殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

ニュータイプ

2019年02月26日 20時40分23秒 | みりこんぐらし
よその地方ではすでにポピュラーなのかもしれないが

つい先日、新種の詐欺もどきと触れ合ったので

したためておこうと思う。


夜7時、電話が鳴った。

いつものように我が家の電話番、義母ヨシコが出る。

しばらく話していたが、その電話を私の所へ持って来た。

「ちょっと話してみて。

うちにあるマッサージチェアを引き取ってくれると言うのよ」

「誰が?」

「産業廃棄物の業者。

マッサージチェアを引き取ってくれるんだって。

無料って言うから、お願いしますって言っちゃった」

うちには確かに壊れたマッサージチェアがある。

捨てるには大きくて面倒くさく、さりとて修理をして使う気にもならず

無用の長物として放置しているのだ。


すでに頼んだのなら電話を切ればいいものを

相手が何者であろうと、嬉々として話に乗ってしまい

個人情報をさんざんしゃべくりまわしておきながら

最終判断はいつもこっちに振る。

何か不都合が起きた場合、嫁という他人に罪をなすりつけられるからだ。


「初めまして。

わたくし、渡嘉敷(とかしき)といいます。

明日、そちらのご近所を回らせていただく予定なんですが

先ほどお母様とお話ししましたところ

壊れたマッサージチェアがあるとうかがいましたので

引き取らせていただくことになりました」

明るい声で立て板に水のごとくしゃべる相手は、30代半ばらしき男だった。


「本当に無料なんですか?」

「はい、引き取りに費用は一切かかりません」

「引き取りにお金はかからないけど、他にはかかるわけですか?」

「いえ、そのようなことはありません。

奥様、よろしければそのマッサージチェアを見させていただいてですね

査定をさせていただきたいんです。

現物を見なければ、はっきりしたご返事はできませんが

品物によってはお値段がつきます」

「動かないのに?」

「壊れていても、部品を取ったり金属を再利用したりと

使い道があるんです。

その場合は買取りということで、現金をお支払いさせていただきます」

「使い道が無い場合は?」

「引取りということで、無料で引き取らせていただきます」

「なぜ?なぜ不用品を引き取る上に、お金までくださるの?」

「はい、ご質問ありがとうございます。

先ほどお母様にもご説明させていただきましたが

わたくしどもは産業廃棄物の仕事をしておりまして

その関係で、ご家庭の不用品を集めております」

「なるほど‥」


私に産廃業者を名乗ったからには、ちょいと突っ込ませてもらおうやないかい。

なぜなら私にとって産廃は、未知の分野ではないからだ。


我々一家が生息するのは、建設業界。

その建設業界の中で、うちの業種は建設資材の卸業と運搬である。

一見、産廃とは無関係に思えるが、30年ほど前に条例が変わり

資材運搬の際に発生する粉塵(ふんじん)‥

つまりチリホコリの類いに注意を払うという見地から

産業廃棄物の取扱い免許が必要になった。

機会があったら、町を走る大小のダンプの横っつらを見ていただきたい。

産業廃棄物取扱いの認可番号が、小さく書いてあるのを発見できるはずだ。


産廃には少しばかり詳しいもんで、こっちは強気。

「本社、どこ?」

私は横柄に問うた。

「大阪の〇〇商会といいます」

「認可番号、教えて」

「え‥それは今、ちょっと‥わたくしには‥」

「ふ〜ん、まあいいわ。

沖縄出身であろう渡嘉敷さんが電話をかけて

大阪からわざわざ人が来て、一軒ずつ回るわけね」

「はい、そうです」

「 遠くから来て、そんなもん引き取って

状態によってはお金まで払って

交通費やら人件費やら宿泊費やらの経費はどこから出るの?

引き取った物をいったん置く、広い場所も必要よね。

赤字じゃない」

「ご質問、ありがとうございます‥」

「今のは質問じゃないよ、断定」

「は‥はは‥」

小さく笑ってごまかす渡嘉敷。


そして渡嘉敷は、次の手段に出た。

「あ、奥様、うちはマッサージチェアだけでなく

古いエレクトーンやケース入りのお人形なども

引き取らせていただいて、大変喜ばれております」

行き詰まると話題を変え、次のステージに進むのが

この男の手口らしい。


「エレクトーンと人形?」

壊れたマッサージチェアを始め、古いエレクトーン、ケース入りの人形‥

我が家のスペースを陣取る三大悪の名を聞き、私の心は揺れる。


「エレクトーンのほうも査定させていただきますよ。

値段が付かなければ、そのまま置いて帰らせていただくこともございますが」

「最初は引き取るって言ったじゃん」

「それは‥いずれにしても現物を見させていただいてからですね

お返事させていただくということで‥

あ、奥様、マッサージチェアは倉庫かどこかに置いてあるんでしょうか?」

また話題を変える渡嘉敷。


「家の中よ」

「では明日、お家の中で査定させていただくということで

お時間のほうは、午後1時くらいでいかがでしょうか?」

こうしてうっかりイエスと言わせるのが、こやつの戦法らしい。

人のいい老人なら、ひとたまりもないだろう。


「じゃ、1時に門の外の車寄せに置いとくから持って帰って」

そう言ったら渡嘉敷、慌てる。

「奥様、それはちょっと困るんです‥」

「何で?」

「あの、直接お目にかかってお話をさせていただきたいと‥」

「不用品を回収するだけでしょ?何の話があるのよ」

「査定が‥」

「査定はけっこうよ」

「いえ、あの、お値段がつかなかった場合

置いて帰らせていただくことになりますし‥」

「エレクトーンや人形は出しません。

マッサージチェアだけにしとくわ。

あんた、引き取るって言ったんだから」

「そういうわけには‥」

「何よ、はっきり言いなさいよ」

「ご覧いただきたいものがありましてですね‥」

「何?」

「新しいマッサージチェアを見ていただければと‥」

「産廃業者じゃなくて、本当はマッサージチェアを売る人?」

「いえ、あくまでご参考までにですね‥」

「いりません」

私は電話を切った。


家に上がり込むために産廃業者のふりをして、マッサージチェアを査定。

適当な値段をつけ、それを内金ということにして買わせる手口だと思う。

トカシキでなくインチキだった。
コメント (8)
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