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うぐいす日記・②

2011年04月15日 11時00分38秒 | 選挙うぐいす日記
《4月7日》

私はうぐいすとして、痛恨のミスをしたという思いがある。

昨年秋にやった若い市議、Yクンのことだ。

夢と希望に満ちており、暮らしやすい市にするんだと燃えていた。


しかし若さというのは、時に哀しいものである。

予想外の上位当選をした途端、人が変わったという話は聞いていた。

今回の県議戦では、ダミーとして白いタスキをかけ

選挙カーの助手席に乗り込んで、マイクでしゃべっていたのだ。


このタスキに書かれた名前は、対立候補のものなのか、Yクンの自前か

はっきりと判別はできなかった。

しかし助手席で、名前入りの白いタスキをかけてしゃべっていれば

知らない人は候補者だと思うだろう。

別人のタスキをかけるほどのおばかさんではないと、信じたい。


候補になりすましたダミーを乗せて、選挙カーを走らせている間に

本物が別行動をすれば、確かに効率は良い。

効率は良いが、有権者をだますことに変わりはない。


誰を応援しようと自由だ。

しかし公人として、やってはいけないことはある。

選挙カーには乗っても、タスキまでかけちゃいかん。

それをあえてすることで、媚び、忠誠を誓う。

魂を売った、恥ずかしい行為である。

元国会議員秘書の彼が、それを知らないはずは無い。

秘書時代からのつきあいで、断れなかったかもしれないが、残念なことである。


Yクンだけでなく、彼と同期でトップ当選した新人市議も

同じくタスキをかけて、ダミー役をやっていた。

この行為を立場の弱い新人市議に望む対立候補の人格も、およそわかるというもの。


Yクン、すれ違う時に、私を見て下を向く。

顔が合わせられないなら、やるなっちゅうんじゃ。

今後は、市議の監視活動をしようと心に誓う。

自分の失敗の後始末だ。


夜の活動終了直前、事務所前で、対立候補の選挙カーとすれ違う。

双方のうぐいす、しおらしく「ご健闘をお祈りいたします」と言った後は

息継ぎ無しでガンガン言い合う。

負けん気と肺活量が問われる女の勝負だ。


興味の無い人にはうるさいだけの、これが“選挙の華”と呼ばれる

うぐいす合戦である。

出迎えに出ていた人々は、大喜び。

タイミング良くサービスができて、良かったと思った。


《4月8日》

「あっちの選車はどんどん回って、街頭もじゃんじゃんやっている。

 こっちは動きが鈍い」

男達が声を荒げて、激しく言い争っている。


こちらの動きが鈍く見えるのは、当たり前だ。

対立候補は政党の公認をもらっているので、活動の幅が広がる。

党の街宣車も応援に入るし、選挙カーをよそで走らせながら

別の場所で演説ができるのだ。


今になって口喧嘩を仕掛けるのは、負けた場合の保険である。

「あれほど言ったのに、聞かなかったから」と、うそぶいていればいいからだ。

興奮してうるさく言うのは、最近になって顔を出し始めた人ばかり。

告示前には「忙しくて、どうにもならない」と来ず

選挙戦が始まった途端、毎日来られるのは不思議だ。


《4月9日》

最終日。

事務所の人々は「いよいよみりこん劇場が始まる」と口々に言った。

「これに最初にだまされたのが、あの旦那さんだよ」

と、わけ知り顔で勝手なことを言う者もいる。

何とでも言うてくれぃ。


夜、活動が終わって事務所へ到着し、握手とハグの嵐。

あんまりハグしたくないおかたとも、手を広げられたら拒否できないのは

いつも少々つらい。


《4月10日》

投票日。

昼過ぎから選挙事務所の電話番をするが、1本もかかってこない。

寄せてくる波みたいな、空気の勢いを感じない。

悪い予感的中か。


負けた後の片付けはつらいものだ。

明るいうちに、事務所内をできるだけ片付けて

夜の結果待ちのために、会場セッティングをしておく。


候補敗戦の弁「負けて悔いなし!」

対立候補の地盤の、驚異的な投票率に負けた。

ここを崩せなかったのが、敗因のひとつである。


こちらの市内での得票数は勝っていたのを知ると

皆、たいそう喜んで拍手した。

対立候補も、公認をもらっておきながらこの結果であれば

今後はそう勝手なことはできないだろう。

小さいとはいえ、一石を投じられたのではないかと思いたい。

雨の日も雪の日も、地道に家々を回り続けた人達だって、わずかだがちゃんといた。

その功績に報いることができず、私も責任を感じている。


そしてもしも勝っていたら、候補一家は

消耗軍団に生涯つきまとわれる羽目になっていただろう。

「勝たせてやった」と一生言われ、生き血を吸われ続けるのも

なかなかつらそうだ。


彼女達だけではない…この陣営には、自立していない者が多すぎた。

当選のあかつきには、あわよくば秘書に…事務員に…就職の世話を…

選挙につまらぬ下心を持つ個人は、どこにもでいるが

今回は、その種の人間の割合が圧倒的に多かった。


彼らが持っているのは、票ではなく

微量のギブによって得る豪勢なテイクへの期待のみ。

早めにセーブしないと、やがて真面目な支援者の数を大きく超えてしまう。

バランスは大事だ。


ああしていれば…こうしておけば…後になって、皆ゴチャゴチャ言う。

口先だけで行動しなかった者ほど、その声は大きい。

   「候補は負けたのではありません。

    恥ずかしくない得票数を得た、次点ですからね。

    あちらが無事、任期を全うできるかどうかは、誰にもわからないのです」

私はそう述べる。

我ながら、負け惜しみもいいところだが

一生懸命やった人達に対しては、この言葉が一番のなぐさめになると思う。

    「0.1%の可能性に賭けるのです!」

候補が演説する際の口癖であった。


Yクンのことといい、勝っても負けても、それが本当に良かったか悪かったか

今の時点ではわからない。

目先の結果の、その先を見届けるのも、選挙戦に関わった者の使命だと思っている。


                   続く
コメント (24)
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