殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

ええ〜?!・4

2023年02月28日 14時48分22秒 | みりこんぐらし
収集運搬免許の更新試験のため、広島市内へ向かった我々。

次男と親子3人でどこかに行くのは、ずいぶん久しぶり。

男の子って大人になったら、親に付き歩かないもんね。

その行き先が試験会場とはいえ、夫も心なしか嬉しそうだった。


会場受付は午後1時と聞いていたので、途中で昼食を済ませて時間通りに到着。

次男を近くの駐車場に待たせ、我々夫婦は会場へと入る。

夫が知らない所へ行く際はこうして付き添い、中へ送り込むのが常だ。

子供か…と笑われそうだが、子供の方がよっぽどマシである。

夫には昔から、何をしでかすかわからないというのか

彼自身の周りで何が巻き起こるかわからない危うさあるのだ。


顔の濃い大男は、ただでさえ怪しまれたり引かれる機会が多い。

そしてこの顔の濃い大男は、周りのムードやスピードに自分ペースを合わせるのが苦手。

長年、広い会社の敷地や重機の中に一人で居るとこうなる、職業病みたいなものかもしれないが

どこに居ても思うままの急発進、急ブレーキ、急方向転換といった動きをする。

気づけば誰かとぶつかっていたり、ガードマンの不審を買ってトラブルになった過去、多数。

本人もそれはよくわかっているため、私の付き添いを望む。

人に迷惑がかかるからではなく、謝ったり説明をするのが嫌いだからだ。


そこで夫婦連れを装えば…いや、実際に夫婦なんだけど

周囲にはある程度の安心感を与えられる。

今回は大事な試験ということもあり、付き添いは当然だ。

世間によくいる、いつも夫婦連れで仲良さげな年寄り…

あれも本当は、旦那を一人で行動させると何をしでかすかわからないので

その予防のために妻が付き添っているのではないのか。

皆ではなくとも、何割かはそれかもしれないと思っている。


さて、試験会場は初めて行くビルだった。

入り口の掲示板には、産業廃棄物ナンチャラ試験会場10Fと表記してある。

よしよし。


エレベーターで10階に上がると、まず体温を測る女性がいて

その後ろに受付をする男性が数人並んでいた。

そこには、やはり産業廃棄物ナンチャラ試験会場と書かれた紙が貼ってある。

夫とはそこで別れ、私は次男の待つ車に戻った。


試験は1時間。

夫を待つ間、どこへ行くにも中途半端なので、次男は寝ると言い

私は軽く散歩でもして都会の空気を吸おうと思った矢先

夫が駐車場に戻ってきたので、「ええ〜?!」と驚愕した我々。


提出書類も受験票も筆記用具も確認したし、急いでなさそうなので忘れ物ではない…

すると、また何かトラブルか…

いや、こうして姿を現わしたからには身柄は解放されている…

つまり拘束されるほど重篤な問題ではないか、いっそ追放されたかの両極…

夫が車に向かってタラタラ歩いてくる間、これらの思いが頭を駆け巡る。

この人は感情を顔に出さないので、見ただけではわからないのだ。


車に乗り込んだ夫が語ったのは、私が想像した両極以外の結末だった。

「試験は午前中で終わっとった」

「ええ〜?!」

またも思わず叫ぶ私と次男。


「入り口や会場に書いてあったのは、産業廃棄物収集運搬免許試験会場じゃなくて

産業廃棄物“特別”収集運搬免許試験会場じゃった」

「ええ〜?!」

さらに叫ぶ私と次男。


夫が受付の人に聞いたところ、特別収集運搬免許というのは

我々建設業界人が必要とするものではなく

工場など企業が排出する特殊な廃棄物を扱う免許らしい。

夫が受けるはずだった建設系の試験は午前中で終わり

午後からは同じ廃棄物関係でも製造系を対象にした試験に切り替わっていたのだ。

そう言われてみれば、建設業界だとジャンパーや作業服の人が大半なのに

ビルの中はスーツ姿の人ばかりがウロウロしていた。


いずれにしても“特別”の二文字に気づこうが気づくまいが

我々が到着した時にはすでに試験が終わっていたのだから、今さらどうにもならない。

