殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

ウグイス日記・指示の巻

2014年11月28日 07時35分41秒 | 選挙うぐいす日記

選挙選は6日目となった。

朝、出勤したら候補が言う。

「ネエさん、ネエさん、師匠から◯岡さんへ

声を低くするようにと指示があったそうなんです」


ナミ様も言う。

「昨日、私の声が師匠に聞こえたらしいんです。

キーが高すぎると言われました。

もっと下げて、落ち着かないとダメって」

しゃべらなくても怒られ、しゃべっても怒られ

美人というのは、ホンマに大変そうだ。

「下げていいですよね?

今、候補に話したら、ネエさんの判断待ちと言われました」


下げていいもなにも、キーを上下自在に操る実力なんぞ

ナミ様にありゃしない。

「下げろ」というのは得意技を封じることであり

言うなれば「黙ってろ」に等しいお言葉である。


師匠、この時点で完全に私を敵に回した。

お勉強も、ウグイス年齢も、コース漏洩もかまわない。

練習発言もけっこう。

だが、よその選挙に口を出すのはダメじゃ。


私は師匠の焦りを感じた。

ナミ様がよその陣営で感化され

ウグイスとして、人間として、目覚めてしまうのが怖いのだ。

そこで、まだナミ様が自分の言いつけを聞くかどうか

確かめたいのだ。


「6日目に落ち着いて、どうすんのよ」

「でも師匠が…」

「あ、あんたの師匠、声が低いんだ」

「え…」

「あそこの候補はマイク持たないから

6日もやりゃあ疲れてきて、ますます低くなったんだ。

自分が低いから、ナミ様の声を下げて調節したいんだ」


「今下げちゃ、いかんでしょ」

候補が言い、私も言った。

「いかんでしょ。

いたいけなソプラノがこの子の持ち味でしょ。

ニワトリが首しめられるぐらいで、いいでしょ」


「じゃ、民主主義にのっとった多数決により

師匠の言うこと聞いちゃいけません」

候補に言い渡され、ナミ様は泣きそうな顔をした。

「大丈夫よ。

また電話で怒られたって、今日だけじゃん。

明日には終わるんだから。

ここでは師匠の選挙でなく、候補の選挙をしてちょうだい」


ナミ様には私の手垢をつけないまま、師匠の手元に返すつもりでいた。

面倒臭いからだ。

何を言ったって師匠に筒抜けで、彼女のウンチクが増えるだけ。

それを後進の育成に使うならまだしも

知ったかぶって小出しに授け、またナミ様みたいな

「永遠のシモベ」を増やすだけなのだ。


姉御肌を装い、ダメ出しの連続で素質や自立心をツブし

奴隷化させて、錆びた我が身を輝かせるための小道具にしてしまう。

それでも「いい人」と慕ってもらうには、たまにおごってやったり

手作りの煮物なんかタッパーに詰めて持たせ「第二の母」を演出。

そういう女性、よくいる。

若者や経験値の低い人間なら、すぐ餌付けされて

インスタントに「いい人」誕生だ。

ついでにここで、師匠・太め説も誕生。


何が師匠じゃ。

何が弟子じゃ。

手垢つけまくっちゃる!

ということで、私はナミ様に真実を教えることにした。


「選車を見に行こう」

ナミ様を屋外に連れ出す。

「スピーカーを見たまえ」

「…はい」

ナミ様は素直に、選挙カーのてっぺんにあるスピーカーを見上げる。


「このスピーカーは、4年前に作られた新型。

前に2連結、後ろに2連結の合計4台だ。

近年、スピーカー付きの選挙専用車をレンタルする候補が増えてはいるが

田舎の市議選では、車だけ借りて

スピーカーとマイクは自前の候補が大半である」

「はい…」

「師匠の候補は古参の議員。

十何年か前の初戦であつらえたため、スピーカーも旧式のアサガオ型だ。

丸くて大きいから、前後に1個ずつしか置けない。

合計2台では、当然のことながら性能が悪い。

だが候補は構わないのだ。

ウグイスが使うだけで、自分に直接的な不都合は無いからだ。


スピーカーの古さに目をつぶる候補が、マイクだけ新調するわけがない。

だからマイクも古い。

風などの雑音はよく拾うが、声は割れやすく、地味な仕上がりだ。

よってウグイスの負担は大きくなり、疲れるのは当たり前なのだ。


我々の声がよく通り、終盤まで高音を維持する体力が残っているのは

決して才能なんかではない。

高性能のスピーカーとマイクを与えられているからなのだよ。

ウグイスが最初にやるのは、選車の装備のチェックである。

旧式であれば、技術と体力が問われると覚悟することだ。


だが師匠はスピーカーの差に気づかず、他者の声を下げるという

稚拙な操作を企てた。

頭の構造はガキ大将以下だ。

人の選挙で勘違い…よその舞台で猿芝居…

この惨状をバカと呼ぶ以外に、どのような表現ができるのか

ぜひうかがいたい」

リーガル・ハイのコミカドケンスケを真似て、私はまくしたてる。


茫然とたたずむナミ様の横で、候補が「クロい!」と爆笑している。

いくら30代の若さがウリとはいえ、候補も疲れの出る頃だ。

士気が高まったところで出発さ。


今日は、必ず師匠に会える秘策というのを用意した。

向こうが近づかないなら、引き寄せるまでだ。

楽しみな1日が始まった。


コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする