たまに洋子さんがかけてくる電話は、1年余り続いた。
しかし回数の方は、だんだん遠のいていった。
心境の変化ではなく、多忙という物理的な理由であるらしかった。
合同結婚式への参加が決まったからである。
ご存知だと思うが、合同結婚式とは
教祖から許可された、おびただしい数の信者が結婚衣装に身を包み
芋を洗うがごとく一ヶ所の会場に集まって
教祖が選んだ見知らぬ相手と一斉に結婚する教団独特の儀式だ。
合同結婚式があると、なぜ忙しくなるのかは聞きそびれたが
どこの国の誰と結婚させられるか、当日までわからないのだ。
身軽な共同生活とはいえ、一応は身辺整理もあろうし
勧誘や献金集めにもラストスパートをかけたいのは信者なら当然だろう。
教団にこのような結婚の習慣があるというのは、洋子さんから聞いていた。
自分と同年代、アラサーの彼女が、生涯を尼さんとして生きるのか
いずれ結婚して教団を離れるつもりなのか、興味があったのでたずねたからだ。
どちらかしか選べないと思い込んでいた私は
合同結婚式という、結婚と宗教の両立ができる折衷案を聞いて
舌を巻いたものである。
なるほど、信者同士が結婚すれば、両者納得づくだ。
家族か宗教かの二者択一をしなくていいし、夫婦で布教活動ができる。
生まれた子供も信者なるのだから、信者は増えっぱなし。
まことによく考えられたシステムである。
それからほとんど間を置かずに、複数の有名人が入信していることをマスコミが喧伝し始めた。
広告塔という単語が一般的になり、歌手の桜田淳子さんたち有名人が参加するということで
合同結婚式という呼び名も日本中に浸透。
被害者もたくさん現れ、統一教会はカルト教団と言われるようになった。
そんな1992年、洋子さんは嬉しそうに報告したものだ。
「私も合同結婚式に参加することになりました」
彼女はまだ見ぬ結婚相手と結婚生活に、夢を膨らませている様子。
こういう所は普通の女の子と同じで、可愛らしかった。
桜田淳子さんたちと同じ日、韓国の同じ会場で、洋子さんも結婚した。
テレビに映し出される白いドレスを着た女性たちの中に、洋子さんを探したが
すごい人数なので発見できるはずもなかった。
合同結婚式から何ヶ月か経って、アメリカからエアメールが届いた。
差出人は洋子さん。
彼女はあの合同結婚式で、ニューヨーク在住のアフリカ人医師と結婚し
マンハッタンで新婚生活を送っているという。
手紙には、写真も同封されていた。
自宅のベランダで写したそうで、ビル街を背景に寄り添う幸せそうな写真だ。
背の高い彼も優しそうな感じなので、良かったと思った。
合同結婚式で韓国の山間部にある農家へ嫁がされ
働き手として牛馬のごとく扱われる日本女性もたくさんいると聞く。
合同結婚式にかこつけて、嫁不足解消のために
そういう人気の無い所へ行かされることが多いらしい。
だとしたら、物価の高いマンハッタンで暮らす経済力を持った男性と
結婚できた洋子さんは幸運だった。
こういうマッチングは、集めた献金や勧誘した信者の人数で決まるのかもしれない。
家族を捨ててまで布教に邁進した洋子さんは、そこそこの成績を上げたのかもしれなかった。
洋子さんとは、それっきりだ。
手紙の返事も出さなかった。
あれから30年。
隣市の駅前にあった“センター”は、いつの間にか無くなり
そんなことも忘れはてていた去年だか今年だか、近所のおばさんの悩みを聞いた。
3人ぐらいで家に来た知らない人に勧められるまま
賛同するサインをしてしまって不安…というものだ。
2日後ぐらいだったか、同じ集団がうちにも来た。
見せた紙に書いてあることに賛同して、住所氏名を書いてくれと言うので断った。
紙には、世界平和統一家族連合とあった。
このことを記事にすると、「それは統一教会のことよ」
とコメント欄で教えてくださるかたがいらした。
名前を変えて活動しているそうだ。
そして7月に起きた、安倍元総理の暗殺事件。
犯人の母親が、あの教団の信者だということで
30年前の合同結婚式以来、旧統一教会の悪名は再びとどろいた。
世界平和統一家族連合では長過ぎるからか、旧統一教会と呼ばれ
かまびすしい報道が続いている。
それで知ったのだが、夫婦で古代の王様みたいな仮装をし
合同結婚式を主催していた教祖の文鮮明氏はすでに他界したという。
あのコスプレを見た時は、かなり笑えたものだ。
「王様に憧れてるんだね〜」と。
犯人の母親が統一教会にのめり込んだのは、旦那さんの死因が影響したと思う。
あの教団は献金を出させるために因縁話を使う手法なので
人の死因にものすごくこだわるからだ。
因縁にこじつけやすい自死であり、ましてや裕福な家庭だったら
高額献金を狙い、総力を挙げてあの手この手を繰り出すので
ひとたまりも無いだろう。
私のような庶民にすら盗聴までやるんだから、騙しのテクニックはプロだ。
日本人から金を巻き上げるためなら、どんなことでもするのが彼らである。
それにすっかり騙されて、盗っ人の片棒を担ぐのは日本人。
日本人をうまく利用して金儲けをすることを、彼らは“用日”と呼ぶ。
嫌い嫌いの“反日”よりも、“用日”の方が上級なのだ。
まんまと引っかかってはならない。
私が過去のアホを披露したのは、これが言いたかったからである。
ついでに話すが、30年前、東北で掘られていると言われ
本物かどうかは知らないけど、写真まで見せられた日韓トンネル。
今じゃ九州の佐賀県にあると言うじゃないか。
東北のは、どうしたんじゃ。
いい加減なこと言いおって。
いい加減な私が言うのもナンだけど。
それにつけても安倍元総理の暗殺は、かえすがえすも残念で仕方がない。
あの犯人は前座に過ぎず、本当は別のスナイパーがいたなど
陰謀説も取り沙汰されているが、真相は今のところ藪の中。
このような陰謀説が出てくるのは
政府、警視庁、奈良県警の説明や対応のまずさが原因だと思う。
真相を隠すために、旧統一教会や国葬の問題に急いで切り替えたような印象を
与えてしまっている。
国民の心情を理解しようと努める姿勢が見当たらず
理解してもらおうとも考えないままにコトを進め、寄り切ってしまうやり方は
あの、ええとこの娘さんとプータローが結婚した時と同じではないか。
あれが今の日本のやり方ならば、未来は暗いと考えて当然だ。
その暗澹たる思いが、陰謀説に繋がっていると私は思う。
ちゃんと調査して、国民を納得させてもらいたいと願うばかりである。
これほどの騒ぎになって改めて思うが
安倍元総理は多くの人々から愛され、親しまれた人物だった。
そして彼が愛されれば愛されるほど、親しまれれば親しまれるほど
別の多くの人々にとって、彼は都合の悪い存在になっていった。
今の国葬に関する賛否両論は、この両極の思いが具現化されているように思う。
「美しい日本」
「日本を取り戻す」
安倍元総理の掲げたスローガンは、抽象的だ。
パッと見は夢夢しく、何が言いたいのかわからない。
しかし、美しく再生されては困る、取り戻されては困る一部の人々は
この抽象的な言葉から、脅威を感じ取ったであろう。
私たち日本国民は、彼を失って初めて
この言葉の中に込められた彼の真意を知ったのかもしれない。
《完》
しかし回数の方は、だんだん遠のいていった。
心境の変化ではなく、多忙という物理的な理由であるらしかった。
合同結婚式への参加が決まったからである。
ご存知だと思うが、合同結婚式とは
教祖から許可された、おびただしい数の信者が結婚衣装に身を包み
芋を洗うがごとく一ヶ所の会場に集まって
教祖が選んだ見知らぬ相手と一斉に結婚する教団独特の儀式だ。
合同結婚式があると、なぜ忙しくなるのかは聞きそびれたが
どこの国の誰と結婚させられるか、当日までわからないのだ。
身軽な共同生活とはいえ、一応は身辺整理もあろうし
勧誘や献金集めにもラストスパートをかけたいのは信者なら当然だろう。
教団にこのような結婚の習慣があるというのは、洋子さんから聞いていた。
自分と同年代、アラサーの彼女が、生涯を尼さんとして生きるのか
いずれ結婚して教団を離れるつもりなのか、興味があったのでたずねたからだ。
どちらかしか選べないと思い込んでいた私は
合同結婚式という、結婚と宗教の両立ができる折衷案を聞いて
舌を巻いたものである。
なるほど、信者同士が結婚すれば、両者納得づくだ。
家族か宗教かの二者択一をしなくていいし、夫婦で布教活動ができる。
生まれた子供も信者なるのだから、信者は増えっぱなし。
まことによく考えられたシステムである。
それからほとんど間を置かずに、複数の有名人が入信していることをマスコミが喧伝し始めた。
広告塔という単語が一般的になり、歌手の桜田淳子さんたち有名人が参加するということで
合同結婚式という呼び名も日本中に浸透。
被害者もたくさん現れ、統一教会はカルト教団と言われるようになった。
そんな1992年、洋子さんは嬉しそうに報告したものだ。
「私も合同結婚式に参加することになりました」
彼女はまだ見ぬ結婚相手と結婚生活に、夢を膨らませている様子。
こういう所は普通の女の子と同じで、可愛らしかった。
桜田淳子さんたちと同じ日、韓国の同じ会場で、洋子さんも結婚した。
テレビに映し出される白いドレスを着た女性たちの中に、洋子さんを探したが
すごい人数なので発見できるはずもなかった。
合同結婚式から何ヶ月か経って、アメリカからエアメールが届いた。
差出人は洋子さん。
彼女はあの合同結婚式で、ニューヨーク在住のアフリカ人医師と結婚し
マンハッタンで新婚生活を送っているという。
