殿は今夜もご乱心

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一人うぐいす

2010年11月15日 00時41分16秒 | 選挙うぐいす日記
選挙戦直前…正確には5日前になって、参戦を決めたうぐいすであるが

私には、急いでしなければならないことがあった。

もう一人、うぐいすを確保することである。


選挙カーというのは、ご存知のとおり

4人で乗り込むのが望ましい。

前後左右の四方に目を配り、手を振って、有権者にアピールするためだ。

しゃべってないほうのうぐいすは、家の中や、遠くで手を振ってくれる人々を

いち早く発見し、応えなければならない。

「せっかく手を振ってやったのに、気づいてくれなかった」

という不満は、そのまま票に影響することがあるし

苦情の電話がかかることもある。

なにより、手を振ってやろうという気持ちに対して、申し訳ないからだ。


うぐいすの経験があれば、およそどんな所に人がいるとか

手を振ってくれるかとか、友好的感情があるかどうかなどがわかる。

外を回って感触をつかむのも、大事な仕事である。

だから、後部座席に乗り込む二人は、両方うぐいすのほうがいい。


私は前回、前々回と市議選で組んだ、ちょっと年上の女性に電話をしてみた。

一から教えた人だ。

うぐいすが好きというより、根っからの選挙好きで、技術の習得もめざましく

声をかけられたことを気持ち良く喜んでくれた。

うぐいすなら誰でもいいわけではなく、こういう相棒に恵まれてこそ

良い仕事ができる。


しかし残念なことに、仕事で自由がきかないと言う。

この人も無職だった以前とは違い、今は働いている。

離婚して一人身のため、選挙ぐらいで休むわけにはいかない。

初日の午前だけなら、手伝わせてもらいたいと言うので

それでもいいから…と頼んだ。


これでどうにか、出陣式の格好はついた。

私一人でもいいようなものの、年寄りばかりの陣営だし

一回落選しているため、少しでも華やぎが欲しい。

我々も年寄りの部類ではあり、華やぎと言うには図々しいが

勢いみたいなものは、出そうな気がする。


私はそのまま、2日目以降のうぐいすを探すつもりだったが

候補も、とある支持者に頼んでいるという。

「任せておけ!と言われているので、もういりませんとは言えないんです」


候補に、その支持者の名前を一応聞いたが

私個人の感想としては、うぐいすを集められるおかたではない。

特殊な人材を急に調達できる人物というのは

「あんたのためなら死ねる」という人間を

日頃から何人もはべらしておくような器でないと、無理なのだ。

しかし自分の主張だけ通すわけにはいかないので

私のうぐいす集めは、それで終了する。


前日になって、候補は頭を抱えた。

やはり無理だったのだ。

任せておけと言った支持者は「聞いてない」と言ったそうである。

そういうもんさ。

選挙を知らないヤツほど、最初は威勢がいいけど

だんだんしぼんでくるものなのさ。

口ではえらそうなことを言っておいて

内心では、どこかで誰かが何とかするのを、ひそかに待っているのだ。

解決したところで出てきて

「こっちも用意していたのに…」と言う種類の人間は多い。


金曜と、最終日の土曜には、候補の姉が仕事を休んで乗るそうである。

独身で顔は可愛いが、肥満いちじるしく、機敏な動きは望めそうにない。

声はよく通って、いい感触だけど、まったく初めてだという。

あてにはできない。


「今後のために、金、土の2日間で、姉を鍛えてやってください」

と候補は言う。

弟のために、仕事を辞めるくらいの根性は欲しいが

あの体では、一度辞めたら再就職は難しいであろう。


「僕も頑張って、これからまた探して…」

それを制して、私は言った。

     「もう、余計な人件費は使いなさんな。一人でやります」

「え…でも…きついですよ」

     「いい!

      明日には始まるのに、今頃うぐいす探してたんじゃあ、笑い物よ」

「いいんですか…?」

     「やったろうじゃないの!」

「…なんか、僕も燃えてきました!

 みりこんさんがそこまで言ってくださるなら

 僕もみりこんさんを助けて、しゃべりまくります!」

     「ワハハ!候補がうぐいす助けてどうするんじゃ!

      いいよ、これで腹が決まった。

      しがらみのない私しか言えないコールを

      叫びまくってやるわよ!」

そんなわけで、選挙戦の幕は切って落とされたのであった。
コメント (38)
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