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殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

寅さん

2015年03月13日 09時47分17秒 | みりドラ
「男はつらいよ」

大好きな映画だ。

今のところBSで毎週土曜日の夜7時から放送されており

家族でこれを見るのがナラワシである。


子供の頃、寅さんみたいなファッションの人が私の町にもいた。

白か水色のダボシャツと腹巻の上に、いきなり背広。

もちろん袖は通さない。

金の指輪をはめ、やたら外股で

ジャラジャラと雪駄(せった)の音を立てながら

肩を揺らして歩いていたものだ。


幼児だった私が把握する彼のデータは少ない。

町の人々から「ニャンニャン」

というニックネームで呼ばれていたこと…

夜しか現れないこと…

小太りの中年だったこと…

奥さんのいない一人暮らしだったこと…

足が少し不自由だったこと…

好かれてはいないが、嫌われ者ではないこと…

凝視してはいけない対象として教育されていたが

子供の敵ではないこと…

その程度で、どこに住んで何をしている人なのかは知らなかった。

そしてニャンニャンは、いつの間にか町から消えた。


中学生くらいだったか

寅さんの映画をテレビで初めて見た時の印象は悪かった。

寅さんより先に、ニャンニャンの渡世人ファッションを見ていたため

私の頭には「良くない服装や態度」として記憶されていたからだ。

思春期特有の潔癖や正義感により

寅さんが周囲にかける心配や迷惑を見ては

「つらいよとこぼすより、ちゃんと就職したらいいじゃないか」

とイライラした。


が、年齢を経るにつれ、大人の事情もわかってくる。

戦後の混乱を経て高度成長期に突入したあの時代。

生活力の無い男性が安全に生きるための手段として

当時は渡世人、またはそれらしきを装うという選択肢も

有りだったのかも…などと寛大になっていった。


そしてやがて、多くの人がそうであるように

自分の中に寅さんを発見するようになる。

特に夫の浮気と嫁姑に嫌気がさして家を飛び出したり

結局舞い戻ったりして以後、共通意識は強まった。

動機に関係なく、やってることは同じであるから

眉をひそめて非難するわけにいかなくなったのだ。

こうなりゃもう、他人ごとではない。

寅さんの浮き草ぶりや風来坊を楽しめるようになった。


帰る場所があってこその旅暮らし。

迎えてくれる人がいての放浪。

フラリと帰って来て、いつまで滞在しても大丈夫という

確固たるホームベースが存在するから

寅さんは学習の無いままでいられ、その不器用が美しく際立つ。

本当の宿無しであれば、生きる知恵がつくのでこうはいかない。


寅さんのホームベースであるおいちゃんの家は、団子屋。

この背景の伏線に、私はいつも感嘆するのだ。

劇中の寅さんは素晴らしい。

妹のさくらも美しい。

寅さんを好きで詳しい方はたくさんおられようから

登場人物の賞賛はその方々にお任せするとして

私は背景について語らせていただきたいと思う。


おいちゃんの職業は食品製造販売の自営業だ。

店舗と自宅がくっついている。

商品は単価の低い消耗品で、ボロ儲けは難しいが日銭が入る。

建物が自社物件で家賃がいらず、毎日現金収入があるのは

商業上、大変有利である。

身内とアルバイト程度の人件費に加え

帝釈天の門前という立地条件や、高度成長期の時代背景をかんがみると

利益は十分出るはずだ。


利益が出ている店を自宅の住所で登記していると

家族で使う水道光熱費や電話代、新聞雑誌、洗剤などの雑貨

保険料その他…

生活費用の多くが事業経費でまかなえる。

団子に入れる砂糖は家族の食事の調理にも使われ

団子を作るガスが、家の風呂や料理で使うガスと同じボンベから届いても

店で出すサイダーやラムネが、家を訪れた来客にもふるまわれても

何らおとがめは無い。


そして「とらや」のお客は

店内のテーブルで団子を食べたりお茶を飲んでいる。

店内での飲食が許可されているからには

登記の際の商業目的に、菓子の製造販売だけでなく

軽食の提供も添えられているはずだ。

実際、壁に貼られたメニューにはトコロテンや茶がゆ

時におでんなんかがある。

ということは、軽食提供のための食材購入費も経費だ。

よって、店で出す食品と大きくかけ離れていない場合

家庭の食費も経費でまかなうことができる。


だから妹のさくらが遠くへ電話をかけても

寅さんが帰って来てごはんが一人分増えても

おいちゃんとおばちゃんはおおらかに笑っていられるのだ。

もしもおいちゃんがサラリーマンだったら

「どうやって追い出すか」がテーマになる。

家計を守るために鬼となるおいちゃんと

寅さんのご飯やお酒のおかわりに目を光らせるおばちゃんが出てきて

寅さんの巻き起こす騒動に泣き笑いするのは困難であろう。


つまり映画で存分に表現される温かい人情は

寅さん一人分ぐらいでは揺るがない「とらや」の経済事情という

伏線上に成立している。

おいちゃんとおばちゃんは、意外にもやり手なのだ。


やり手だからこそ、寅さんやさくらへの愛情を感じる。

彼ら兄妹の親代わりとして役目を果たすために団子を製造し、販売する…

それがおいちゃんとおばちゃんの自然であり、その自然は美しい。


私には、やり手と呼ばれ続けて実際には違った義父がいた。

世間や妻子の望むやり手のイメージを壊さないよう、渾身で見送った身には

家族を守るために流すおいちゃんとおばちゃんの汗と涙が

余計に心に沁みる。

深読みは、時に極上の感動をもたらすこともあるのだ。


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8 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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ダメ男、ダメ女 (婆姫)
2015-03-14 01:02:42
私も結構、ダメ男、ダメ女が好きだった。
ダメな事にもふかーい訳があるのだろう・・・
根は良い人だろう・・・・なんて考えていた。

色々な事があって、ダメ男、ダメ女とかかわりをやめた。
不倫女も男も、家族に持つ人ともかかわりをやめた。

数年、寂しい日が続いた。

最近、少しずつだが、新しい対人関係が始まった。

私は実験をはじめたよ!
ダメ男、ダメ女とかかわらないとどういう事になるのか?

今、感じる事は物事がもめなく早く進むよ。
お金でもめない

でも、たまに、ダメ男、ダメ女と過ごした日々が懐かしい。

私は子供のころから、ずっと、その世界で暮らしてきたのだもの!

私は日々、学びの中にいます。
老体鞭打っています。

それが幸せか、楽しいか・・・不明です。
生き方を変えてみると言う実験の最中です。

そんな実験ができるなんて、生きているって面白いですね。
返信する
なんか、わかる! (みりこん~婆姫さんへ)
2015-03-14 09:23:58
ダメ男、ダメ女の判断基準は人によって違うけど
今にして思い返せば、そうだったんだな~って人達と
好んで付き合っていた…またはそういう人ばかりと
図らずも関わりを持つことになっていた時期があります。
何やかんやあったけど、刺激的で楽しくもあった。
私の若さが、その刺激を嫌いながらもどこかで求めていた。
懐かしい気持ちになる時、ありますね。

年月が経つにつれ「こいつ、ダメ」と思っていた人が
別の分野では全然違ったり、この人は大丈夫と思っていた人が
肝心な部分でかなりダメな奴とわかったりを繰り返して
その後、あらら!一番ダメなのは私じゃん!
と自己嫌悪に陥る時期を経た後、自分のダメ基準が崩壊した。

その中で、数少ないダメの精鋭は、今でもやっぱりダメ。
損得によって信条も人格もコロコロ変えられる人
相手によってあからさまに言動を変えられる人は
ことの大小にかかわらず平気で嘘をつけるし
人を陥れたり利用するのがうまい。
先天性なので、本人にその意識は無い。
そういう人は運に見放されるのか
やがて気の毒なことになる人も多い。

うちにも一人二人いるような…(笑)
結局私が毎日やっていることは、ダメ達の後始末なのよねって
感じること、よくあります。
それができる健康と精神力に感謝です。

実験!
面白そう!
もめ事は格段に減ると思うわ。
こんな実験を楽しめる余裕ができる…
本当に、生きているって面白い。
返信する
寅さん、ソックリ! (すみこはん)
2015-03-16 17:35:14
みりこんさんはイラストを描かれるとき何も見ないでイメージだけで描くっておっしゃっていましたね。
懐かしい寅さんが帰ってきました。
凄いですね。

私も家族全員で『お題』を決めてお絵かき大会をよくするのですが
全然だめです。
頭の中には何となく浮かんでいるんですが
いつもヘンテコリンです。

最近ですね、チョット元気が無かったのでお邪魔出来なかったんです。
イヤイヤいつまでたってもズシーンと自信を持てない自分に
ガッカリガリ子だったんです。

春とは言え、いつまでも沈み込んではみっともないではないかと
昨日映画をみて、ちびっと涙を流したら
ちびっと元気が出て来まして
みりこんさんにお会いしたいと・・・・・。

40年来の花粉症
目がかゆーい、鼻水ズーラ、ズーラ、大変です。
返信する
お題! (みりこん~すみこはんへ)
2015-03-16 22:42:17
それは楽しそう!
あれは絵心のある人が混ざると感心大会か自慢大会になるので
他の参加者が面白くないから、そこそこ同士でワイワイやるのが
平和かつ継続の秘訣でしょうね。
こうしてさりげなくお孫さん達の頭と心を
育成していらっしゃるのね!

似顔絵、私は写真を見ながら描けないんですよ
額の裏に鏡みたいなもんがあって、そこに描きたい人が映ってる。
それを手で転写する方式。
だから微妙に似てないし、鏡だから時々左右が逆になっちゃう(笑)

自信を持てない自分ですか~。
私もそうですよ。
自信なんてありませんとも。
ただ、こういう時はこうする、こう考えるというノウハウは
持ってる。

そのノウハウって「それでも生きてる」だけだから、簡単よ。
嫌なことあった…毎日辛い…このままだったらどうしよう…
「それでも生きてる」そう思ったら、そうつぶやいたら
私は元気が出るのよ。

春ってね、何かとしんどくなる季節なのよ。
進級、卒業、進学、転勤、昇進、結婚、春休み、お出かけ…
身の回りに変化が多い。
ストレスは悪いことにかかると思われてるけど、違う。
嬉しいことにも強いストレスがかかるの。
妙な夢を見たり、気分の上下が激しいのも春。
病人を抱えていると、しんどさ倍増よ。
すみこはんは、よく頑張っていらっしゃいますよ。
春が悪いってことで。

映画、何を見たの?
私は赤ずきんやシンデレラのハッピーエンドのその後…
みたいな洋画を見たいんだけどさ。

花粉症、つらそうですね。
ヨシコとルイーゼも大変そうです。
今年は鼻の穴に塗る薬がよく効いてると言ってました。
どうかお大事にね。
早く春が終わりますように!
返信する
映画 (すみこはん)
2015-03-17 09:10:15
日頃部活で忙しい高1女子が久しぶりに休みということで
『くちびるに歌を』を見に連れて行ったんですよ。
『イントゥ・ザ・ウッズ』私も見ようと思っています。
出演者も豪華ですしね。
ひとりでゆっくり鑑賞しよう。
何しろ高齢者なので千yenで観られるのだ。

ええ、本当にみりこんさんのいってくださること素直に
しみーんと心に入ってきます。
こういうときは、しなければいけないことを
キチンとする、に重点をおいて暮らそうと思います。
後は怠け者でいいやと。

と思っていたら
小学2年生の男子がインフルエンザにかかって
給食のおばちゃん長女からSOSが入り、今朝駆けつけて来ました。
病人の食事もあるので泊まり込みは出来ませんが
2,3日通ってきます。
今、まだ寝ているので助かるわ~。

優しく言って下さって、ありがとうです。
返信する
イントゥ・ザ・ウッズ! (みりこん~すみこはんへ)
2015-03-17 21:56:03
そうだそうだ、タイトルはこれでした。
ジョニー・デップが出るから、絶対面白いと思います。
ぜひ行きたいんだけど、49日が終わるまで難しそうだから
すみこはん、もしごらんになったら感想を教えてくださいね!
喪に服しているわけではなく、仕事サボってたので
たまってる所に年度末が来おって。

私は以前から、おとぎ話のその後を一人で考えてたの。
王子と結ばれた姫と名のつく方々の嫁姑問題やら浮気問題やら。
「幸せに暮らしましたとさ」で、人生終わるわけがないと思ってさ。
まさかディズニーが取り組むとは思わんかった。

怠けられる時は、しっかり怠けてくださいよ。
私も気をつけてるのよ。
やり過ぎはいかんな、と。
自分は満足でも人をダメにする、と。

お孫さんのインフルエンザ、心配ですね。
おばあちゃんがいて良かった。
返信する
お久しぶりです。 (ねじ)
2015-03-19 21:05:31
大好き寅さんのこのような見方があるんだ。
いやん、現実に戻さないで~。
返信する
お久しぶりです! (みりこん~ねじさんへ)
2015-03-20 07:40:08
ねじさん、寅さんが大好きでしたよね!
すいませ~ん(笑)
ブレないスタンスのおいちゃんとおばちゃんに、この現実は不可欠。
脚本と演出の完璧さに舌を巻く私です。

監督の山田洋次さん、やっぱりすごいな~と思ったのが
数年前に近くであったロケ。
偶然行き合わせたのですが、10台ぐらい待機してたロケバスが
全部東京各地のナンバーを付けた新車。
現地調達でなく、本拠地からチャーターしてる。
すごい経済力ですよ。
実力があるってことはスポンサーが大きいということなんだな
って感心しました。

寅さんの映画では、私はハワイ旅行未遂の話が一番好きです。
寅さんが競馬で大穴を当てて二人をハワイに連れて行こうとする話。
旅行会社に旅費を持ち逃げされてハワイには行けず
大騒ぎで出発した手前、家に隠れて数日を過ごす。
出発前、ミニスカートをはいたおばちゃんの足の美しさに
驚きました。
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