殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
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市原悦子さん

2019年05月17日 09時23分17秒 | みりこんばばの時事

 

市原悦子…大好きな女優さん。

 

今年の1月12日に亡くなってしまった。

 

悲しかった。

 

 

この人の存在を知ったのは、小学校の低学年だったと思う。

 

昼下がりのメロドラマに主演していた。

 

平凡な主婦が、自宅で行きずりの男に乱暴され

 

誰にも打ち明けられないまま悩み続けるストーリーだ。

 

悩むだけならいいが、その男が今で言うストーカーで

 

執拗に追いかけられては乱暴を繰り返され

 

さらにそれをネタに脅迫されるという気の毒な話。

 

たまたま学校が早く終わって帰宅したら

 

母や会社の人たちが揃って見ていたので一緒に見た。

 

 

美人とは言いにくい女性がヒロインのドラマは初めてだったし

 

嫌だの死にたいだのと言ってはいても

 

ぽわ~んとした柔らかい声と、ワンテンポ遅れる話し方がのどか

 

重苦しいテーマとの落差が斬新だった。

 

子供には見せられない内容なので

 

通常ならテレビを消されるか追い払われるはずなのに

 

一同は市原さんの声に油断していたと察する。

 

 

それから何年か経って、まんが日本昔話が始まった。

 

日本中の子供たちが、市原さんの声に魅了された。

 

この人がナレーターだと知ったのは、ずいぶん経ってからだった。

 

 

やがて始まったのが、『家政婦は見た』。

 

このドラマは、松本清張が書いた短編小説の『熱い空気』が元になっている。

 

意地の悪い家政婦が主人公の話だ。

 

市原悦子を起用し、最初にこれを放送したら評判が良くて

 

シリーズ化されたという。

 

面白かったので、夢中で見たものだ。

 

その面白さは、家政婦のいる家で育った人間から眺める面白さである。

 

 

うちはドラマに出てくるようなセレブではないが

 

忙しい商売屋だったのと、母親と祖母が病弱だったために

 

小さいころから家政婦さんが一人いた。

 

 

歴代の家政婦さんたちは、ドラマと同じく家政婦紹介所からやって来る。

 

けれどもその生活は、ドラマとは全然違う。

 

 

我々子供は歩いてしゃべれるようになると

 

まず家政婦さんと必要以上に親しくならないようしつけられた。

 

話すときは敬語、用事を頼むのは禁止。

 

買い物に付いて行くことや、手をつないだりのスキンシップも禁止。

 

 家事をしてもらう目的で雇用しているのだから

 

子供がまとわりつくと、余計な労働をさせることになるというのが

 

家族の考えだった。

 

 

それに、うちには口うるさい祖父がいたので家政婦さんが続かない。

 

次々と代わるのが前提なので

 

特定の人と親しくなってしまったら、別れに際して子供の心が揺れる…

 

母はこのことをはっきりと嫌がった。

 

 

私が記憶しているだけで、4人の家政婦さんが我が家を通り過ぎた。

 

どの人も穏やかで善良だった。


そもそも親しく接触しない間柄なので、これといったエピソードは無いが

 

唯一、面白いことがあった。

 


この家政婦さんは、県外から住み込みで来ている上品なおばさんだった。


「盆栽に灰をかけておいてください」

 

ある日、祖父は彼女に頼んで外出した。

 

昔は、灰を盆栽にかけると肥料になると言われていた。

 

裏庭で焚火をして、その灰を盆栽にかけるのが祖父の習慣であった。

 

 

彼女は言われた通り、全ての盆栽に灰をかけた。

 

ただし、燃やしたての熱々の灰。

 

盆栽は全部枯れた。

 

祖父は家政婦さんに知られないよう密かに

 

そしてひどく嘆いていたが、父と母は大笑いしていた。

 

 

祖父は、この仕打ちを私にも訴えた。

 

「そんなに大事なものを人に任せたおじいちゃんが悪い」

 

私は冷淡に言い、両親はさらに笑い転げた。

 

仲良しとはいえない両親が、揃って大笑いするところを見たのは

 

後にも先にもこの時だけだったと記憶する。

 

 