親子3人ではるばる来たというのに、無駄足だった。


試験が受けられないと知った夫は、申し込みの手続きをした本社のS君に電話をしたそうだ。

「試験は午前で終わっとったで…どうなっとるん?」

彼の反応は薄口であった。

「あ、そうですか。

10時からと書いてある書類がここにありますね。

そっちに送るのを忘れてました」

すげなく冷たい言い草に、夫は怒鳴りつけそうになったという。


つまり1ヶ月前の1月、夫が事故に遭わなければ、試験は午後1時からだった。

しかし先延ばしになったので欠席届けを出し、再度申し込みをしたところ

会場は1月と同じビルで、時間が午前10時の試験が取れた。

S君は会場が同じだったので、試験も同じ時間だと思い込み

改めて受け取った新しい案内状を夫に送付しなかったのだった。


「Sのやつ、恥かかせやがって!」

プリプリと怒る夫。

「S君を責めなさんな。

騒いだらダメよ。

事故が無かったら、先月で終わっとることじゃけんね」

なだめる私。


よそで働いたことの無い夫は知らないだろうが、若い子ってこういうことをよくやるものだ。

信用して任せていたら、ひどい目に遭う。

彼にとっては先月、すでに終わっているはずの仕事なのだ。

それが事故で日延べになり、同じ作業を2回やらされたのだから、S君にとっては迷惑な話。

自分の仕事を少しでも減らしたい彼は、むしろうちが潰れて無くなればいいと思っているクチなので

夫の試験がどうなろうと知ったこっちゃないのだ。

よって受験の申し込みがS君の仕事であっても

受験の当事者であり、日延べになる原因を作った夫の方が、さりげなくリードしてやるべきだ。


そう言い聞かせたって夫には理解不能だろうし、わかったところで数年後には退職。

次の更新時にはS君も夫も、いるやらどうやらわからないのでうるさくは言わないが

私は常々そう思っている。

そう思っている以上に思うのは、何もかも本社の主導だと楽だけど

結局はその仕事が弱者の所へ振られるので、こういった凡ミスが起こりやすい事実である。

サザエさんじゃあるまいし、1日潰して街まで出かけたら

時間が違って帰るしか無いじゃあ、バカバカしいことこの上ない。

とりあえずS君の精神がヤバめなのは、確定だ。

今後、彼が関わる案件には心して臨まなければならない。


「久しぶりに親子でドライブができて、楽しかった」

ともあれ、そう言いながら楽しく帰途についた我々であった。

更新の期限は7月なので、そう焦ることはない。

来月は、熊本と博多で試験が行われる。

「いっそ泊まりがけで九州もいいね」

「ゆっくりして帰ろうか」

そう話しながらも、更新を逃したら裏技があるのも知っている。

引き伸ばしの手続きをしたら半年の猶予が与えられるなんて、本社の人々は知らない。


そういうことも知らないが、うちの仕事にとって、この免許がいかに大事かというのも

河野常務以外は知らない。

だからS君も、たかが更新と軽く扱うのだ。

うっかり流したことが発覚すると本社の社長が危ないのを知ったら、ビビるだろう。

しかし言わない。


なぜなら夫を追い落として責任者に成り代わろうと企んでいた、松木氏も藤村も知らないからだ。

知らないから商品を運ぶ船舶の着岸手続きなんかにこだわり、夫から奪って満足していたが

あんなモン、電話とハンコがあれば猿でもできる。

本当に成り代わりたいのであれば、この免許を取得することだ。

そんな初歩すら知らずに成り代わろうとするのは、甘い。


昔はお金と数ヶ月に渡る講習で取れたが、今は頭がいるそうなので自力で取るのは難しそうだけど

煩雑な手続きを踏めば名義の移譲もできる。

そんなことをアレらが知ると、夫より先に退職予定の松木氏はともかく

藤村や他のバカどもが名義を欲しがって厄介になるから、免許ことは最後まで秘密にしておく。

だから「行ったら終わってた〜」とサザエさんぶってヘラヘラしておくよう

夫にも次男にも告げておいた。

《完》
コメント (2)
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