殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

手紙は書くけど

2023年02月17日 09時55分03秒 | みりこんぐらし
冷酷な私でも、たまには人に優しくすることがある。

近頃は、ウグイスの相棒ナミのお母さんに手紙を書いとるのじゃ。


これは去年、ナミと一緒にウグイスをした時

彼女の母親の認知症を聞いたことに端を発する。

選挙期間中、母親とも何度か会ったが、やはりナミが言うように中度の症状みたい。


8年前、つまり前の前の選挙で、あの母娘に初めて会ったのだが

ナミママはペーパードライバーのナミを毎日、選挙事務所に車で送迎していた。

当時のナミママは対向車と離合する時に接触したが、本人は気づかずに通り過ぎ

相手の車に乗っていた母子が選挙事務所まで追いかけてきてゴタゴタしたのは記事にした。

認知症は10年以上かけて、ゆっくり進行するというから

思えばあの頃には認知ワールドに足を踏み入れていたと思われる。


今回の選挙の時、ナミは私に頼んだ。

「母は昼間、一人なので、お暇があったら時々電話してやってください」

私は快諾した。

84才のナミママは可愛らしくて心が美しく、認知症であろうとなかろうと

私の好みとする女性である。

時々電話をかけるぐらい、何であろう。


そんなわけで、私は選挙が終わってすぐに電話をした。

が、これが大仕事。

まず王道を、と思って家の電話にかけたけど出ない。

次にナミママの携帯にかけるが、やはり出ない。

また明日にでもかけてみようと思っていたら、夜になってナミから連絡が。

「すみません…今、母の携帯をチェックして、姐さんの着信に気がつきました。

携帯が鳴っても母は気づかないことが多くて

着信があってもかけ直す作業ができなくなっているんです。

家の電話は母の居場所から離れているので聞こえないし

出ても内容を忘れるので、出ないように言ってあるんです」


それから改めてナミママが…というよりナミが私に電話をかけてきてママと代わり

小一時間ほどおしゃべり。

同じことをレコードのように繰り返す認知症あるある。

うちにも似たようなのが一人いるので慣れているとはいえ、小一時間は長く感じた。


それが終わると、今度はナミからお礼の電話。

「母はすごく喜んでいました。

だけど姐さんとどんな話をしたのか聞いても、忘れてるんです」

ナミママも電話で言っていた。

「電話の内容を忘れるから、いつも娘に叱られるんです」

覚えてないことを家族が責める、認知症家族あるあるだ。

責めたら認知症は進む。

これ以上、進行しないようにと切に願いながら

親がボヤボヤしているのを見ると、情けなくてつい責めてしまう…

血の作用であろう。


叱られたら気の毒なのと、電話が長くなるのを警戒した私は提案した。

「じゃあママ、次からは手紙を書きます。

手紙は残るので、内容を聞かれたら見せればいいですよ」

こうしてナミママに、時々手紙を書くことになった。


一方でナミには時々、食事や栄養のことをLINEで話す。

認知症は、栄養バランスの乱れで進行するからだ。

ウグイス年齢55才・人間年齢60才のナミは料理が苦手。

彼女より8才下の独身の妹も料理が苦手。


ナミは広島市内にアパートを借り、こちらと行ったり来たりしていて

妹は仕事をしながら母親と暮らしているが

実際のところ、ナミは母親の世話に飽きたら広島へ逃げている気配が濃厚。

かたや妹の方は働いて帰ったら、自分と母親のごはんを作らなければならない毎日。

そして母親には、電話に出るな、外へ出るな、人が来ても出るな、火を使うな…

固く言い聞かせている初老の姉妹。

聞くだけでしんどそうだ。


「いつもは買ったお惣菜が多いけど、高いし飽きちゃうし

家で作っても栄養のことを考えると、つい野菜炒めになっちゃうんです。

だけど母は食べてくれなくて、お菓子で済ませることが多くて

注意しても聞いてくれないんです」

手間を省きたい一心で、肉と野菜をぶち込んで炒め

これで栄養バランスが取れていると思い込む…典型的な料理苦手あるある。

歯の悪い年寄りに、野菜炒めは拷問だ。

ましてやナミママは歯どころか歯槽膿漏がひどく

歯医者で手に負えなくて病院へ通うほどの重症である。

それを「食べない」と言って責めるのは、あまりにも気の毒じゃないか。


そこで私の得意技、手抜き料理を伝授し始めた。

マヨネーズと明太子だけの明太子スパゲティ、白菜を使わずキムチと豚肉だけのキムチ鍋

レンジでチンするだけの豚肉の野菜巻き、レンジでチンするだけのナムル

鶏胸肉のチーズピカタ、ただ焼くだけの鶏ササミの黒胡椒焼きなんかだ。

彼女は素直に聞き、次々とマスターするので伝え甲斐がある。


で、手紙の話に戻るが、年寄りに手紙を書く時は

返事はいらない、読むだけでいいと言っておかないと

相手の負担になることがあるので、いつもそう書く。


手紙が届いたら、母はとても喜んでいるとナミから連絡がある。

しかし、それでは終わらない。

ナミママは律儀なので、必ずお礼の電話がある。

2時間ぐらい。

人生一代苦労絵巻が終わらんのじゃ。

家族は聞いちゃくれないので他人に話す、年寄りあるある。

その絵巻が途中で振り出しに戻る、認知症あるある。

もちろん電話のたびに、絵巻は初めて話すかのごとく

同じ内容が繰り返される。


母親のそばに居たナミは、すでに席を外しているらしい。

親の人生絵巻なんて、聞きたくないもんね。

だけどいくら私が暇だといっても、家に居たら用事があるのよ。

長時間、自室にこもりきりだと姑が不安になって機嫌が悪くなるのよ。

ナミめ、ええ加減になったら気を利かせて止めろや!

と思うが、それがナミ。

甘えられると踏んだら全力でしなだれかかる無責任体質は、選挙でよ〜くわかっておりますとも。


ナミママが満足してやっと電話が終わったかと思うと、今度はナミから電話。

「姐さん、ありがとうございました。

母も長くおしゃべりができて、すごく自信がついたみたいですぅ」

やかましいわい。


とまあ、電話だと繋がるまでが厄介で、手紙だと後の電話が厄介。

丁寧過ぎるというか、チャチャッと済ませることができなくて

それが悪気が無くても慇懃無礼の方向へ寄っちゃう一家らしいわ。

乗りかかった舟だから続けるつもりだけど、だんだん間遠になりそうよ。



あ、これ?

ナミママの手紙用に買った便箋と封筒たち。

メーカーはホールマークが好き。
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