この家政婦さんは、ほどなく辞めて郷里に帰った。

 

祖父のやかましさに閉口して、辞めるつもりだったのだろう。

 

熱々の灰は置き土産だったようだ。

 

 

ともあれ家政婦さんに対して細心の注意を払い続けた生活だったが

 

私が4年生になり、母が病気で寝付いた。


病人が出ると、家政婦さんは見つかりにくい。

 

家政婦泣かせだった祖父の悪名もすでに知れ渡っていたため

 

家政婦紹介所は協力的ではなかった。

 

 

そこで祖父は大阪から昔の彼女を呼び寄せ、家事を任せるようになった。

 

すると今度は180度変わって、「仲良く」「親しく」と言われる。

 

我々子供はその一貫性の無さに戸惑ったが

 

祖父は「非常時」と言って納得を促した。

 

彼女はとても明るく優しい人だったので、我々もすぐに納得したものだ。

 

 

とまあ、うちだけかもしれないが、正式な依頼者ではない子供や孫が

 

家政婦さんにタメ口をきいたり、アゴで使うことはあり得ない。

 

私はこのドラマで、その違和感を楽しんでいた。

 

 

歯科技工士の役、弁護士の役、刑事の役、犯罪交渉人の役…

 

市原悦子さんの出演作は、他にもたくさんある。

 

どれも一つ一つの言葉を大切に、丁寧に扱うところが大好きで

 

聞いていたらうっとりしてしまう。

 

話せばきりが無いのでやめておくが、一つだけ話したい。

 

 

何年か前の映画、山田洋二監督の『東京家族』。

 

市原さんは、この作品に母親の役で出演するはずだった。

 

しかし腸閉塞を発症して降板、吉行和子さんが演じることになった。

 

このことが、今も残念だ。

 

 

なぜなら『東京家族』を土台にして

 

『家族はつらいよ』が同じ出演者でシリーズ化された。

 

寅さんが亡くなり、釣りバカ日誌のスーさんも他界した現在

 

山田監督の看板作品になっている。

 

市原さんが『東京家族』に出演していれば

 

『家族はつらいよ』にも繋がったはずなのは明らか。

 

 

市原さんなら、どんなお母さんを演じただろう。

 

彼女の演技に影響されて、ストーリーも変わっていたのではあるまいか。

 

ぜひ見たかった。

 

 

遅ればせながら、ご冥福をお祈りいたします。


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5 コメント

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Unknown (いかどん)
2019-05-18 09:09:20
いや〜そっくりですよ!“あら〜まぁ...”っていう感じ よく出てます。
こうなると 似顔絵シリーズつぎはどなた?って みりこんさんの選択肢にも興味がそそられます。
↑ハードル上げちゃいましたか?
返信する
Unknown (いかどん)
2019-05-18 09:14:23
続きです。
私も 市原さんの声が大好きでした。私は 声コンプレックスですので 可愛らしく よく通る声が憧れです。

みりこんさんの声も良い声だと思うから 聞いてみたいな。
返信する
そっくり? (みりこん~いかどんさんへ)
2019-05-18 16:19:02
良かったです…ホッ。
描いてみたい女優№1でした。

実際に描いてみると目、鼻、口…
一つ一つのパーツが整っていて、さすが女優。
その配置が癒し系なんですね。
土台はツルっとしていて、嫌みなシワが無いのも特長。
サバサバした人なんだと実感しました。

次はどなたが犠牲に…?
困ったわ…燃える対象がもう無いわ(笑)

市原さんの声、いいですよね。
私の声は、ありきたりなおばさんの声です。
ウグイスとして、あの声欲しいです。
返信する
Unknown (薫風)
2019-05-18 17:17:25
内田裕也さん、樹木希林さんご夫婦の似顔絵お願いします。
スッポン圭さんのお話が面白くて、友人知人にブログを薦めてます。月とスッポン、言い得て妙です👏
返信する
初めまして (みりこん~薫風さんへ)
2019-05-19 06:47:00
いきなりハードル高っ(笑)

人数が倍なのと、シワが多いのとで
ちょっとお時間かかりますけど
挑戦してみたいと思います。
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