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うぐいす日記・③

2011年04月19日 11時34分20秒 | 選挙うぐいす日記
“うぐいすは、和を尊重する。

 車内はもとより事務所全体の和を図るため、最大限の努力をする。

 言うまでもなく、うぐいす同士の和は最も大切である”

私はこれまでそう考え、可能な限り実行してきたつもりだが、今回は通用せず。

連日選挙カーで繰り広げられた、数々のショボい出来事こそ

この選挙のすべてを物語っていたと言えよう。


まずは消耗軍団ご推薦のうぐいす、美香子。

30代後半の彼女は、戦歴2回。

この子は告示の数日前、皆で揃いのジャンパーを着て

町をお願いに歩くイベントに参加した。

そして対立候補の事務所前まで来た時

消耗夫人と2人でうっかり通行人に手を振り、お辞儀をした。


「人の事務所の前で、何やってんだ!」

何をやろうと本当は自由だが、気の立っている者を刺激すると厄介だ。

相手陣営の人々は2人を取り囲み、一触即発の事態となった。

女の物知らずということで、その場は収まったものの

夜になって相手の支援者がこちらの事務所に怒鳴り込んで来て、モメたのだった。


こちとら気の小さい男ばかりの陣営であるから

告示日まで、揃いのジャンパーは着ずに活動することが決められた。

「私達は度胸があるから、囲まれてもひるまずに文句言ったけどね!」

悪びれるどころか、はしゃいで武勇伝にしたがる美香子と消耗夫人。

小さなことが発端で志気を下げ、活動に支障をきたすのがわからないのだ。


この一件で美香子は、かなり危なっかしい女と判明し

彼女のうぐいす計画は、私の関知しないところで、かき消えた。

しかし美香子が事務局長と候補夫妻に泣きついて、収まりがつかなくなり

シブシブうぐいす部隊に加えることになった。

泣いて勝つというやつである。


告示直前の打ち合わせでは、開口一番

「私はプロに習ってますから!」と挑戦的だ。

うぐいすって最初はたいてい、座席の横にプロが座っている。

その場所で「続けたい、うまくなりたい」と思うものなのだ。

それを座ったと言うか、習ったと言うか、表現の違いだけである。

まことのプロの教えを受けたなら

「落選と違反失職の選挙しか知りませんが、乗っていいでしょうか?」

とへりくだるのが、正しい挨拶であろう。


美香子がプロとあがめる婆さんは、昨年の市議選で

「せいぜい頑張ってくださ~い」と感じの悪いコールを連発していた

年寄り臭い鼻声の、自称プロである。

消耗軍団は最初「プロを雇え」と主張していた。

美香子の手引きで、この婆さんも参戦する手はずになっていたのだ。

軍団の期待を一身に背負って臨んだものの、クビになりかけ

どうにか復活を遂げた今、美香子が意地になるのも無理はない。


この後、美香子は

「サンバイザーは?ハチマキはするんですか?」

などと、つまらぬことばかり質問する。

せめて形だけでも、陣営の特徴や候補の政策をたずねてほしいものだ。


さらに問題は見た目。

好感度が命のうぐいす稼業…地味や不細工という世界ではなく、突き抜けている。

我が夫は彼女を見て

「人がいないと言ってたが、出稼ぎの中○人まで使ってるのか?」と聞いた。

なんて失礼な…中○人は、もっと美しいぞ!


初日にやってもらったら、とりあえずマニュアルどおりにこなしているレベル。

   「美香子さん、上手だわ~!」

とほめると

「あんまりうまいんで、びっくりしたでしょ」

冗談かと思ったら、真剣である。

あんた、おつむは大丈夫か?


可もなく不可もなく、ついでに声のハリもなく

昭和の古くさいセリフに、通らないハスキーボイス…

興奮してすぐ外気を吸い込むので30分以上持たず…あ、つい本音が…。

時折候補の名前を間違えるのは、ご愛敬ということにしておこう。

過去2回の経験は、いずれも同じ候補であったから、無理もないのだ。


もう1人のうぐいす、ラン子は私より3才年上。

戦歴は美香子と同じ、この候補だけの2回だ。

美しく気配りがあり、度胸が据わっている。

技術はともかく、この町の生えぬけで知り合いが多いのが

ラン子最大の長所であった。


ラン子は運転免許が無いので、通行車の誘導ができない弱点があるが

それをカバーして余りある票を持っている。

車関係は私が交代したり、横でセリフをつぶやいていた。

美香子はそれをバカにして、鼻で笑った。

たしなめたが、手遅れ…ここから美香子とラン子のいがみ合いが始まった。

一本気なラン子と、自信満々の美香子…この2人が

仲良くできるはずは無かったのだ。


「ここは、あんたがやってたオレ様事業主とは違うのよっ!

 上から目線のしゃべりは、よしてちょうだい!」

「ほらほら!いきなり大声で叫ぶから、お年寄りがびっくりしてるじゃないの!

 うちの候補は、こういうことを一番嫌がるのよ!」

この陣営での経験を武器に、逆襲するラン子。

後部座席にうぐいす3人は無理があると判明したので

美香子とラン子を交代で、後続車のお手振りに回すことにする。


2日目の夜、選挙カーは美香子の家の前を通った。

5才と8才の彼女の娘が、窓から手を振っている。

美香子は我が子に晴れ姿?を見せたくて、張り切っていた。

「おうちには、2人だけですか?」

候補がたずねた。

「はい!主人は単身赴任中なので、毎日2人でお留守番してます!」


事務所に帰ると、候補が美香子に優しく言った。

「明日から、休んでください」

美香子、顔に“ガ~ン!”と文字が浮き出るくらいに驚愕している。

ラン子の喜ぶまいことか。


「おうちにお子さん2人だけでは、心配です。

 大事なお子さんに我慢をさせてまで、お手伝いいただかなくて結構です。

 どうかそばにいてあげてください」

教育関係出身の候補は、自分のために子供が犠牲になるのがつらいのであった。


                  続く
コメント (19)
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