのコミュニケーションが

円滑になれば、と思ったのだ。

 

翌日、ピカチューは米と一緒に

お礼だと言って玉ねぎを5個、持って来た。

可愛いとこ、あるじゃん…と思ったのも束の間

ポリ袋に入れられた玉ねぎは、5個全部が腐っていて異臭を放った。

米は不味かった。

 

うがった考えの好きな私は、思うのだ。

ちょっと親切にしてやると、それを逆手に取る人間がいる。

自分の言うことをきく子分だと思ってしまう、危ないヤツだ。

ピカチューは、その人種だったのかもしれないと。

 

そのピカチュー、5月に入ってから急に元気が無くなったらしい。

94才のお母さんが◯にそうなんだって。

「心臓が弱っているので

いつでも連絡が取れるようにしておいてください」

病院からそう言われたと、涙目で夫に話したそう。

敵に泣き言を言う、それもピカチューなのだ。

 

「94才なら、もうええじゃないか」

夫は答えたそうだが、ここで私の指導が入る。

「“そういう話は事務員か隣に聞いてもらえ”

って、ついでに言うんよ」

「わかった、次はそうする」

夫は言ったが、次があるかどうかは定かでない。

《完》

コメント (9)
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