手紙には、写真も同封されていた。
自宅のベランダで写したそうで、ビル街を背景に寄り添う幸せそうな写真だ。
背の高い彼も優しそうな感じなので、良かったと思った。
合同結婚式で韓国の山間部にある農家へ嫁がされ
働き手として牛馬のごとく扱われる日本女性もたくさんいると聞く。
合同結婚式にかこつけて、嫁不足解消のために
そういう人気の無い所へ行かされることが多いらしい。
だとしたら、物価の高いマンハッタンで暮らす経済力を持った男性と
結婚できた洋子さんは幸運だった。
こういうマッチングは、集めた献金や勧誘した信者の人数で決まるのかもしれない。
家族を捨ててまで布教に邁進した洋子さんは、そこそこの成績を上げたのかもしれなかった。
洋子さんとは、それっきりだ。
手紙の返事も出さなかった。
あれから30年。
隣市の駅前にあった“センター”は、いつの間にか無くなり
そんなことも忘れはてていた去年だか今年だか、近所のおばさんの悩みを聞いた。
3人ぐらいで家に来た知らない人に勧められるまま
賛同するサインをしてしまって不安…というものだ。
2日後ぐらいだったか、同じ集団がうちにも来た。
見せた紙に書いてあることに賛同して、住所氏名を書いてくれと言うので断った。
紙には、世界平和統一家族連合とあった。
このことを記事にすると、「それは統一教会のことよ」
とコメント欄で教えてくださるかたがいらした。
名前を変えて活動しているそうだ。
そして7月に起きた、安倍元総理の暗殺事件。
犯人の母親が、あの教団の信者だということで
30年前の合同結婚式以来、旧統一教会の悪名は再びとどろいた。
世界平和統一家族連合では長過ぎるからか、旧統一教会と呼ばれ
かまびすしい報道が続いている。
それで知ったのだが、夫婦で古代の王様みたいな仮装をし
合同結婚式を主催していた教祖の文鮮明氏はすでに他界したという。
あのコスプレを見た時は、かなり笑えたものだ。
「王様に憧れてるんだね〜」と。
犯人の母親が統一教会にのめり込んだのは、旦那さんの死因が影響したと思う。
あの教団は献金を出させるために因縁話を使う手法なので
人の死因にものすごくこだわるからだ。
因縁にこじつけやすい自死であり、ましてや裕福な家庭だったら
高額献金を狙い、総力を挙げてあの手この手を繰り出すので
ひとたまりも無いだろう。
私のような庶民にすら盗聴までやるんだから、騙しのテクニックはプロだ。
日本人から金を巻き上げるためなら、どんなことでもするのが彼らである。
それにすっかり騙されて、盗っ人の片棒を担ぐのは日本人。
日本人をうまく利用して金儲けをすることを、彼らは“用日”と呼ぶ。
嫌い嫌いの“反日”よりも、“用日”の方が上級なのだ。
まんまと引っかかってはならない。
私が過去のアホを披露したのは、これが言いたかったからである。
ついでに話すが、30年前、東北で掘られていると言われ
本物かどうかは知らないけど、写真まで見せられた日韓トンネル。
今じゃ九州の佐賀県にあると言うじゃないか。
東北のは、どうしたんじゃ。
いい加減なこと言いおって。
いい加減な私が言うのもナンだけど。
それにつけても安倍元総理の暗殺は、かえすがえすも残念で仕方がない。
あの犯人は前座に過ぎず、本当は別のスナイパーがいたなど
陰謀説も取り沙汰されているが、真相は今のところ藪の中。
このような陰謀説が出てくるのは
政府、警視庁、奈良県警の説明や対応のまずさが原因だと思う。
真相を隠すために、旧統一教会や国葬の問題に急いで切り替えたような印象を
与えてしまっている。
国民の心情を理解しようと努める姿勢が見当たらず
理解してもらおうとも考えないままにコトを進め、寄り切ってしまうやり方は
あの、ええとこの娘さんとプータローが結婚した時と同じではないか。
あれが今の日本のやり方ならば、未来は暗いと考えて当然だ。
その暗澹たる思いが、陰謀説に繋がっていると私は思う。
ちゃんと調査して、国民を納得させてもらいたいと願うばかりである。
これほどの騒ぎになって改めて思うが
安倍元総理は多くの人々から愛され、親しまれた人物だった。
そして彼が愛されれば愛されるほど、親しまれれば親しまれるほど
別の多くの人々にとって、彼は都合の悪い存在になっていった。
今の国葬に関する賛否両論は、この両極の思いが具現化されているように思う。
「美しい日本」
「日本を取り戻す」
安倍元総理の掲げたスローガンは、抽象的だ。
パッと見は夢夢しく、何が言いたいのかわからない。
しかし、美しく再生されては困る、取り戻されては困る一部の人々は
この抽象的な言葉から、脅威を感じ取ったであろう。
私たち日本国民は、彼を失って初めて
この言葉の中に込められた彼の真意を知ったのかもしれない。
《完》