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ウグイス日記・師匠の巻

2014年11月20日 19時25分52秒 | 選挙うぐいす日記
選挙活動の合間、ナミ様が話すところによると

彼女は長い間、県内の都市部で結婚生活を送っていたが

子供ができないのが原因で何年か前に離婚したそうだ。

ウグイスの仕事に出会ったのは4年前。

やり甲斐や仲間の温かさに感動し、これを一生の仕事に決めたという。


その時世話になったのが、ナミ様が師匠とあがめる

ウグイスチームの親方であった。

60代の師匠は、弟子と呼ばれる10人前後のウグイスを束ねて

個人的なチームを作っている。

自身もベテランのウグイスとして活躍しながら

弟子達にも仕事を振ってくれるのだそうだ。


ナミ様は弟子の一人となり、ウグイス修行を始めた。

今はまだ、旗持ちやお手振りが主な仕事だという。

選挙の回数は自活できるほど多くないので

やがてこちらの市内にある実家に戻ったナミ様は

招集がかかれば選挙に参加しながら

いつか師匠のようになりたいと夢見る日々である。



さて、今回の市議選はプロのウグイスが多数参加している。

地元在住のアマチュアウグイスは高齢化や就職で激減しており

今や珍獣となってしまったのだ。

ナミ様の話によれば、師匠を始め、弟子のウグイス達も

市内4箇所の陣営に2人ずつ散らばって活動しているという。


ナミ様を含めた師匠のチームは

昨年の市長選で初当選した市長に雇われた。

市長はこの市議選で、ウグイス不足に悩む配下の市議達に

師匠のチームをあてがったというわけだ。


うちの候補も、その市長の配下として市長選を手伝った。

そしてナミ様に目をつけ、市議選の予約をした。

見た目と声の美しさ、性格の良さと共に、決め手になったのは

市内在住のナミ様と家族に投票権があることだと察する。



師匠は、初めて単独行動をするナミ様を心配し

毎晩、電話でアドバイスをくださるという。

「今日はどんなことがあった?」

「事務所にはどんな人が出入りしてる?」

「そっちの雰囲気はどう?」

「明日はどこを回る?」

ナミ様は、師匠の思いやりをありがたがっている。

しかし私は申し上げたい。

「師匠、それ、アドバイスじゃなくて質問ですからっ!」


ナミ様からあれこれ聞き出してどうするか。

選挙中、候補や陣営が票の次に気にするのは、ライバル達の情報である。

知ってどうなるものでもないが、知るとけっこう盛り上がる。

各陣営に送り込んだ配下から情報を集め、自分の所で公開すれば

師匠は一躍、情報通になれる計算だ。

「よその陣営のことまで全部知っている、すご腕のウグイス」

として、あがめたてまつられるであろう。

ナミ様は師匠のことを「優しくて、うまくて、とにかくすごい人」

と言うけど、どうだろうねえ。


実のところ、私はこの師匠とやらを最初から怪しんでいる。

「お勉強」という名のパクリ行為や

「ウグイス年齢」という名の常習的年齢詐称の薄汚い手口もだけど

4日目まで、師匠が乗る選挙カーとすれ違ったことが一度も無いからだ。

狭い市内を20台近い選挙カーが回るのに

特定の候補と1回も出会わないのは珍しい。

選挙カーの回るコースが漏れていると考える方が、自然だろう。

候補はそれに気づいて、ナミ様のことを「くノ一」と呼ぶのかもしれない。


市議選程度でコースが漏れたって、どうってことはない。

師匠の付いた候補と、こっちの候補は同じ会派だ。

当選後も仲良くやっていくだろう。

しかし大きい選挙や一騎打ち、当落スレスレだと

みんなピリピリしているのでスパイと誤解される。

袋叩きになることは無かろうが

誰かに気づかれたら、嫌われて仕事が減る。

今後も続けるつもりのナミ様にとっては、死活問題だ。


まあ、他人のことよ。

師匠、師匠と慕っているのに、水をさすこともあるまい。

私はうごめく老婆心をしまい込むのだった。


私が師匠を怪しむ理由は、もう一つ。

初日に、ナミ様のウグイスぶりをほめた。

「ほめられたのなんて、初めてです!

嬉しい…ありがとうございます…」

ナミ様は感激して涙を浮かべた。


長持ちしないとはいえ、声と発音の美しさは際立っており

人目を引く美貌とくりゃ、充分賞賛に値する。

4年もやってて、1回もほめられないのはおかしい。

「私はドジでヘタだから、いつも叱られてばっかりなんです」

ナミ様はしょんぼりと言うが、もしかしてしゃべれないのは

叱られ続けて萎縮しているからではないのか。


私の黒い心には一つの仮説が浮上していた。

「師匠ザンネン説」である。

この師匠、見た目も実力も、ザンネンに違いない。

心配とか育てるなどと言いながら、そばで目を光らせ

上に伸びれば芽を摘み、前に出れば踏み倒す。

その一方で、利用できる時にはしっかり利用する。

こんなチンピラは、ザンネンと相場は決まっている。


しかも今回の仕事は、弟子のナミ様だけに

1年前から予約が入っていた。

市内在住で投票権があるとはいえ、ナミ様だけが選ばれて

師匠もチームも無視された。

曲がりなりにも師匠と呼ばれるからには

相当ショッキングな出来事ではなかろうか。

ザンネンの嫉妬は激しいからのぅ。

わたしゃ夫の浮気で、そういう女をさんざん見ておるからのぅ。


この大胆な仮説を打ち出したからには、合否を確認したいではないか。

コースが漏れているらしいので、出くわす可能性が少ないとはいえ

いつかは師匠と対面してみたい私だった。
コメント (10)
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